日付もとうに変わった頃、早めにシャワーも済ませオレはぬくぬくと暖かい布団にくるまって腕だけ出して小説を読んでいた。
「あーッ、さみィ」
本当に洗ってるのか? そんな早さで靖友は体を震わせながら風呂場から出てくる。シャワーだけでもちゃんと時間をかけて浴びれば、それなりに体は温まるはずなのに。靖友はいつもさっさと出てきてしまう。
「靖友、ちゃんとあったまってから出てこいよ。風邪ひくぞ」
「めんどくせェ」
「いや、面倒くさいじゃなくて……」
がばっと布団を捲られて、潜り込んできた体は少しも温まってなくて、それどころか冷たくなってしまっている。そっと髪へ手を伸ばせば、その髪はやっぱり湿っていて、これじゃ絶対風邪をひいてしまう。
「せめて髪はちゃんとかわかせって」
そう言って布団から追い出そうとした手を掴まれて、体ごと靖友の腕の中に引き寄せられる。ぎゅっと抱きしめられて靖友の鼻先が首筋へと埋まっていく。そのくすぐったさに力が抜けた所に、冷たいものが足のこうへとくっつく。あまりの冷たさに小さく悲鳴を上げて、足を引いてそこから離れる。すぐに追ってきたそれは靖友の足で、オレの熱を奪うようにまたピッタリとくっつけてきた。
「靖友、やめろって!」
「んだヨ。こんだけあったまってんだからいーだろ」
「やだよ。オレが溜めた熱を奪うな」
「ケチくせェこと言うなって」
抱きしめていた手の片方が、スエットの裾から脇腹をなぞって入ってくる。その手の冷たさにも体がびくりと震えてしまう。
「もう、靖友ヤダってば!」
ぐっと靖友の体を離すように押しやって、じとりと睨むように見つめる。じっと視線を返してきた瞳がふっと揺れて、靖友は少し首を傾げた。
「オレに触られんのそんなにイヤ?」
少しだけ寂しそうな口調で、眉もいつもより下がってる。
「ちがっ、イヤじゃない。ただ、冷たいのがヤダってだけで……」
慌ててフォローするようにそう言えば、上目づかいで顔を覗かれた。
「じゃ、触っていい?」
「……いいよ」
瞬間、口角を上げた靖友はしおらしさの欠片もない顔をしている。
――くっそ! 騙された。
唇を寄せながら腰の辺りを触ってきた靖友の手は、もういつもの温度に戻っている。でもオレは何だか悔しい気持ちでいっぱいだったんだ。