ふたり並んで「兄貴が、結婚しないのかと尋ねてきた」
何を言われたのか理解した瞬間、血の気が引く、という言葉を身体で実感した。もしかしてこれから振られるのだろうか。そう、最悪の未来を想像したところで、わき腹に拳が当たる。
「勝手な妄想でそんなマヌケ面をするな。あなたと別れるつもりなど毛頭ない」
あ、よかった。素直にそう思って、大きく息を吐いた。いつの間にか息を止めていたらしい。
「お前は、なんて答えたんだよ」
「今のところ予定はない、と」
兄貴は残念そうにしていたが、と続けた村雨の手を取る。村雨の手が、今日はやけに暖かい。
「……今のところは」
ってのは、今後のお前の人生プランの中に、誰かとの結婚が入ってるのか?
そう聞きそうになって言葉にした瞬間、村雨の纏う雰囲気が黒くなったのが見えた。
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