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    ナンナル

    @nannru122

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    POIPOI 146

    ナンナル

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    ファンタジア。🎪☆前提🎈🌟 4

    4話だった…。とりあえず、ここら辺から二章のつもり。終わらんなぁ……_:( _ ́ω`):_

    ム幻のセカイでヨ想もできないギ曲をトモに。4(えむ視点)

    苦しい。頭がガンガンって叩かれてるみたいにずっと痛い。胸の奥が、ズキズキして、喉が火傷したみたいに熱い。お咳がずっと出てるから、息が吸えなくて、苦しい。自分の喉から ひゅ、って音がする度、怖くて堪らなくなる。

    (…やだ……、怖い…)

    このまま死んじゃうのかな。指の先から冷たくなっていくみたいな怖さに、ギュッて目を瞑る。助けて、と手を伸ばしたら、その手が掴まれた。ハッ、と目を開けると、寧々ちゃんが泣きそうな顔であたしの手を握ってくれる。

    「え、む……」
    「っ、…」

    あたしを安心させようと笑ってくれる寧々ちゃんに、涙がぼろぼろと零れていく。ほんの少しだけ、胸の奥が温かくなった気がした。ぎゅ、って寧々ちゃんの手を握り返して、あたしも精一杯笑って見せる。
    そんなあたしに、寧々ちゃんが「大丈夫」って、言ってくれた。

    「えむ、ゆっくり…息、吸って」
    「…うん」
    「それで、類に、力を貸して…」

    寧々ちゃんの言葉に顔を上げれば、類くんが咲希ちゃんの方へ向かうのが見えた。類くんもふらふらしてるのに、頑張ってくれてる。そんな類くんの姿に、胸の奥がギュッてして、あたしも頑張らなきゃって思った。
    お咳って、たくさんすると喉が痛いんだ。頭もズキズキするし、胸も痛い。あたしはあんまり風邪さんとか引かないから、知らなかった。こんなに、死んじゃうかもしれないって思うほど、苦しくて怖いんだ。

    「……でも、あたし、皆とショーが出来なくなる事の方が、怖いよ…!」

    寧々ちゃんと類くんと、それから、司くんと。ミクちゃん達とも、ずっとずっと一緒にショーがしたい。だから、司くんを探さなきゃ。
    体は重たいけど、類くんが頑張ってるなら、あたしも頑張る。大きなハンマーさんを持って、ふらふらってしちゃうけど、頑張って踏み出した。多分、冬弥くんの時と一緒だよね。咲希ちゃんが弾いてるキーボードを壊せば…。
    よし、と意気込んで、思いっきり足に力入れる。そのまま咲希ちゃんの方へ向かって走り出せば、咲希ちゃんがパッと顔を上げた。キーボードを弾く指がそこで止まって、さっきまでの身体の重さがゆっくり薄れていく。

    「咲希ちゃん、ごめんねっ!」
    「……、…」

    力一杯高く飛んで、勢い良くハンマーを振り上げる。あたしの体重もかけてキーボード目掛け振り下ろせば、咲希ちゃんが衝撃に備えてギュッ、と目瞑った。
    ガァンッ、と鈍い音がして、キーボードにぶつかる前にハンマーが何かに当たって跳ね返る。「んぇ…?」って変な声が出ちゃったあたしの目の前に、キラキラとした透明な壁みたいなのが見えた気がした。握ったハンマーが後ろに傾いて、空中で身体のバランスが崩れる。そのまま背中から落ちていくのを感じて、痛みを覚悟して目を強く瞑れば、とさっ、と軽い音がして受け止められた。ふらふらの類くんが、「怪我はないかい?」と問いかけてくれて、思わず泣きたくなっちゃった。辛そうなその顔が、練習でもあまり見ないほど汗でびっしょり濡れていて、思わず腕を伸ばす。袖で軽く拭えば、類くんがへらりとあたしを安心させるために無理して笑ってくれる。

    「防御壁まであるとは、中々キツいものがあるねぇ」
    「…う〜ん……、咲希ちゃんが弾かないでくれたら、ガンガンガーンってやれるのになぁ〜」

    類くんに下ろしてもらって、ハンマーを拾い上げる。そんなあたし達を見ていた咲希ちゃんは、またキーボードに指をおいて弾き始めた。今度は、低音の少しゆっくりとした曲。何の曲だろう、って首を傾げた瞬間、ドンッ、て大きな衝撃が胸に来た。

