語り部と天彦星「というわけで、天彦星と依央利姫はおしまい」
ふみやが語り終えると、聴衆たちからは非難轟轟だった。
「傷心した天彦星はどうするの!?」
テラが叫ぶ。それはそうだ。ふみやはちらりと天彦星を確かめた。銀河の隅っこで、膝を抱えてうずくまっている。落ち込んでいる、というよりは怯えている、といったほうが正しい。ふみやはもう一度理解天帝を呼び出そうと口を開いた。
語り部であるふみやは、この宇宙創世に携わっているといっても過言ではない。ふみやが語れば、それはすべて【事実】となるのだ。
「天帝はダメだ。あいつは自分の秩序でしか動かねえ」
慧の言葉に、ふみやは口を噤んだ。依央利姫を宇宙の遥か彼方に吹っ飛ばしたのは紛れもなく天帝本人だった。
「ここは語り部にどうにかしてもらうしか……」
大瀬の発案に、思わずふみやは目を丸くした。
「え」
「天彦星が可哀想じゃねえのかよ!」
「それは……」
ふみやはもう一度、天彦星を見つめた。小さく丸められた背中が震えているように見える。
「天彦星……」
声を掛けると、天彦星が顔を上げた。天の川よりも透き通った碧い瞳が、潤んでいる。
「語り部さん……」
天彦星がふみやにしがみついてくる。まだ震えている彼の身体を抱きしめた。
「……びっくりしたな。怖かったよな……。えっと……次に依央利姫が来たときは、俺も一緒に居てやるから」
「ほ、ほんとですか……? 一緒に奴隷契約お断りしてくれますか……?」
「うん……断れるかは分からないけど……」
「ありがとう……ふみやさん……」
「めでたしめでたしだね」