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    meemeemeekodayo

    基本かくか受けで文章を書いている者です。たまに別ジャンル

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    meemeemeekodayo

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    やきう部の遼、てに部の嘉の遼嘉。

    #遼嘉
    khiau

    恋の売り込みグラウンドの周りをぐるりと囲むように人だかりが出来ている。一見すると男子生徒ばかりだが、ちらほらと女子の姿も見える。思わず足が向いてしまうのも仕方がないと首に垂れる汗を拭いながら郭嘉は目を細めフェンスの向こう側へ視線を投げた。
    バッターボックスに立つ彼に皆、夢中なのだろう。黄色い声援というよりもどちらかと言えば男子たちの雄叫びにも近い歓声が上がる様子はまさに野球場のようで、この学園にしては少々珍しい光景だった。
    熱い応援、人混み、暑さに混じる制汗剤の匂い。一陣だけ吹く風が何よりも心地いい。
    運動部に所属しておきながら、実はそれほど球技には興味がない。テニスは好きだけれど趣味程度の体力とテクニックしか持ち合わせていないし対戦相手に失礼のない最低限のルールしか把握していない。だからどこの部が強いとかどこの部が全国大会に出場したとか、その辺りにはてんで疎かった。
    けれどもここまで熱狂的な声が上がる人には関心がある。誰かを惹き付けるというのはそれだけで立派な才能だ。生徒のことを把握したがる理事や友人のためにもここは一目見ておきたい。
    徐々にグラウンドへ近付く最中、郭嘉は生徒に交じって大人がいることに気が付いた。部活動の時間だから余裕があるのか並んだ二人は何かを話しながらバッターを見つめている。
    「珍しい組み合わせだね」
    「おお!なんだ、お前も来たのか」
    「郭嘉殿、あんた部活は?」
    片手を上げて朗らかに笑う夏侯淵と、呆れた顔で郭嘉に尋ねる賈詡。対照的な反応だ。
    休憩中、と軽く答えてから二人と同じ向きで並んで立つ。自然と顔はグラウンドへ向いて人だかり、フェンス、そしてバットを構える彼の姿が目に入った。
    凛々しい横顔だ。ヘルメットを被っているし二の腕で丁度顔が隠れてしまうから表情はわかり辛いが、揺れる腕の隙間から見えたその鼻筋は随分勇ましかった。これだけ歓声が上がる中で集中するのも難しいだろうが彼に動揺や焦り、緊張は見えない。
    「ねぇ。もしかして皆、彼が気になっているの?」
    「そりゃそうさ、なんたってスカウトされて来たってんだから、なぁ?確かにセンスある動きすんだよ」
    楽しそうに語る夏侯淵に郭嘉も思わず微笑む。その語り口からは信頼が感じられて、隣の賈詡も頷いているから間違いないのだろう。
    「なんていうかつい、見ちまうんだよな」
    「あっははあ、分かります!現に我らは、こうして足を止めてじっくり見ていますからね」
    「ああいうのを華があるっつうんだろうな」
    「ふぅん」
    さすがに生徒たちに遠慮していくらか離れた場所から観戦しているがそれはそれで二人は面白く眺めているらしい。
    一方で郭嘉は野球の試合自体はさして気にならなかった。誰が打とうが打たれようが、どうでもいい。というか、分からない。
    「ほら、郭嘉、お前はもっと近くで見て来いって!」
    「ええ、そうですね」
    夏侯淵から文字通り背中を押された郭嘉は素直にフェンスへと近寄っていった。間近で見た方が迫力があるのは事実だがそばに寄るに連れて歓声が凄まじい。女子の輪の中へ突っ込まれれば良かったのに残念ながら男子ばかりが固まって声を上げる地帯だったらしく、何故かそこでは郭嘉は浮いた存在だった。
    それでもやはり、彼を目の前にすると不思議と胸が弾んだ。他校からやって来た張遼という人。真面目で気難しそうだけれど才があってひたむきで、ブレない強さを持っている。
    「見てみたいな、かっ飛ばすところ」
    声は一切張り上げていない。自然と口から零れた言葉は独り言で誰かに聞かせたい訳ではなかった。聞こえるはずのない声量だったのに呟いた途端、彼がこちらを向いた。
    視線が絡む。一秒、二秒、恐らく三秒にも満たない時間で、次の瞬間にはキャッチャーミットがボールを掴む音が聞こえてきた。
    「あっ」
    タイミングが悪かったのか、張遼と目が合った直後にボールが投げられたらしい。途端に周囲からは残念そうな悔恨の声が湧き、間の抜けた郭嘉の声もそれに吸い込まれる。それで我に返ったのか彼は再び集中力を取り戻したようですぐに向き直った。
    罪悪感はないが、居心地はあまり良くない。苦笑いを浮かべて郭嘉は夏侯淵らの元へと戻っていった。今度は賈詡が手を上げて己を呼んでいる。
    「あんた今、張遼殿と何か喋ってたのか?」
    「まさか。というか初対面だし、あの場所じゃあよっぽど声を上げないと無理だと思うよ」
    「だよなぁ。んじゃ、たまたまか」
    大して気にしていない夏侯淵は観戦を再開させていた。賈詡の方は腑に落ちていない様子だったが郭嘉とて真実しか述べていないのだからどうしようもない。
    「ねぇ賈詡」
    「何だい」
    「ホームランって、何点?」
    「…………郭嘉殿、あんた……本当に興味ないものは、とことん興味が湧かないんだね」
    「ええっ、もしかして常識だったの?」
    真面目な質問だったのだが結局賈詡は答えてくれず、その横で夏侯淵は見たこともないほど腹を抱えて笑っていた。