    「っ……」

    思わず息を飲んで、頭を両手で押さえる。頭の中で、あたしじゃない誰かの声がたくさんしてる。[嫌だ]って、[助けて]って、[寂しい]って。その声がだんだん大きくなって、頭が割れちゃいそうなくらい痛くなる。どこかの病院かな。知らないところにいて、ベッドの上から起きられなくて、身体中痛くて辛いのに、頭の中の声がもっともっとあたしを苦しくさせてくる。

    [みんなと一緒にいたい]
    [アタシももっと遊びたい]
    [一人にしないで]

    胸の奥が、ズキズキして、苦しくて、なんでか涙が止まらない。ぼろぼろぼろぼろと溢れる涙で前が見えなくて、もっともっと怖くなる。
    ここ、どこだっけ。なんであたし、ここにいるの。お姉ちゃん、どこ。一人にしないで。やだ。やだぁ。

    「…く、るしぃ、よ……」

    目の前が、真っ暗になってく。嫌だ。何も見えなくなっちゃう。誰か助けて。
    さっきまで聴こえていた低音の曲も聞こえないほど、頭の中の“誰か”の声が大きくなっていく。それが怖くて、手を伸ばした。
    けど、誰もその手を掴んでくれなくて、胸の奥が、ナイフが刺さったみたいに痛かった。

    ―――
    (寧々side)

    (頭が、割れそうっ……)

    曲が変わった途端、誰かの声で頭の中がぐちゃぐちゃにされたみたいに気持ち悪くなった。耳塞いでも消えてくれない声に、唇を噛む。
    [寂しい]と泣く誰かの声に、勝手に共感させられる。周りの声や音も聞こえないから、今この場にわたし独りになったみたいな孤独感が襲ってくる。わたしも、この気持ちがちょっとわかる。類に誘われてショーキャストをしてなかったら、わたしは今も“寂しかった”から。

    (…でも、“寂しい”からって、動かないのは違うって知ってるっ…!)

    バチンッ、と音がするほど強く自分の足を叩くと、少しだけ頭の痛みが引いた気がした。だから、もう一度自分の足を強く叩いた。
    [一緒にいたい]ってのも、分かる。わたしだって、えむや類と、それから、司と一緒に居たい。もっと四人でショーがしたい。この四人で馬鹿やって、笑ってたい。辛くても苦しくても、みんなが居るなら何だっていい。
    バチンッ、ともう一度足を叩いて、ゆっくりと息を吐く。ここで足を止めたら、それも叶わなくなる。司が帰ってこなかったら…、司を連れ帰らなきゃ、“四人”になれないんだから。

    「…ま、けないっ……、絶対にっ…!」

    必死に、四人で過ごした時のことを思い返す。喧嘩した時のこととか、イベントにかこつけて馬鹿騒ぎする三人を見て笑ってた時の事、辛い時に励ましてくれた皆のことも、えむと二人で買い物した時のことも、類にネネロボを貰った時の事も、それから、たまたま司と二人っきりになった時の事も。
    いつだっけ。えむと類が買い出しに行って、司と二人っきりになって、それで、あの時…、何かの曲を、歌った気が…。

    (…すごい有名で、それで、子どもが好きな歌……、台詞もあって、二人じゃないと歌えなくて…)

    楽しかっんだと思う。童謡なのに真剣に歌う司が面白くて、わたしもつられて真剣に歌って、ミュージカルみたいになって、最後の方は二人して少し汗もかいてて…。納得いかなくて何度も何度も歌い直して、その時間が、特別だったんだと思う。
    数少ない、わたしが司を独占できた時間。

    (………ぁ、そうだ…あの歌だ…)

    隣で歌う司が振りまで始めちゃうから、わたしもしなきゃいけなくなって、観客のいないステージで踊ったんだっけ。楽しかったな。楽しそうに歌う司の顔、結構好きなんだよね。声真似してちょっと低く歌ってたの、面白かった。えむと類が帰ってくる前にやめたから、わたしと司だけの秘密の練習だった。また、やりたいな。

