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    いた。

    ロ兄の虎受にお熱。絵と字。日々精進。
    @ita1219

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    性癖バトル💥『宿にトチ狂ったヤンデレゆじ君』にて
    生前様のことが大大大好きな呪詛虎ちゃんが奮闘したりハァハァしたり失神したりする話
    👅(→)←←←←←←🐯ハァハァハァスキィ…(鳴き声)
    息を吸うように生前様が現代に居る。捏造しかない。カニバ表現あり

    #宿虎
    sukuita
    #生前宿虎
    livingTigers

    Bon appétit 宿儺様の舌は肥えている。
     巌のように大きな体格に相応な、という意味じゃなく

    「不味い」

     食に並々ならぬこだわりがあって、良し悪し好き嫌いがハッキリしてるってこと。
     本日宿儺様に召し上がって頂いたお夜食は、五香粉が香るダージーパイ。しっかりと下味をつけたムネ肉に衣をつけ香ばしくカリッと揚げたものだ。それと、スネ肉のソルロンタン。肉と骨を煮込んで作るシンプルなスープ料理。太い脛を骨ごとぶつ切りにし、二時間ほど煮詰めたから骨髄まで煮出され、スープはとろりと白濁している。筋肉のなかでも特に発達していて脂肪が殆どなく引き締まっている赤身はじっくり煮込むことでホロホロにした。けれど──

    「好みじゃない味だった? それとも火入れが失敗してる…?」
    「そうではない。獲物の見て呉れに騙されたな、悠仁」
    「……うわ、マジか」
    「過度に膨らませた肉の歯触りが気色悪い。不愉快な雑味もあるな」

     宿儺様は今日も手厳しい。独特な言い回しでの味の所感だけでなくヒントを添えてくれるのがせめてもの救いだ。つまり今回の問題は味付けじゃなく、夕方に調達した材料自体にある。
     スポーツジムのインストラクター、がっちり体形、三十代、男。
     俺よりもずっと大きく逞しく鍛え上げられた肉はさぞかし食べ応えがあるだろうと意気揚々仕留めたのに、どうやら肉体美自慢の男が身に着けた筋肉は本物ではなかったらしい。ステロイドでも使ったか。本来大きくなりすぎないようにできている人体を短期間かつ劇的に巨大化させる薬には、その手軽さや見栄えと引き換えに副作用がある。肝障害や頭髪の脱毛、睾丸の萎縮や心筋梗塞などなど。そんなリスクと共に、筋肉へ不自然な負荷をかけるのだから、味にだって影響するんだろう。
     ただ、そんなことは見ただけでは分からないし、もちろん味見したって分からない。
     宿儺様は、それを一口食べただけで看破した。凄いとしか言いようがない。

    「ケヒ、まだまだだな。もっとよく裏梅に師事し、励めよ」

     俺はがっくりと肩を落とし、お膳台を下げて退室した。そして、抑えきれない笑みを浮かべる。だって、ああ言いながらも宿儺様は、しっかりと食器を空にしてくれたから。
     宿儺様の為に作った料理を残さず食べて貰える喜びは、どんなデザートよりも濃厚で甘くて、幸せで堪らない気持ちになる。なにものにも代えがたい。生きて行く上で必要な栄養素と言っても過言じゃなかった。

    「梅ちゃーん、今日も完食してもらえた~♡」
    「良かったな」
    「でも肉質がダメ出しされちって…」
    「莫迦め。あれほど吟味しろと教えてやったろう」