    野球部の練習試合がどうなったのか知らないまま自分の陣地へと戻った郭嘉は適当にラリーをこなし、多めの休憩を取っているとあっという間に時は過ぎていった。片付けも済んで人もまばらになった頃、ようやく郭嘉はテニスコートから離れる。本当ならさっさとシャワー室へ向かって汗を流したいのだが、なるべくならひとりきりでゆっくり浴びたい。体が貧相で他人に見せたくないのも理由のひとつだ。そのためのんびりと歩き出す頃には陽が沈み始めていた。
    校舎へと向かう道がオレンジ色に照らされる。遠くから下校する生徒の話し声が聞こえてきたり最終のチャイムが鳴り響いたりしてくると何だか物悲しく、けれどもようやく解放されたという安堵もあって独特な情緒だった。
    この時間になると人の流れは一定になるのに、逆らってこちらへやって来る影がひとつあった。忘れ物かなと呑気に考えているとその人影はさっきまで眺めていた相手で、気が付けば目の前までやって来ていた。正面に立たれると圧迫感があり、背丈のおかげで目線を少し上げなければならない。
    「貴公が、郭嘉殿か」
    張遼は郭嘉の前で立ち止まるとそう言ってから一度ゆっくり頭を下げた。野球部のユニホーム姿のままだがヘルメットは外している。先ほど感じた凛々しい印象は間違っていなかったようで、顔を上げてこちらを見る瞳が力強かった。
    「そういう貴方は張遼殿……ふふっ、ああいや、何でもないよ」
    返す言葉は流れるように口から滑った。それが可笑しくて思わず失笑すると怪訝な顔を見せられたためすぐに詫びて、用件は何かと尋ねてやる。
    「……先ほど、グラウンドのすぐ外におられましたか」
    「うん。間近で少しだけ、ね」
    「私に話しかけられましたか」
    張遼の眉根が寄る。なかなか威圧感のある顔つきだ。気弱な者なら尻込みしそうだが生憎郭嘉にその類は通用しなかった。
    「そんなつもりはなかったのだけれど」
    「喧騒の中で貴公の声だけが耳に入り申した」
    「おや。私のせいで集中力を欠いたとでも?」
    「とんでもない!あれは私に慢心があったというだけの話で!」
    つい嫌味っぽく返してしまったがそれはすぐさま吹き飛ばされる。前のめりになる彼に対して思わず一歩後ろに下がってしまい、恐怖はないが驚きのおかげで珍しく郭嘉の体が震えた。
    「そう、それじゃあ一体」
    「何故、あの時貴公に目を奪われたのか……いえ、ただ私が未熟なだけで」
    言うや否や張遼は郭嘉から自然を逸らしてやや下方を向いた。出向いてきた割に言いたいことや聞きたいことがまとまっていないようで、つい数分前の勇ましさが嘘のように萎んでいる。雄々しさに陰りはないが、悩み、迷っているように見える。
    加えて、郭嘉もまた妙な気分であった。それならいっそ「お前のせいで失敗した」と難癖を付けられた方がずっといい。目を奪われたなどと言われると変に意識してしまう。
    浅はかな言葉で表現すれば運命なのかもしれない。そんなものは無いと思うのに夕焼けの下で精悍な顔が自分のことで頭を抱えている状況に目眩がしてくる。
    「教えてあげようか、貴方の心を乱すそれが何かを」
    「は……心当たりが、おありで?」
    「さぁ、どうだろう。でもきっと、私と一緒に過ごしていく内に分かると思うよ」
    郭嘉がウインクすると張遼はあからさまに動揺し目を見開いた。
    「あは、は!ごめんごめん、ただ、ね?せっかくだから仲良くしようよ、張遼殿」
    夕日で染まっているせいなのか照れのせいで赤くなっているのか分からない。けれども熱っぽい目で郭嘉を見つめる瞳に偽りはなかった。
    陽が傾いても暑いのは変わらない。背中を伝う汗がシャワー室へ急げと急かしているようで郭嘉は止まっていた足を動かし去り際に張遼の肩を叩く。
    「着替えるでしょ?数十分後に正門で」
    「……待っていろ、と?」
    「一緒に帰ろうよ。私も貴方のこと、知りたいし」
    一瞬間が空いたが張遼はすぐに了承してくれた。
    「そうだ、最初聞きたいのだけれど……あの、ホームランって、何点?」
    今、最も聞きたいことだった。それを口にすると信じられないような顔を見せられたが呆れたり馬鹿にしたりすることは全くなく、それはそれは丁寧に説明してもらえたのだった。
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