「はい、オッケーでーす」
「リヴァイさん、お疲れ様です」
「おう」
今日は久しぶりのリヴァイさんとの撮影日。
最近以前にも増して企業とのコラボ関係が多くなってるような。
それも、俺、リヴァイさん、エルヴィンさんの共演が特に。
今回は夏に合わせて、シャツ姿でひまわりを持った写真と、浴衣でお祭りに行ってるイメージの撮影。
撮影は俺が先で、リヴァイさんは自分のスマホを見ていた。
そして、撮影を代わるとき、リヴァイさんのひまわりが増えていた。
「1、2、3・・・7本?何で7本にしたんですか?」
「あ?」
「増えてるでしょ?スタッフさんに声かけて、束変えてるの見てたんで」
俺のはひまわりにリボンを付けただけだけど、リヴァイさんのは軽くラッピングがされている。だから撮影用に変えるのも大変。
「見栄えするだろ」
「見栄え・・・」
いや、どっちかって言うと、少ないほうがリヴァイさんには合ってる。んー、これは何かある。
次の撮影用で浴衣に着替えるとき、何か意味があるのか調べた。その中で出てきたのは、ひまわりの本数と花言葉。
「ひまわり7本は密かな愛?」
リヴァイさんの撮影が終わって、今度はリヴァイさんが浴衣に着替えるために俺と代わった。
その手に持つひまわりの束を指さし、気になったことを訊く。
「リヴァイさん、ひまわりの花言葉調べたんですけど、もしかして、リヴァイさんって俺のこと・・・」
「気持ち悪いこと言ってんな」
恐る恐る訊く俺に、本当に嫌そうな顔で頭をぼかっと叩かれる。
「いたっ。でも、そういうことなんですか?」
「・・・」
否定しない、のか?え、本当に?
「へえ、リヴァイさんにもそんな方、いたんてすね。密かなってことは、片想い?それとも誰かと内緒で付き合ってるとか?」
「・・・」
「ちょっとは教えてくださいよ 誰なんですか?」
「それ、『ちょっと』じゃねぇだろ」
「俺の知ってる奴ですか?」
「さあな」
「うわ、これ、俺の知ってる奴だ。誰ですか!?」
「しつけぇな。知らねぇよ」
「・・・ってことがあってさぁ。なあ、誰だと思う?」
その日の夜、予定が合っていたアルミンとミカサを家に呼んで、家飲みをしていた。
テーブルに酒とつまみを広げて、床に座ってだらだらと飲む。昔からこうだから、今さら行儀よくしようとは思わない。が、外には絶対見せられるものではない。ミカサはやっぱ女の子だからか、昔から比較的ちゃんとしてるけど。
「リヴァイさん交流広いからなぁ。バンド関係?モデル、お芝居?最近は声優さんと一緒の現場もあるよね」
「・・・」
リヴァイさんは付き合ってはいないようで、そうなると、余計誰なのか分かりにくい。アルミンは「へぇ」と目を輝かせているが、ミカサはなんか落ちてるような。
「ミカサ、心当たりない?」
「・・・ない」
「ミカサはあんまりリヴァイさんと一緒にならないもんな。なぜか。」
それはアルミンも同じだが、年が少し離れていることもあり、あまり一緒の仕事はない。年の差が幅広いドラマでも、俺以外、二人は共演が少ない。
「・・・共演NG出されてるのかも」
「なんでだよ。んなわけねぇだろ。リヴァイさんも俺じゃなくてたまにはミカサと同じ現場が良いって言ってたぞ」
「ほ、ほんと?」
「あぁ」
「んー、でも騒ぎになるだろうね。あのリヴァイさんに恋人が出来たら。ハンジさんとペアになること多いから、ハンジさんが相手かって一時期言われてたけど、ハンジさん、結婚しちゃったしなぁ」
「ねぇ」
「・・・」
「ミカサってあんまりリヴァイさんのこと好きじゃない?」
「…っ⁉どうして?」
「だって、僕たちがリヴァイさんの話するとき、あんまり乗ってこないから」
「そ、それは・・・」
「リヴァイさん嫌いなやつとかいんのかよ?ああ見えて面倒見、めちゃくちゃいいぞ」
「き、嫌いじゃ、ない。けど、あまり知らない……」
「あぁ、そっか」
「って話をこの前してまして」
あれから一月も経たないうちに、また仕事が一緒になった。アルミンとミカサ、久しぶりですよね、と話し、俺のスマホの写真を見せながら。
「あれ、怒っちゃいました?おーい、リヴァイさーん?」
写真に夢中になってるらしく、その日撮ったプライベートの写真を次々と見ていくリヴァイさん。・・・俺に対して遠慮がなく。ま、いいけど。まずい写真はないはずだし。
そんなこと思って黙々と指を動かすリヴァイさんを見ていると、手が止まった。
「もういいですか?ん、あぁ、いい写真でしょ」
写ってるのは、俺とアルミンとミカサの三人。三人とも、仕事の時とは違う、プライベートでしか見せない表情をしている。
「・・・エレン、この写真、もらっていいか?」
「え。いいですけど………って、まさか、リヴァイさん?」
そう言って先を止めた、というか言えなかった俺に、リヴァイさんも何とも言えない顔をしている。
リヴァイさんの密かな相手って、まさか、ミカサ?