     宿儺様の忠実な腹心であり板長でもある裏梅こと梅ちゃんにひっついて炊事場に入り浸っては料理の手伝いをして早三年──やっと宿儺様にお出しする夜食を任せてもらえるようになってから、更に一ヶ月が経っていた。
     食べては貰えるけど合格が出ない。来る日も来る日もダメ出しばっかりだ。悔しくて歯痒いものの、やり甲斐と充実感はある。
     取り柄と言ったら健康だけで、呪術の覚えが宜しくない俺に出来るのは、日々試行錯誤しての煮炊きと、小間使いみたいな雑用。それと、あんまり役に立たない化け物じみた反転術式。頭さえ残っていれば元通りにできる。
     それが分かったのは、宿儺様と初めて出会うことになる日の夜だった。
     役立たずの俺を置いて、術師連中の会合を妨害しに行った両親が失敗し、命からがら逃げ帰ったものの、追って来た術師達によって俺の目の前で呆気なく壊され、ついでに俺自身も巻き添えを食った。相手にそのつもりがあったかなかったかはさておき、頭と胴がお別れしたのである。まるで生きた魚の頭を落とした時と同じようにビクビク跳ねる体を横目に見ながら落下すると、転がって揺れる頭から新しい体が生えた。一瞬で。戸惑う俺よりもぎょっとして後退った術師達の動揺は痛快だったけど、空気が変わったのは明らかで、ああこれはもう絶対見逃して貰えないんだろうなと察した。ところが、どこからともなくゲラゲラと笑い声が聞こえたと思ったら、俺以外の全員が小間切れになった。もちろんその時は誰のせいなのか分からなかったけど、宿儺様の仕業だった。騒がしい連中の気配を消しに来たのだと、うるさいテレビの電源を切るような気軽さで言う低い声は今でも耳に残っているし、気怠げなあくびの吐息さえ、忘れられない思い出。痩せ細った俺を盾にしようとした両親の無様な死顔を掻き消すほど、鮮烈な。
     夜目に慣れた俺が闇の中で見たのは、月光に淡く縁取られた見上げるほどの巨大な輪郭。その真ん中に浮かび上がる白い粒の列が上下に近付いては離れ、静寂の中で湿り気を帯びた咀嚼音だけが規則的に続き──月の下で見る血は赤ではなく黒いのだと知った。ほんのり甘く香ったのは、こぼれた命の雫のぬかるみが放つ芳香か、あるいは黒く濡れ光る肉塊を太い両脚で踏みつけ四つの腕で引き裂き覆い被さる生き物の荒々しい呼気。
     禍々しくも美しい六肢の獣に、俺は見惚れた。それが千年を生きる呪いの王との初めての出会い。

     誘蛾灯に惹き寄せられる羽虫のように、俺は宿儺様について行った。どうせ天涯孤独で行き場なんてなかったし、生きる目的もない。なんなら殺されたって構わなかった。でも宿儺様は何も言わないし何もしない。どういうお考えなのかさっぱり分からないけれど、梅ちゃんは意を酌んだのか、俺を追い出さずにお屋敷に住まわせてくれた。美味しいものをたくさん食べさせてくれた。だから都合の良い解釈をすることにして、堂々と居座った。そもそも俺なんか底辺すぎて眼中にないんだろう。それで良かった。俺はただただ身の程を弁えて、宿儺様のお姿を遠目に見ては、ほぅと溜め息をつくだけの存在でいい。
     月下で出会った獰猛な獣は、明るい陽の下にあってより一層に威風猛々、近寄りがたいほど雄々しく、王に相応しい出で立ちだ。ただでさえ一目惚れめいて盲目的だった俺が更に魅了され、深く慕うようになるのは、新しい枕に慣れるよりも早かった。
     宿儺様は本当に特別だった。他者に圧倒的な理不尽を振りまく為に存在している。厄災だ。何をも省みない、誰をも顧みない。思う儘に生きることができる揺るぎない強さがある。世が世ならそれこそ神と崇められていたに違いない。少なくとも俺にとってはそうだ。この世は宿儺様か、それ以外かだ。いつまでもお側に居たい。自分にできることなら何でもやりたい。何でもする。それが俺の原動力だった。

     宿儺様は食べること、特に人間の肉がとてもお好きだ。なので俺は、おつかいなんかで街に行った時においしそうな人を見つけると、つい殺してしまう。後先考えずに計画性もなく衝動的にやるから、よく現場を通行人に目撃されて、悲鳴を上げながら通報された。すっトロい非術師の警察なんかに捕まるわけがないけど。
     とにかく、宿儺様が喜んでくれるかも知れないと思った瞬間に理性も倫理観も我慢も全部パーになるからいけない。
     そんなワケで、俺は絶賛修行中だ。ちゃんと良い食材をしっかり目利きできるよう。もっともっと料理の腕を磨いて、宿儺様においしく食べて欲しい。
     そしていつか『旨い』と褒めて貰えたなら……俺はきっと嬉しくて死んでしまう。

