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    meemeemeekodayo

    基本かくか受けで文章を書いている者です。たまに別ジャンル

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    meemeemeekodayo

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    癖のある遼の遼嘉

    楽にならざり癖というのはなかなか直らないもので、物心ついた時分から何かを凝視してしまう妙な習慣が張遼にはあった。見つめる対象は様々で動植物であったり風景であったり、もちろん人も含まれる。別にそこに感情は込められていないからただただ見るだけである。怒りも悲しみもない。本当に幼い頃からの「癖」としか、言いようがなかった。
    「なんだ、用があるなら言え」
    「いやはや何とも、何とも鋭い眼光ですな!」
    以前の主は別に気にした様子はなかった。その軍師もまた注意するようなことはなかった、が、今になってみれば揶揄われていたのかもしれない。
    「それくらい睨んでいられれば、私ももっと威厳が出て強くなれるのだろうか」
    「お前、視線がうるさいのよ!」
    鬼神の娘は強さへの憧れを吐露したが、張遼は特に睨んだ記憶はない。護衛対象だった茨のような姫はうんざりした声をよくあげていた。
    それに対して張遼は、嫌に思ったことはなかったし当然怒りも悲しみもなかった。子供から嫌われてしまう点に関しては悩むところではあったものの本分は武人であるからさしたる問題はない。
    癖を直そうと思ったこともあるがなかなか上手くいかない。ふと気づけば一点を、ただじっと見てしまう。用件があるからなのか凄味を効かせたいからなのか、あるいは他に原因があるのか、ないのか。分からない。分からないから上手くいかず結局張遼は今日まで、凝視の癖を持ち続けていた。

    「ですが将軍、そのようにじっと見つめていてはいつか、お困りごとが出てしまうかもしれません。どうぞお気をつけくださいませ」
    そう言ったのは、策謀に舞った美しい人だった。

    夜夜中、一体どうして集まったのか忘れてしまうほど長い宴だった。厳密には閉会の宣言がされていないから未だに続いているらしい。突っ伏して眠る者が多い中ぽつりぽつりと静かに杯を傾ける人も幾人かいた。
    そこに張遼と、隣に座る郭嘉も含まれていて真横の才子は顔色ひとつ変えず楽しそうに話し続けている。
    「……だから私は慌ててそう言って、ね、満寵殿の身なりを整えてあげたんだ」
    彼の身の回りに起こった最近の話を聞きつつも大して内容は頭に入っていなかった。というのも郭嘉も郭嘉でそれなりに酔いが回っているようで、今の話は二回目なのである。上機嫌に話す彼へ水を差すつもりはないし張遼もまた眠気が増してきたから相槌を打つ程度に留めていた。
    郭嘉が話す度に彼の金糸のような髪が揺れる。やや長めの前髪が、同じく金色の瞳に刺さってしまわないか張遼は不安を覚えた。大きめの唇は美しく動いて言葉を紡ぎ続ける。柔らかく心地よい音色の声は安堵を寄越すが一度戦場へ赴けばその言葉は武具と変わらない。おおよそ己には真似の出来ない思考には尊敬を抱く。鼻筋から口元、顎にかけての輪郭は繊細で肌は女人にも負けないくらい白い。違う人間なのだから当たり前だがこうも自分と違う箇所が多いと不思議な気分だ。
    「張遼殿」
    はっきりとした声に意識が呼び戻される。張遼の目は彼を見ているようで見ていなかった。顔の先端、互いの視線が交わらない箇所を見つめていたようでまた己のよくない癖が出てしまったと内心慌てる。
    酔っ払った者とはとても思えないほどの声色で、きちんと郭嘉を認識して見つめれば白い顔は笑っていた。
    「張遼殿のそれ、癖なのかな」
    「それ、とは」
    「ああ、やっぱり無意識なんだね?じっと一点を見つめてしまう、それだよ」
    わざと鈍いふりをしてやり過ごす。張遼の反応を見た郭嘉は笑って話しながら人差し指を天へ立て、それからすぐに張遼の眼前へと突き出した。
    「さすが。動じないね」
    戦場に立てば矢も石も剣先も飛んでくる。反射的に目を閉じてしまうのが普通だろうが一瞬でも視界を失ってしまえば前線では命取りになる。多少の砂塵程度では張遼の瞳は閉じない。
    「……とんだ、ご無礼を。郭嘉殿を不快なお気持ちにするつもりは」
    「知ってるよ」
    謝らなくていいと郭嘉は微笑んで、出したままの手を引っ込めていった。
    「私は好き、かな」
    「は、それは」
    「貴方の視線。強くて真っ直ぐで、どこにいても私を見てくれるでしょう?」
    ぎゅっと喉の奥が締まる感覚があった。僅かに呼吸が止まったかと思えば途端に全身が熱くなる。血の巡りが分かってしまうような激しい脈が張遼を揺さぶった。
    「その……申し訳ない」
    「ふ、あはは!謝らないでよ張遼殿!」
    恐らくこちらの気持ちなど暴かれてしまっているのだろう。郭嘉は言葉にこそ出さないがその顔にはありありと書いてある。そう思うとやはり彼の相貌は美しく映ってしまってこれ以上見ないよう、見てしまわないよう張遼は固く目を閉じた。

    「ですが将軍、そのようにじっと見つめていてはいつか、お困りごとが出てしまうかもしれません。どうぞお気をつけくださいませ」
    「貂蝉殿、それはどういう意味ですか」
    「ふふ、張遼様の視線は、そうですね、とても分かりやすいのです。好きな方に向けてはきっとあっという間にばれてしまいます」
    舞姫に言われた張遼は決してそんなことにはならないだろうと、そういった日は来ないだろうときっぱり否定した。彼女は笑っていたがまさかこうなることを想像していたのだろうか。

    遠い日のやり取りについ郭嘉の笑みが重なって、ますます目を開けられなくなってしまったのだった。
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