kemo sabe高熱のせいか妙な夢を見た。大体夢というのは支離滅裂であり得ないことが起きるのが普通だろうがそうではなく、形が曖昧な幾何学模様が延々とこちらを見ている、そんな感じだった。散々見てきた弟の幻覚ではなく、射殺した敵兵でもなく、得体の知れない何かが己を囲っている。三角の形をした墓石のようかと思えばその輪郭が太くなったり細くなったりしてぐにゃりと歪む。液状になって溶けていくかと思えばまた次々に形を作り上げまた歪な隊列を組んでいくのだ。
これならいっそ亡霊に呪われる方がいい。訳の分からない、形すら定まらないものに追われるのは何とも気分が悪かった。
「あれ、起きた?」
「……」
「うなされてたけど、悪夢でも見てたの?」
尾形が目を覚ませばよく知った声が耳に入った。寝ている自分の真上に、宇佐美が顔を見せる。
「……寝てた」
「そりゃ見たら分かるよ、悪夢かどうかって聞いてんの」
「さぁな」
上半身を起こすと熱は引いたようで体が随分と楽になっていた。宇佐美が部屋へ戻ってきていたことにも気づけないほど熟睡していたようで頭もすっきりとしている。
汗で蒸れた首元が痒い。尾形は自分の首を何を考える訳でもなく無心でかいていると途端に宇佐美が眉を寄せた。ずい、と顔が近づいてくる。
「おい、やめろよ」
「何がだ」
「かくなって。余計痒くなるし赤くなるだろうがっ」
心底信じられないといった口調で宇佐美が尾形の手を掴んだ。当然首から離されて痒みだけがじんわりと残される。
宇佐美の手は温かった。妙に生々しいというか、つい先程まで変な夢を見ていた身としては何故かそれが落ち着くのだ。
それからもう一つ、不機嫌そうな相手の顔が現実に引き戻してくれるような気がして尾形は気の抜けた笑みが零れた。
「……なんだよ、気持ち悪いな。高熱で頭おかしくなったの?氷嚢いる?」
「お前のその、変に面倒見のいいところは何なんだよ」
「兄弟の面倒みてたからじゃない?どっかの誰かと違ってね」
尾形の手を離した宇佐美はますます顔をしかめた。さらに寄る眉、鬱陶しそうに歪む目、中心へと縮こまる唇。
左右対称だ。きちんと計算されて描かれた図面のように彼の顔は整っている。
「そうだよ。左右対称は、美男子の条件だからね」
鼻を鳴らし胸を張る宇佐美はしかめ面を解いて厭味ったらしく笑った。あの人がそう言っていたと今日聞いた中で一番機嫌のいい声を出している。詳細を聞かずとも分かるし聞きたくもない。
尾形は声に出ていたかと思い、舌打ちを一度するとそれから大人しく再び横になる。
「おい、百之助寝るなよ。僕がこれからわざわざ、お、ま、え、のために氷を取ってきてやるんだからな」
「そうか」
散々うんざりとした顔を見せた癖に看病の類はしてくれるらしい。何だか知らないが不思議と何かに「勝った」ような気分がして、尾形は彼が戻るまで目を閉じるのはやめておいた。