     だから──

    「ワリィ、俺の王様の為に死んでくれ♡」

     今日も今日とて、獲物を物陰に引きずり込んで頸椎を素早く捻り、まだ心臓が動いている内に頚動脈をナイフで断ち切って、その場で血抜きして締める。そうすれば味が落ちない。
     ──ビクン!と一度大きく痙攣し、物言わぬ素晴らしい食材へと変貌したのは、二十代ぐらいの女。健康状態は良好。飲酒喫煙歴がないのも確認済み。これには理由がある。以前、酔っ払いを仕留めたら日常的なアルコールとニコチン摂取中毒者であり、宿儺様は料理に口を付ける前に「臭い」と盛大に顔をしかめたからだ。あと、食生活が乱れているのも駄目。ファストフードやコンビニ弁当で形成された肉は酸化していて酷い味だと釘を刺されたし、若い子でも市販薬の過剰摂取なんかしてると汚染されてて食べれたもんじゃないらしい。「食材の味は何を食べて育ったかで決まる」と教えられた。なので、最近は狙った獲物にすぐ手は出さず、後をつけて生活習慣を探ってから襲うようにしている。条件を満たしている食材に出会うのは、なかなかどうして難しいけれど、本日のお肉は間違いなく上物な筈だ。
     明日のテレビニュースは、また賑わうんだろう。致死量の出血が残っているのに死体が見つからないと。謎の連続失踪事件は解決するのか、なんて散々不安を煽ったって、真相は胃袋の中──永遠に解決しやしないのにね。

    「梅ちゃーん、いい肉が手に入ったよ~!」
    「ふむ、うまく血抜き出来ているし、状態も申し分ない。これなら臓物も全てお出ししていいな。やってみるか?」
    「マジ?! やった…!!」

     調理が難しい内臓を初めて任せて貰えたのが嬉しくて、思わずガッツポーズしたら「厨では無駄な動きをするな」と怒られた。
     俺は気を取り直して、解体したパーツの中から肺を取り出し、イチョウ材の分厚いまな板に載せ、上から両手で圧迫し余分な空気を抜いていく。このままじゃ切り難いし、下茹でする鍋に入らないからだ。宿儺様が食べない部位はない。新鮮な腎臓は脂肪と筋を取り除いてネギと一緒に甘露煮に、濃厚な肝臓は出汁で炊いてからバターソテー、脳は丁寧に裏漉ししてから銀杏を入れ茶碗蒸し。腸は塩漬けにしておいて、明日の朝たっぷり肉を詰めてソーセージにしよう。使いきれなかった部位はきちんと下処理して冷蔵庫に保管しておけばいい。
     綺麗に盛りつけた料理をお膳台に載せて、少し緊張しながら宿儺様へと運んだ。

    「見慣れぬ品があるな」
    「インドネシアの伝統料理のバラドパルをイメージしてみたんだけど…口に合わんかったらごめん」

     コブミカンの葉で爽やかな柑橘の風味を付けて唐辛子とにんにくで炒めスパイシーに仕上げた肺を、宿儺様が箸でつまんでしげしげと眺め、俺の説明に頷く。そして食欲をそそる香りを鼻腔に含むように目を閉じ味わったあと、ゆっくり口へ入れた。ふわふわとした柔らかさと弾力を兼ね備えた食感を愉しむように咀嚼し、やがてコリコリと軟骨質の気管支を噛む音が軽やかに聞こえて来る。
     ──宿儺様に噛み締められ体内で消化され血肉になれるなんて、あの肉が羨ましい。…俺だって本当は──
     仄暗い欲求を押し隠し、そっと様子を窺うと、宿儺様と目が合った。心臓が跳ねる。