Side-Mikasa
「なあ、今度リヴァイさんの出る映画」
「あぁ、主演イアンさんの」
前回、一緒に飲んでから半月、三人の時間が合った今日も、エレンの家に集まって飲んでる。
私はお酒が弱いから、外で飲むのはあまり好きではない。付き合いで行かなくちゃいけない時は行くけれど。
それを知ってる二人は、「家で飲もう」と言ってくれるから嬉しい。私は度数の弱いお酒を少しと、あとはほとんど食べている。
「うん。奥さん役、決まらなくてオーディションすることになったって」
「…っ!!」
なぜかエレンが私を見て言う。
あぁ、そっか。この中で女性は私だけだからか。
アルミンも女装すれば……全然いけると思う、けど。
「ミカサ、スケジュール空いてるか?」
「ドラマ、入ってる。ちょっとの役だけど」
セーブしたいとマネージャーに言っていたから、実はその他は入れていない。
ちょっと自分に限界を感じていて、海外にでも行って気分転換と刺激を受けてこようと思っていた。
「裏の顔を持った奥さん役らしくて、普通の女性らしい声と、ドスのきいた声の両方出せる人を探してるって。なんか誰もしっくりこないらしくて」
「へぇ。リヴァイさんと?うわ、なんか見てみたい。でも年齢的には?」
「リヴァイさん童顔だし、俺たちと大して変わんないだろ?」
「ははっ、本人前にして言えないけどね」
「な、ミカサ。良かったら受けてみたらどうだ?」
「う、うん、考えてみる」
とは言うけれど、本当はもう決めている。
明日、マネージャーさんに話してみよう。
叶わないなら、せめて役だけででも。
Side-Levi
花言葉なんて気にしない。
ただ、撮影で使うこのひまわりという花はどんな花なのか、時間があったから調べただけだった。
撮影が終わればおそらく、貰って帰るだろうし。
花を検索すれば、たいてい花言葉が付いて出てくる。が、本数によっても違う意味があると知り、興味が湧いた。
その中で気になったのが、7本だった。
密かな愛。
以前共演してからどのくらい経つか。
愛というほど育ってはいないが、この想いも消えてはいない。
育たない想い。消す想い。
会えないのになぜ想っているのか。
今、近くに特段好きなやつがいないからだろう。
誰かと付き合いたい、結婚したいという思いはない。
だが、ずっと心の中に居座る奴がいる。
ただ忘れる前に、この時期こんな想いを抱いていたと、写真に残すのもいいかもしれない。そんな私的なことを考えた。
「ミカサ、ますますきれいになったな」
「まぁ、そうですね」
エレンからスマホにある写真を見せられた。先日、仲良し三人組で家飲みしたときに撮ったという。余計な話をしながら。
最初は「見てくださいよ~」と見せられた写真に感想を言ってすぐに返そうと思ったが、そこに映る密かな想い人に目がいった。
何枚かある写真を無遠慮に次々と見ていく。
「こんだけなら、彼氏いるだろ?」
「いないですよ」
「即答かよ。隠れて付き合ってるとか」
「ないですね。ミカサ、そんな器用なこと出来ないですし」
「ん?」
「嘘つくの下手すぎて、すぐバレるんですよ」
だからその点では事務所もひやひやしてるらしいですよ~と言うエレンに、それはかなり危ねえなと頬が引きつる。
嬉しい情報を引き出せたが、今や何の接点もない俺が突然ミカサを食事に誘ったりしたらおかしすぎる。当然連絡も。
それでも少しの望みにかけたいという、僅かな思いが胸に沸いていた。
その一月後、事務所スタッフから映画の相手役オーディションにミカサが登録したと教えられた。