    「―――――♪」

    その時の司の顔を思い出しながら、何となく口ずさんでみる。不思議と胸の奥が温かくなって、頭の中の声が、消えていく気がした。あの時の、司の歌声が聴こえてくる気さえして、つい口元が緩む。
    気分が少しづつ高揚して、歌う声も大きくなっていく。もう、キーボードの音は聴こえてこない。頭の中の煩い声も消えた。
    今聴こえるのは、あの時の、ちょっと煩い、わたしの好きな奴の声だけだ。

    ―――
    (類side)

    頭の中にひしめいていた声が、すぅっと消えていく。不思議と体が楽になり、重苦しく聞こえていたキーボードの音が薄れていく。段々と大きく聴こえてくる寧々の声に顔を上げると、涙を瞳に溜めた えむくんが後ろを振り返った。

    「……もりの、くまさん…?」

    誰もが知っている、有名な童謡だ。森で出会ったくまと、少女の歌。楽しそうに歌う寧々の声が、不思議といつもよりはっきり聞こえてくる。その楽しそうな歌声が、先程まで感じていた痛みや不安を消していくようだ。
    たった一人で歌っているのに、何故か寧々以外の歌声も聴こえてくるかのようだ。この歌い方は、誰だろう。力強くて、堂々としていて、自信に溢れていて、それでいて、とても楽しそうな…。

    (……………うん、良いね、…こういうのも…)

    なんだか、踊りたくなる歌だ。
    咲希くんが弾くキーボードの音が、全く聞こえてこない。
    手に力も入る。ぐ、ぱ、と手を軽く握って開いてと繰り返してから、刀の柄を掴んだ。軽くその場で振ると、今までで一番体が軽く感じる。今なら、思いっきり戦えそうだ。ちら、と隣を見れば、えむくんもハンマーをぶんぶんと振っている。
    楽しそうなその顔が僕へ向けられた。

    「なんだか、ふわふわ、らんらんって、張り切っちゃうね!」
    「ふふ、僕も、同じことを思っていたよ」
    「よーっし! きらきらの壁さんも壊しちゃうぞー!」

    たんっ、と地面を蹴って駆け出すえむくんに続いて、僕も駆け出した。防御壁はえむくんに任せていいかもしれない。彼女が自由に動けるなら、きっと簡単に壊してくれるはずだから。それなら、僕は後ろに回って僕が出来ることをするだけだ。

    「寧々っ! そのまま歌っていておくれ!」
    「――――――♪」
    「っ、ぽかぽかわんだほーいっ!」

    僕の声が聞こえたか分からないけれど、寧々は楽しそうに歌っている。まるで隣に“誰か”がいるかのように、本当に楽しそうに。その歌声に背を押されたように、えむくんが高く飛び上がった。大きな掛け声と一緒に力一杯えむくんがハンマーを振り下ろす。ガンッ、と透明な膜にぶつかったハンマーが弾かれ、ほんの少し後ろへよろけた えむくんは、すかさず体をくるりと捻じるように反転し、空中でもう一度ハンマーを振り下ろした。ガンッ、と大きな音が響く。間髪入れずにもう一度振り下ろされたハンマーの衝撃で、膜から確かにピキッ、とヒビの入る音がした。

    「えむくん、続けてっ!」
    「はいはーいっ! わんだほーい、アターックっ!!」

    もう一度大きく振り上げられたハンマーが、ヒビの入った膜に振り下ろされる。ガンッ、ガンッ、ガンッ、と連続して打ち付けられた防御壁は、最後の一撃でパキンッ、と砕け散った。目を丸くさせた咲希くんが、慌ててキーボードに指を置く。

    (…ごめんね、司くん)

    防御壁が割れた一瞬の隙を狙って、咲希くんの後ろから思いっきり刀を横に振りきった。えむくんたちには見えないように、咲希くんの背中側から一直線に。

    「どっこいしょーっ!」

    ドゴンッ、とえむくんが最後にキーボードをハンマーで砕く。それと同時に、咲希くんが床に膝をつき、光の粒子に変わって消えていった。手に残る嫌な感触は知らないフリをして、刀を鞘におさめる。

    「やったよ、類くーんっ!」
    「…ふふ、今回はえむくんの大活躍だったねぇ」
    「あたしよりも、寧々ちゃんだよ!」

    ぴょんぴょんと跳ねたえむくんが、僕に飛びついた。それを受け止めて笑って見せれば、彼女は嬉しそうに寧々の方へ顔を向ける。少し離れた場所にいた寧々が小走りででこちらに近寄ってくる。そんな寧々に、僕らは声を揃えて「ありがとう」と伝えた。
    きょとん、と目を丸くさせた寧々が、気恥しそうに指で頬をかく。

