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    カンパ

    @kanpa_02
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    カンパ

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    ベータのみつやとアルファのたいじゅの長い話になる予定だったもの。ぶつぎり。たぶん続きは書かない。

    #たいみつ

    オメガバ(たいみつ) この世界にはアルファとオメガのラブストーリーが溢れている。
     
     大寿くんと訪れた映画館で、壁に飾られた上映中の映画のポスターを見上げた。自分はあまり恋愛系の作品を見るほうではないから、恋愛映画で有名な作品や演者、ましてや最新の流行などはまるで知らない。知らないけれども、そんなオレだって知っていることがある。この世界のラブストーリーの中心には、必ずと言っていいほどアルファとオメガがいるということ。喜劇的な愛も、悲劇的な愛も、すべては特別な性が織りなす物語であるということ。目の前に貼られたポスターの煽り文句は『アルファとオメガを結ぶ運命の糸を紡ぐ物語』なのだから、その薄ら寒さに背中が震える。アルファとオメガの運命の話ね。うん、全米が泣くねこりゃ。
    「おい、何ぼーっと突っ立ってやがる」
     最大容量のポップコーンとラージサイズのジュースを手にした大寿くんが隣に立つ。どちらともでかい器のはずなのに大寿くんが持つと一回り小さく見えるから面白い。ありがと、とお礼を言ってから頼んでいたコーラを受け取る。今日は大寿くんの奢りなので遠慮はしない。なんせ今日は、先日の喧嘩の償いとして映画館に連れて来てもらっているので。
    「何見るか決めたか」
    「いや、まだ」
     喧嘩のあと、何か詫びると言い出してきた大寿くんに映画館デートを提案したのはオレだ。喧嘩とは聞こえのいい殴る蹴るの大乱闘はご近所さんに多大なるご迷惑をおかけしたすえに、大寿くんが折れたことでなんとか終焉を迎えた(大寿くんから謝るなんて昔の彼から考えるとあり得ないことではあるが、まあこれも、七年という月日の経過が成したものである)。喧嘩の原因というのは往々にして片一方にのみ寄るものではなく、双方に等しく寄るものであり今回も例に漏れずそんなかんじではあったのだが、オレ自身も興奮に興奮を重ねこちらからじょうずに謝れずにいたので、大寿くんからの謝罪はオレの怒りを鎮めるばかりか、感謝の意さえ芽生えさせたのであった。ということで、今回は仲直りも兼ねての映画館デートなのである。
     つまり、何か見たいものがあったわけではない。デートの記号としてパッと思い浮かんだのが映画館だったというだけで。見上げたポスターに並ぶのはアニメにホラーにアクションに、それから薄ら寒いラブストーリー。最も気になるのはルナマナと共に全シリーズの視聴を駆け抜けてしまった魔法少女アニメの劇場版なのだが、幼女に紛れてちょこんと椅子に座る大寿くんは想像するだけで面白すぎるのでやめておく。
    「じゃ、これ見よっか」
     指差したのはいかにも全米が涙しそうなラブストーリーだ。アルファとオメガを結ぶ運命の糸を紡ぐ物語。売り出し中の女優が悩ましげな顔でポスターの中心で涙している。かわいそうなオメガ、運命に愛されたオメガ。
    「本当にこれでいいのか」
    「うん」
    「……オマエ、本当はこっちのアニメの方が気になってんだろ」
    「ふは、ばれた? でも今日はいいや。ラブストーリーが見たい気分だから」
     眉を顰める大寿くんを横目にチケットブースへ。座席はまばらにしか空いてなくて、なかなかの人気作品であることが窺える。大寿くんの背の高さも考慮して最後部の座席にしようと思っていたが、すべて埋まっており選ぶことができなかった。その代わりというか、カップルシートがひとつぶん空いていたので、そちらを購入することにした。
     ここの空いてるカップルシートで、と店員に告げると、目の前の店員が何か言いたげに口を開きかけた。同性のカップルは珍しい。しかし大寿くんの首元から覗くタトゥーに気づいたのかそれともその顔の怖さに恐れ慄いたのか、はたまた体のでかさに圧倒されたのか(本人に言ったらキレられそう)、「カップルシートですね、二千五百円になります」と口早に答えた。
    「珍しいな」
    「なにが?」
    「カップルシート選ぶの」
     俺は昔から恋人然とすることがそれほど得意ではなく、たとえばカップルで入場すると安くなるだとか、カップルならドリンク一杯無料だとか、そういったものはやんわりと避けて生きてきた(そりゃ安いに越したことはないんだけど)。別に、大寿くんと付き合っていることを隠しているわけではない。仲間内はみんな知っていることであるし、デートだって堂々とするし、キスだってセックスだってする。でも、自分たちの世界の枠外から『恋人』という記号を振られることに、何とも言えない居心地の悪さを感じてしまうこともまた事実であった。もちろんこれはオレ個人の心持ちの問題なので、大寿くんに悪い部分などひとつもない。むしろ、恋人という肩書きを他人に付せられることに拒否反応を抱くオレのほうがよっぽど悪い。
    「カップルシートね〜、まあ他に良い席空いてなかったし。それにさ、」
     不自然なところで言葉を区切り、そのまま劇場へ。自分勝手なことであるが、その先の台詞を口に出すのはすこし憚られた。いつもなら「言いたいことあんならさっさと言え」とキレ散らかす大寿くんも今日ばかりは静かだ。カップルシートは二人がけのソファ。右隣に初々しい高校生カップル。左隣に仲睦まじい高齢の夫婦。
     サイドテーブルに無駄に大きなポップコーンとコーラを置くのとほぼ同時に映画の予告が始まる。これから生まれるたくさんの物語たち。暗闇の中で煌々と照らされるスクリーンを眺めながら、オレは隣に腰掛ける大寿くんの手を握った。薄ぼんやりした視界の中で大寿くんがこちらを向く。
     ……ああ、さっきの言葉の続きを言わなきゃ。そう思うけど唇は震えてうまく動いてくれやしない。自分勝手にも程がある。ぜんぶオレが決めたことだろ。いまさら日和るなんてそんな馬鹿みたいなことない。いちばん傷ついたのはきっと大寿くんだ。悲劇のヒロインみたいな面をするな。ちゃんと言い切れ。突き放せ。
    「今日で、恋人関係でいるのは最後だもんね」
     前の席は蹴らないでください。撮影は犯罪です。携帯電話の電源はオフに。この先はもう、きみと何にも喋れない。上映中はお静かに。
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