    「今回の食材の調達もお前が?」
    「そ、だけど……またなんかダメだった…?」
    「いや、良い肉だ。甘やかされた柔らかさに素直で無垢な風味…悪くない」

     その瞬間湧き上がったのは、信じられないぐらいの歓喜と、一匙の嫉妬。
     宿儺様が褒めた名前も知らない女への醜くドス黒い感情が、煮凝りのようにドロリと渦巻いて冷え固まる。食材を羨ましがるなんて狂気の沙汰かも知れないけど、俺は宿儺様が関わる全てのことに執心し心が狭くなるからどうしたって我慢できない。しかもそれが、宿儺様が一番道楽にしている『食』についてなら、気にならないなんてこと無理だ。もし食べて貰えたのが俺の肉だったならと、あらぬ夢想までしてしまう。
     けれど宿儺様は、どんなに空腹になっても、絶対に俺を食べてくれない。
     たくさんの量が必要な時はお腹の大きな口で手当たり次第に貪って、小腹が空いた時や料理を愉しみたい時は適宜調達調理された物を上の口でゆっくり味わう。そのどちらのチャンスにも、俺が恵まれることはなかった。悔しい。俺だって献身したい。どうして悲鳴を上げて逃げ惑う無礼者の方が、その誉望にあずかれるのか。
     いつだったか、焦れて焦れて、耐えかねて、宿儺様のお腹の口に右手を肘まで突っ込んでみたことがある。けれど、肌の表面を辿り爪の一枚一枚や指の一本一本を舐められた後、やんわりと大きな舌に押されて口の外に追い出された。思わず傷ついた顔をし固まると、宿儺様は子供をあやすように俺の頬を撫でるだけで、何も言わない。俺はその大きな掌へ顔と涙を擦りつけた。
     それでもやっぱり、たとえ疑似的にでもいいからその感覚を味わいたくて、俺は自分の体内を綺麗に洗浄し、宿儺様が食べやすいよう下拵えするように窮屈な下の穴をほぐして、少しでも美味しそうに見えるよう飾り切りを施した着物を纏って、自ら皿の上に乗ったことがある。文字通りの据え膳ってやつだ。
     宿儺様は面白いものを見るような目をしたあと、俺を平らげてくれた。圧しかかった巨躯に体を割り開かれ、奥を貪られる恐悦は言葉にならないほど幸せだった。けれど、所詮は代替行為。どこか虚しく満たされなかった。だから、いつか必ず本当の意味で俺を食べて貰うと決心した。

    「っしゃあ…ついにこの時が来たぜ」

     内臓の調理を俺がやって以降、板前を俺に譲った梅ちゃんは、宿儺様が興じる術師狩りのお供で居ない。その間に、俺は斧に似た形の肉切り包丁で自分の左腕を切り落として、徹底的に下処理を施す。俺の肉を口にしたがらない宿儺様が、万一にも俺だと気付かないように。ちゃんと無くなった腕も反転術式で元通りにした。今まで使い道がないと思ってた能力だけど、きっとこの日の為に備わっていたんだと思う。生まれて初めて感謝した。
     そうだ今日は洋風にしよう。

    「どうぞ召し上がれ♡」
    「ああ、いい匂いだ」

     いつものように宿儺様の為だけに用意した何品もの料理の中に紛れ込む、密やかな俺の欲望。
     じっくりとオーブンでローストした腕肉に、バルサミコ酢とイチジクのソースをかけた。味はもちろんだけど、花嚢の内部に無数の雄花と雌花をつける秘したエロチズムとグロテスクさが好きだ。

    「……ッぁ──」

     宿儺様の形の良い唇が柔らかく開いて、分厚く赤い舌が優しく俺を迎え入れる。口内であちこち捏ねまわされ、硬い歯列で噛み砕かれ、磨り潰され……ごくりと喉仏が上下し、太い首の中にある食道を通って、焼ける胃酸の海に飛び込んだ。俺が宿儺様の腹を満たしていく。

     ──あぁぁぁ…ッッ

     喉をさらし悶え大声を上げて叫びたいのをどうにか我慢して、小刻みに震える身を掻き抱く。
     これからゆっくりと消化されて、宿儺様を形成する細胞の栄養になれるのかと思うだけで、ワケが分からないぐらいゾクゾクする。居室の端に控えて、食べる所を見ているだけなのに、宿儺様が意図的に避けていた俺を内緒で食べさせてしまった背徳感と、やっと俺を食べて貰えた甘美な歓喜で堪らない気持ちになって、興奮を抑えられない犬のようにはぁはぁと息を荒くさせた。トロ火で炙られてるみたいに体の奥と顔が熱い。
     宿儺様は、そんな俺に気付いていないのか、それとも料理に集中しているだけなのか、黙々と食べ続けている。自惚れじゃなければ、熱心に。だとしたら嬉しい。生まれてこのかた病気一つしてないし、酒もタバコも薬もやってなくて本当に良かった。そりゃ確かに、昔はひどい衛生環境で体中は薄汚れていたし、カビの生えた残飯で育ったから痩せ細ってたけど、宿儺様のお屋敷に来てからは良い物しか食べていないし安眠できるし目の保養もあって心身共に健やかすぎる。自分で言うのもなんだけど、かなり肉質は美味しい筈だ。
     宿儺様は最後の一口を食べ終えると、全ての目を閉じ、味の余韻に浸るような悩ましい吐息を、そこに残る僅かな風味さえ手放すのが惜しいように吐き出す。そして──