    「……わたしだけ足手まといは、嫌だから…」
    「寧々ちゃんのお歌があれば、千人力だね!」
    「いや、多過ぎだから…」

    こほ、こほ、と咳をする寧々に、ポケットから飴を取り出す。彼女に手渡せば、包みを開いてそれを口に入れていた。コロコロと口の中で飴を転がす寧々が、ゆっくりと息を吐く。
    僕もえむくんも、体の痛みや不快感などはもう感じていない。あれ程苦しかった咳もピタリと止まったようだ。もしかしたら、咲希くんの攻撃手段は、ピアノやキーボードを使った精神攻撃だったのかもしれないね。
    と、そこでふと少し前の事を思い出した。そういえば、拾ったアイテムの中にペットボトルがあったはずだ。司くん特製のミックスジュースなるものが。

    (…使い道、ちゃんとあったんだなぁ……)

    使わなかったけれど。
    あの特製ジュースはこの為だったのか。無理して耐えなくても、少し楽になる方法が用意されていたなんてね。何ともありがたい世界だ。戦闘中に気付いたからといって、使うとは限らないけれど。
    ちら、と寧々とえむくんを盗み見るも、二人とも気付いていないようだ。それなら、気付かなかったことにしてしまおう。楽しそうに笑い合う二人の方へ体を向けて、二人の会話に耳を傾けた。

    ―――
    (寧々side)

    「ところで、何故森のくまさんだったんだい?」
    「………別に…、思い出したから、何となく…」

    いきなり類が聞いてくるから、思わず顔に出そうになった。ここで動揺なんてしたら、類には一発でバレるのに。
    ふい、と顔を逸らして素っ気なく返せば、類はきょとんとした顔をわたしに向けてきた。その顔が、なにやら考え込むような顔に変わる。

    「けれど、寧々にしてはいつもより低い声で歌ったり、態とミュージカル調を強くして歌っていたよね」
    「ぅ……たまたま、そういう歌い方をする人を、動画で、見たから…」
    「あぁ、それで以前“司くんと”一緒に歌ったのかな?」
    「! な、なんでっ…?!」

    驚いて類を見れば、にこっ、と笑顔を向けられた。その、“やっぱり”って顔に、ぶわわっ、と顔が熱くなる。やられた。カマをかけられた。類のこういう所ほんと嫌っ…!
    今更否定しても遅いし、余計に墓穴を掘るだけだって分かっているから、言葉をぐっと飲み込む。そんなわたしに、類が くすっと笑った。

    「すまないね。寧々の歌い方が、なんとなく司くんに似ていたから」
    「…はいはい。ご馳走様でした」
    「おや、そんなに怒ることかい?」
    「……別に」

    類にはわかんないでしょ。司の事なら細かい事でも気付く類には。数少ない“わたしだけの思い出”なんて。
    むすぅ、と頬を膨らませるわたしに、類が首を傾げる。そんな類の隣から身を乗り出したえむは、「寧々ちゃん司くんと歌ったの?! いいなぁ! あたしも一緒に歌いたーい!」と大きな声で言い始めた。もうこの話は無かったことにしてほしい。

    「…………ダメ」
    「ほぇ…?」
    「…ううん、なんでもない」
    「寧々ちゃん…?」

    つい零れた本音に、慌てて首を振る。不思議そうにするえむから顔を逸らして、立ち上がった。
    大丈夫。全部その内忘れるから。だって、えむみたいにはなれないし。類みたいに、わたしは“特別”にはなれないから。

    (…わたしは、“ショーの中でだけアイツのお姫様”なら、それでいい)

    ―――
    (類side)

