来訪「そちらに伺ってもいいですか」という電話があったのは一週間前だった。
自分の部屋は広い訳ではないので、三人で来る、と言われた時は少し考えた。折り返すから、と言って電話を切り、なんとなく不機嫌そうな荒北を見る。
遊びに来たいそうだ、と告げる。
ふーんと返事をした荒北に「小野田も来るぞ」と言うと顔を上げ
「それはいいんだけどさァ、あのエリートチャンと赤頭も来んだろ?」
嫌いなのか、と聞くと「いや、あっちのが好きじゃないと思うんだヨネ」と言った。
自分たちはもうチームメイトであり、過去の諸々も差し出せば腹に納めることが出来る位には話をした。他にもたくさんのことを共有しているし信頼している。でもあいつらは違うだろ、というのが荒北の意見だった。
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うちの運転手に頼んで行けば楽だ、と言ったら、鳴子が「ケッ」って言った。
鳴子と言い合いをしている間、小野田はしばらく黙っていておずおずと「せっかく皆で行くなら旅行っぽい方が楽しいよね!」と言った。
「僕は新幹線乗ったことあんまりないから…」
俺と鳴子は「新幹線にしよう」「新幹線にしようや」と小野田に言う。
小野田はとても嬉しそうに頷いた。
三人で集まる時は大体小野田の家に行く。
小野田のお母さんは少し変わってる。でもいい人だ。
鳴子なんかはたぶん自分の息子だと思ってんじゃないかと思うし、俺も自分の母親よりよく怒られる。小野田はその度に「あああ!おあかあさん!!」とか言っている。色々ともう慣れた。
でも「楽しそうね」って言いながら田所さんちのパンをおやつに出してくれたりする。
いい人だと思う。俺は好きだ。
お土産に持っていきなさいとお菓子を渡す。主将さんはどうしてるの、って聞くから「静岡の大学に通ってます」と答える。
「へえ、いいわねえ」と何か思い出すような顔をして「ご迷惑かけないようにしなさいよ」と小野田に言うようにして三人に言った。
今日は休みにしよう、と誰も言い出さなかったので練習終わってから静岡へ行く。
練習終わってから行きます、って言ったら金城さんは笑ってた。
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三人を迎えに駅まで行くのを俺は断った。誰だって自分への悪意に直面するのは避けたい。折り返した電話を金城が差し出す。しぶしぶ話してみれば小野田チャンが荒北さん!と喜び「会いたいです」と言った。金城はこうなることを知っていて小野田チャンを電話に出したんだろう。
空気は冷えている。帽子を被り、マフラーを巻いて口数の少なくなった金城は話しかけても頷くくらいしかしない。後輩に会うのに昔に戻ってたらしょうがねえなあ、と思うけどあの三人の前ではこいつは“主将さん”なんだと思う。
それがあいつらの前でのこいつの役割であって、あいつらにとっては精神的支柱なんだろうって思う。
どのくらい大変だったのかって想像する。そうすると福ちゃんと東堂が脳裏を過る。
あと少しで電車が着く。
「あれさァ、今の金城だとダメなワケ?」と聞く。金城が不思議そうな顔でこちらを見る。
「部屋出る前と別人みてぇだけど」と言うと少し困惑した。
もう、主将じゃなくて金城になればいいじゃんとボソっと呟く。
それを聞いた金城がいつもみたいな顔で笑った。
昔のこと知ってる訳じゃないけど、今の金城でいいじゃんって俺は思う。
まあ、今日は無理でも少しずつ主将から金城になればいい。
そんな風に思って二人で笑っていると、改札から小野田チャンが手を振りながら出てきた。赤頭はキョロキョロしていて落ち着きがない。エリートチャンは少し不機嫌な顔で俺のことを見た。
金城は、主将と金城の真ん中くらいの顔をしている。