「隣空いてる?」
「……空いてるけど」
「良かった、知り合い誰もいなそうでさ」
「へえ」
「名前なんて言うの? あ、俺は柴島犾ね」
「……二条佐斗流」
「佐斗流かあ、その髪ってゴールドアッシュ? かっこいいね」
「分かんのか」
「うん。俺ももっと派手に染めたかったんだけど、このメッシュが限界でさ」
「……そのバナナみてえなやつ?」
「バナナじゃねえって! もうちょっと金になるはずだったんだよ」
「ブリーチしすぎたんじゃねえの? セルフ?」
「そう。自分でやってみたんだけどどんどん色落ちしてくんだよね」
「セルフじゃねえけど俺もだいぶ色落ちしてるわ」
「オレももっとがっつり染めたいな、佐斗流みたいにさ」
「ここってわりと校則緩いだろ? やればいいじゃん」
「まあ色々あってさ」
「へえ」
『それではただいまより天翔学園高等部の入学式を行います』
「おっと始まる」
「佐斗流もC組なんだな」
「お前もかよ」
「うん。しかも席隣じゃん」
「通路挟んで、な」
「でも隣だろ? これからよろしくな、佐斗流」
「……めんどくせえ」
「ん?」
「なんでもねえよ」
「午後は部活説明会だってよ」
「だりいからパス」
「絶対参加だって」
「マジかよ、ほんとめんどくせえ」
「いいじゃん、一緒に行こうぜ」
「なんでお前と」
「だって俺ら友達じゃん!」
「はァ?」
「え、違うの?」
「分かった分かった、ったく」
「部活説明って何があるんだろうな。色々気になる部活はあるんだよねえ。佐斗流は? なんか気になる部活とかある?」
「ねえな」
「シバケンの家って、ここが?」
「うん。このマンションの最上階」
「……最上階って」
「第一学区の海も見えるんだぜ」
「第一学区ってわりと遠いところだろ」
「そうかな」
「うわ、テレビでも見ねえぞこんな広いの」
「そう?」
「……お前の親は?」
「今日も帰って来ないって」
「今日も?」
「ああ、うちの親忙しくてさ」
「へえ」
「父さんが映画作ってて、母さんは女優やってる」
「マジか」
「だから特区に戻ってくることもあんまり無いんだ。今は母さんが連ドラの撮影で京都に行ってて、父さんはどっか海外って言ってた」
「……マジかよ」
「だからくつろいじゃって」
「ソファ広ッ」
「なんかテレビ見る?」
「……おう」
「お前さ、ずっとこんな広い部屋に一人でいんのか?」
「うん、そうだよ。だから佐斗流が来てくれてすげえ嬉しい」
「あっそ」
「どうかした?」
「別に」
「佐斗流のこと、好き、なんだけど」
「はァ!?」
「うわ、びっくりした」
「いやびっくりしたのはこっちだっつうの! す、好きとか」
「だって、ほんとだもん」
「もん、とか言っても可愛くねえし」
「でもほんとにオレ佐斗流のこと好きなんだよ」
「好きって……俺のことなんも知らねえくせに」
「あ、待てって佐斗流! ちょっとどこ行くんだよ!」
「うっせえついてくんな、俺はもう帰る」
「か、帰るって午後の授業どうすんだよ!」
「パス」
「あ、佐斗流!」
「好きとか、馬鹿じゃねえの……」
『佑斗くんだよね』
『え』
『おじさんと遊ぼうよ』
『やだ、はなして』
『佐斗流? どうかしたの?』
『佑斗ってさ』
『ん?』
『……なんでもない』
「はあ、くっそ……」
「お前は俺のどこがいいんだよ。俺なんかより」
「俺なんかとか言うなよ!」
「なッ……ンだよ、急にデケェ声出して……」
「オレは、佐斗流だから好きなんだよ、だから」
「俺のことなんも知らねえくせに」
「確かにオレ、佐斗流のことあんまし知らないよ。だから教えてよ佐斗流のこと」
「はァ?」
「あ、でも俺が知ってる佐斗流は紅茶もストレートの微糖が好きで、ゲーセンだとシューティングゲームが一番好きで、カラオケだとロックばっか歌ってて、それでなんだかんだ文句言ってもオレと遊んでくれる優しい奴だよ」
「……なんだよそれ」
「オレね、嬉しかったんだよ」
「なにが」
「佐斗流、俺の家見ても引いたりしなかっただろ?」
「……まあ驚いたけど」
「それに俺の親のこと聞いても態度変わんなかったし」
「まあシバケンはシバケンだろ」
「それが嬉しかったんだって」
「剣道辞めたのもそれが理由だ。俺はアイツになれねえんだよ。アイツは県大会も余裕で優勝とかするけど、俺はちげえし。比べられるのは、もう」
「そっか。そうだったのかあ。……ほんとは佐斗流、佑斗みたいになりたかったんだな」「俺には無理だったけどな。いい子ちゃんが性に合わねえのは事実だし」
「佑斗もそこまで真面目じゃねえけどな」
「はは、手ェ抜くのがうめえんだよアイツ。澄ました顔してサボるんだ」
「なあ佐斗流、オレやっぱり佐斗流のこと好きだよ」
「……ンだよ急に」