    「パーティ、会場…?」
    「おおおぉお! すっごくキラキラわくわくじゃじゃじゃーんっ! って感じだね!」
    「………けれど、誰もいないようだね」

    一つ上の階に来て最初に入ったのは、大勢が集まれるほど広い部屋だった。その広いパーティ会場には、中央に大きなテーブルが一つと、椅子がいくつも並んでいる。物語に出てくるような、晩餐会の長テーブル。その真ん中の位置に用意された、一際豪華な椅子に、目が止まる。子どもが座るのだろう。小さな階段がそばに用意されていて、他の椅子より座面が高い位置についている。その向かいにある椅子も変わっていた。いや、主役用の席の向かい側は全て、“ぬいぐるみ用”の様だ。人が座るには小さ過ぎる椅子が等間隔に並んでいる。子どもが座るにも小さ過ぎるので、きっとぬいぐるみ用なのだろうね。
    主役用の席の両隣りには、大人用の椅子が並んでいる。

    「料理はあったかいけど、誰も来ないなら冷めるんじゃないの…?」
    「壁の飾りを見る限り、何かのお祝い事のようだけれど…。よく見るような垂れ幕や横看板は無さそうだね」
    「うーん…、皆どこいっちゃったのかなぁ〜」

    シン、としている会場は、温かい雰囲気があるのに誰もいないせいか少し寂しく感じてしまう。
    机に並べられた料理は、よく見るとどれも子どもの好きな料理だ。ハンバーグやフライドポテト、小さな旗の立てられたオムライス、あっちの方にはカレーまである。それと、一際目を引くのが大きなケーキだ。ホールのケーキにはロウソクがたっている。真ん中にあるチョコレートのプレートは、残念ながら何も書いていないけれど、とても立派な苺のケーキだ。

    (……子どもが主役の、お祝い…)

    ふむ、と口に手を当てて思いつくものを頭の中にあげていく。と、会場の入口の方から[ワァ…!]と声が聞こえてきた。

    「ぇ…」
    [アタシココー!]
    [ボクハココガイイナァ]
    [ワタシハココニスルンダァ]

    わらわらと、足元にぬいぐるみくん達が集まってくる。まだ見たことの無いぬいぐるみばかりだ。各々が自分の席を選んで椅子に座り始めていく。それを見た えむくんが、その大きな瞳をきらきらと輝かせた。

    「おぉお―! ぬいぐるみさん達が集まってきたね〜!」
    「もしかして、これから始まるの…?」

    あっという間に全員が席に着く。空席なのは、テーブルの真ん中辺りに用意されているぬいぐるみ用の席二席と、ぬいぐるみくん達の向かい側に用意された主役用の席、それからその両脇の大人用の椅子だ。それなら、この主役用の席に座るのは…。
    カチャ、と部屋の扉が開く音がして、咄嗟にそちらへ目を向けた。ひょこりと顔を覗かせ、大きな扉から入ってきたのは えむくんのそっくりさんだった。彼女は僕らを見て怒るでも驚くでもなく、寂しそうに笑って見せた。

    『そのパーティは、始まらないんだよ』
    「…ぇ……」
    『だって、お客さんがいないんだもん』

    ぱんっ、とえむくんのそっくりさんが手を叩くと、先程まで賑やかに話をしていたぬいぐるみくん達が消えてしまう。また、シン、と静まり返ったパーティ会場は、先程よりも静かで寂しい空間に感じた。
    くるん、と大きなローラーを回したえむくんのそっくりさんは、楽しそうに床に色をつけ始める。それを見て、僕もえむくんも身構えた。刀の柄に手をかけると、えむくんのそっくりさんは絵を描きながらこちらへ話しかけてくる。

    『あたしね、司くんが大好きなんだ』
    「……急になに…?」
    『司くんが嬉しいとあたしも嬉しい。司くんが笑ってくれると、あたしも笑顔になれるの』

    くるりとえむくんのそっくりさんがその場で回ると、色を塗った床からカラフルな煙が立ち始める。ズゥンッ、と大きな体がその煙の中から現れ、熊が二匹彼女の隣に立つ。動物園で見る熊よりも、二回りほど大きく見えるそれに、思わず息を飲んだ。迫力がすごい。

    『だから、絶対にここから先には行かせないからっ!』

    胸を張ってそう大きな声を出すえむくんのそっくりさんに、刀を鞘から引き抜く。えむくんも、僕の隣でハンマーを構えた。

    「寧々、何か気付いたことがあれば教えてくれるかい?」
    「うん。類もえむも、怪我しないようにね」
    「はいはいはーい! ぱぱぱーっとやっちゃうよぉ〜!」

    後ろへ下がる寧々を背に、えむくんと一度目を合わせてから、思いっきり床を蹴って踏み出した。
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