「オレ、三ツ谷の恋人なんだけど」
頭打って忘れちゃったか?本当か嘘か分からない、淡い藤色の瞳がにっこりと弧を描く。
「は・・・・・・、」
病院特有の消毒液に混じって甘いムスクの香りが三ツ谷の鼻腔をくすぐる。ぽつりと落ちた声をかき消すように、窓の向こうで救急車のサイレンが鳴り響いた。
✱
三つ年上、極悪の世代。六本木のカリスマ、灰谷兄弟の兄。三ツ谷隆における灰谷蘭についての認識は、その程度であった。他にも知っていることはあるが、いずれにせよ肩書きや真偽の不確かな噂話程度で、どれも少しヤンチャをしていれば耳にしたことがあるだろう。
そもそも接点といえば関東事変のときに、灰谷によって背後からコンクリートブロックで殴られた。たった、それだけだ。
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