まちでいちばんかわいい魔法使い「こちらをどうぞ」
顔を合わせるや否や、荀彧から封筒を手渡される。勢いに気圧されて何事かと聞くよりも先に郭嘉は受け取ってしまったため少しばかり後悔が浮かぶ。
「何?これ」
「先日、古い手帳を整理していたら出てきたのです」
「……開けてみて、ということかな」
「ぜひ。郭嘉殿もきっと懐かしい思いに浸れると思いますよ」
微笑む荀彧に郭嘉の唇の端が引き攣る。大抵、彼がこういうときは郭嘉にとってあまり良くないときなのだ。
封筒の厚みの様子からして中に入っているのは十中八九写真だろう。恐らく一枚だけ。
古い手帳、と荀彧は言った。どれくらい前のものかは分からないが彼の性格的に随分昔の物も残している気がする。加えて郭嘉はここ数年、荀彧に写真を撮られた覚えはない。
それら全てを合わせて考えれば相当前の物が出てくるに違いない。指先にじんわりと汗が浮かぶ。困ることはないが、恥ずかしい。荀彧から見た自分はいつまで経っても、どこまで行っても子供のようで時折こうして受ける扱いが何よりも恥ずかしくてたまらなかった。
そっと息を吐いてから閉じられていない封筒を開く。スライドさせるように中を取り出せば案の定、写真だった。
「これ、いつの……」
「懐かしいでしょう?覚えていますか、ほら、以前の自宅の前ですよ」
頬をやや紅潮させた荀彧は楽しそうに写真の中の郭嘉を指さした。
「ふふ、見てください、郭嘉殿のこのお姿!」
「荀彧殿こそ、緊張し過ぎじゃない?証明写真じゃないのだから」
そんなつもりはないのだろうが揶揄われた気分だった。熱くなる頬を無視して郭嘉も負けじと荀彧へ指摘を飛ばす。
写真の中では子供の頃の二人が並んで写っていた。丁度今くらいの時期だったのか幼い郭嘉はハロウィンの仮装をしている。魔法使いが被るような三角帽子を被り、腕にはオレンジ色のバスケットをかけている。その中から僅かにお菓子が見えているからきっと戦利品がそこに詰め込んであるのだろう。それだけでなく着ている服も魔女のような真っ黒なワンピースだった。
なぜ、ワンピースなのだろう。下に短パンなり何なり穿いているだろうが丈のせいで今一つ分からない。しかし写真の中の己は可愛らしく微笑み、首をかしげてピースまでしている。荀彧が微笑む原因はきっとそこだ。
一方で荀彧は一切の仮装をしていない。真っ黒な学生服に身を包みボタンをきっちりと全て留めて姿勢良く立っている。郭嘉の言った通り緊張した面持ちでにこりともせず、真っ直ぐカメラを見ていた。
「私はこんなに可愛いのに台無しじゃない?」
「荀家の人間は、皆こうなのです。公達殿の昔の写真もまるで軍人のようですよ」
「それは見てみたいけれど……いや、そうではなくて」
やはり恥ずかしかった。嫌な気分ではないが何となくむず痒くて、荀彧と二人でこの写真を見るのが照れ臭かった。誤魔化すつもりで写真を突き返そうとすれば笑顔の彼に拒否される。
「差し上げます。せっかくの可愛い思い出ですし……私も焼き増ししたものがありますから」
背格好からして郭嘉がまだ十歳にもなっていない頃のそれだ。ハロウィンのイベントに参加するからと言って、幼馴染の彼に無理を言って写真を撮ってもらったのかもしれない。その辺りの記憶は曖昧だ。
「私たち、昔から仲良しだったんだね」
ぽつりと無意識に零れた言葉だった。何も可笑しくはないが改めて口に出すとやはりむず痒い。
笑顔の自分と硬い表情の彼。身長差があるし格好のちぐはぐさもあるけれど隣り合った二人の手はしっかりと繋がれていた。