    「…旨かった。今まで口に入れた物の中で一等」

     俺は失神した。


     ◇ ◇ ◇


     人の細胞は日々生まれ変わる。そのサイクルは部位によって様々だが、最も短いのは胃腸だ。わずか数日で全ての細胞が新しく入れ替わる。皮膚は一ヶ月、血液は四ヶ月、内臓は一年、最も遅いのは骨で二~三年かかる。

     ──今日は、俺が宿儺様に俺を食べさせ始めてから丁度三年経った日だ。

     乱れた褥から起き上がって、隣でまだ眠っている宿儺様をうっとり眺めつつ、起こさないようにそっと赤錆色のごわついた髪を指で梳き、呪印の浮かぶ肌を撫でる。その下には、みっしりと充実した筋肉と脈打つ臓器、それを支える骨があって、そのどれもが俺のものだ。一番近くで何の隔たりもなく誰にも邪魔されずに一緒に居られる。これ以上の幸福なんてない。
     さぁ、早起きして朝食の準備に取り掛かろう。宿儺様は朝だろうと食欲旺盛だ。
     夜伽の名残を洗い流すついでに、ガットナイフで自分の胸から腹を手早く切り開いて肋骨を広げ、あたたかい心臓を取り出す。今日は特別な日だから、どうしてもこれを使いたい。

    「あ~…宿儺様の肌も髪も筋肉も骨も血も内臓にも俺が居るってホント最高…♡」

     鼻唄を歌いながら、薄暗い調理場に明かりをつけ、冷蔵庫からピキオを取り出す。ピーマンを炭焼きにし皮を剥いてヒマワリ油に漬けたものだ。フランス南西部やスペインでよく食べられている。そのピキオと、スライスした心臓にアヒソースで下味をつけてから、串に刺してグリルでこんがり焼いた。宿儺様の心を料理で串刺しにするつもりで。
     この心臓と引き換えに、ついに己の罪と愛を告白するのだ。

    「……あのさ、俺ずっと黙ってたことがあって──」

     起き抜けの色気が濃く残る宿儺様の前に膝をつき、湯気を立てる朝食を配膳して、その場で小さくなりながら意を決し口を開く。宿儺様は、食べ終わるまで待てなかったのかと言いたげに片眉を跳ね上げてから、それでも俺の心臓を噛んで串から引き抜いて美味しそうに噛み締めつつ「なんだ」と続きを促してくれた。

    「──実はそれ、俺の心臓、なんよね」

     バクバクと、まるで直に噛まれているかと錯覚するほど不規則に脈打って痛い心臓を胸の上から手で押さえ、尻すぼみになりながら秘密を打ち明ける。

    「この三年間、宿儺が美味しいって食べてくれてたお肉、全部俺だから」
    「ふむ…何故そうした?」
    「なんでって、そんなの──」

     宿儺様のことが好き過ぎるからに決まってる。宿儺様に何もかも捧げて、宿儺様を俺で満たしたかった。でも宿儺様は俺のこと食べてくれないから、こっそりやるしかなくて…最低すぎるよな、こんなの。

    「ヤンデレ糞野郎でゴメン……俺、いつでも死ぬ覚悟できてるからさ、一思いにスパッとやっちゃってよ」
    「気にするな。はなから知っていた」
    「……へ?…………は?!」
    「お前の味が分からんわけなかろう」

     歯応えのある心臓をすべて飲み込んで、芳醇な味に酔うように目を眇めた宿儺様は口角を上げた。

    「ひっっでぇ…! 知ってたのに何で言ってくれなかったんだよ!?」
    「隠したのはお前であろう?」
    「そっ…おだけどさぁ!」

     知っていて食べ続けてくれていたのなら、どうしてもっと早く、あの日差し出した右手を噛み千切ってくれなかったのか。恨みがましく上目で睨むと、宿儺様は察しの悪い生徒に柔らかく諭すように、こう言った。

    「お前が三年かけて俺を作り替えたように、そのずっと前から俺が同じことをしていたとは考えなかったか?」
    「っ…!?」

     それはつまり、俺のことを美味しく食べたくて、宿儺様は根気強く辛抱して俺に良い餌を与え、完璧に熟成するのを待ってたってことで──

    「そしてお前が口にする食事には、俺の血を混ぜておくよう裏梅に命じていた。この意味が分かるな?」
    「……ッ……ッ」
    「どうした、嬉しすぎて息もできんか」

     俺はガクガク頷くだか震えるだかしながらタラリと鼻血を出し、意識を手放した。
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