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    穂山野

    @hoyamano015

    読んでくれてありがとう。
    幻覚を文字で書くタイプのオタク。とうの昔に成人済。

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    金荒 / マッキャリ/ 新中/リョ三

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    穂山野

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    【新世紀中学生】
    2019.2に発行されたキャリバーアンソロに寄稿したもの

    #新世紀中学生

    巡る長い夏が終わったあとの世界を俺たちは知らない。
    すべてが終わった日、雪が降ったことはあとで知った。
    皆、元の暮らしに戻り小さな齟齬をすり合わせたりしながらまた日々を紡ぐ。
    「もう二度と逢えない」と皆それぞれが思い、手を振ったはずだった。
    けれどまた俺たちはこの街にいて、冬が終わっていくのを見届けている。
    桜って偉いわよねえ、ママさんがいう。
    「ちゃんと春になったら咲くんだもん」
    相変わらず煎餅を齧りながらのんびりした口調で。
    少し離れた公園の桜の蕾はもうほころび始めていて、そこを通るたびママさんの言葉を思い出す。
    マックスはときどき俺たちに食事を振る舞う。薄々感じてはいたけど凝り性だ。
    ちょっといい食材を使うとか、ちょっといい塩とかそういうことにこだわる。俺にはよくわからないけどマックスには面白いんだろうな。
    いつも美味いもの食べさせてもらってるので説明聞くのが面倒な分はチャラにしたい。
    キャリバーは宝多家で食べたモツ鍋の話をする。
    キャリバーの情報から美味かった、という感想以外にわかることはなにもないのだけれど、あんまり繰り返しいうもんだからマックスが興味を示すまでにはそんなに時間はかからなかった。
    『花見』というものをやりながら、キャリバーのいう『モツ鍋』というものを食べようといい出した。
    「冷えたビールとか一緒にいいよなぁ」
    少し暖かい風が吹いてくる季節がくると、固い革靴を脱いでのんびり酒を飲みたい、と思うようになる。
    内海はそれを聞いたとき「え、ボラーさんおっさんみた……」
    言い切る前にその口は閉じる結果になったけど。
    一応、今もまあいつ急になにがあるのかわからないのだから酔っ払うわけにもいかないし、マックスはアルコールよりもカフェインのほうが好きだ。ヴィットはアルコールが好きじゃない。たぶん酔っ払いが晒す醜態が嫌いなんじゃないかと思ってる。
    なので同意の言葉は返ってこなかった。キャリバーは居眠りしている。

    「だーから」
    うん、とキャリバーの返事はいい。けど、聞いてるのかどうかっていわれたらこれは全く聞いてないときのキャリバーの返事だ。
    それなりに付き合いが長いからそういうのはわかる。
    この眠気でクタッとしているキャリバーを外に連れ出そうとする根気よさはもっと皆に褒められていいと思う。
    ヴィットは「ほら、適材適所ってあるじゃない?」
    マックスは「私よりもボラーがいう方がキャリバーは話を聞くと思う。それについてボラーはどう思う」
    もうどっちも面倒くさい。頼む前段が既に面倒くさい。
    そんな大袈裟な話じゃねえだろ、材料がなんだったかキャリバーに聞いて一緒に買い出しにいくって話なんだからさ。
    もう自分でいったほうが早い。知ってた、と独りごちる。

    「お、俺が本当に役に立つと思うのか」
    スーパーの入り口でキャリバーがいう。
    そんなことまったく思ってねえ。
    情報は「美味かった」しかないキャリバーと、マックスの家に着いた瞬間から主よりも寛ぎ、なにもしなくなるヴィットを連れ出して三人でスーパーの入り口までようやくたどり着いた。野菜とかそういうのはなにが入っていても煮れば食べられんだからさっきヴィットが調べたやつでいい。
    モツはマックスが指定したものを買う。量を確認するのを忘れた。マックスに電話で確認してると少しずつ甘味やスナック菓子をカートに入れるヴィット。それに文句をいっている間もマックスはマイペースに話す。もう一度聞き直している間に今度はキャリバーを見失う。
    家に帰りたい、とスーパーの低い天井を見上げる。
    ようやくレジにたどり着くとどう考えても鍋関係なくねえ?っていうのが結構入ってたけどもうツッコむ余力もないからそのまま支払いをする。
    あとでマックスが精算してくれるだろ。
    キャリバーを探して店内をぐるりと見回すけどまったく見つからない。「キャリバー!」と呼ぶととそれを聞きつけたのかどこからともなく姿を現した。
    お前どこにいたんだよ、とマックスの家に向かう道すがら聞くと真顔で「え、海老を見ていた」と答えた。
    ヴィットが「うーん」と小首を傾げながら「なんかそれ、じわじわくるね」と笑った。

    マックスの家に着き食材を広げる。
    基本的に料理はマックスがやるので俺とキャリバーは手伝う程度。ヴィットは寛いでいる。これはいつもの光景。
    マックスがなんか味噌のことをいろいろ語ってるけど右から左へ抜けていく。
    キャリバーはなんでそこ食いつくのかよくわかんねえけど興味深そうに聞いてた。
    「ボ、ボラーはちょっと休め」
    だいぶ疲れているようだ、というキャリバーに「誰のせいだよ」という気力もなく、ヴィットが「ここ」と手招きするなんか小洒落たソファーに座る。
    「あとは任せろ」というマックスの声が聞こえ、背もたれに寄りかかり大きく伸びをした。
    座ったソファーの目線の先に桜が咲いているのが見え、ヴィットが「ここいいでしょ」と自分の手柄のようにいう。
    「ちゃんと咲くんだもんね」というママさんの言葉が聞こえたような気がした。
    どんなことがあってもそれを越えていく。少しずつなにかが変わり、また始まる。
    キャリバーが冷蔵庫から冷えた缶ビールを二本持ってきた。
    普段あまり見かけないパッケージデザイン。それをしげしげと眺めている間にコップを持ってきて隣に座った。
    いや、いいけどさ。「いいのかよ」とマックスに問うと「今日はな」と笑った。
    「そのビールは昨日キャリバーが持ってきて冷やして帰った」とマックスがいう。
    キャリバーが「ボラーにビールを飲ませてやろう」ってずっといっててね、とヴィットがスナック菓子を開ける。
    「あんまりツマミとかよくわかんなくてさ」
    取り敢えず甘いのと辛いのと入れたけどこんなんで大丈夫?って聞く。
    なんだよ、お前ら。
    「つ、付き合えるのは俺だけだ」とキャリバーが缶ビールのプルトップを引き、コップに琥珀色の液体と細かい泡が注がれていく。
    いつも表情を変えないキャリバーが相好を崩す。
    お前、自分が飲みたかったんだろ。その顔見てたらすぐわかる。すっげえ嬉しそう。けどその言葉は冷えたビールと一緒に喉を通り、腹の中に収まった。
    「うっま!」
    思わず口から出た。それを聞いたキャリバーも「美味いな」と満足そうに笑った。

    「春が、無事にきてよかった」とキャリバーが窓の外を見ながらボソッと呟いた。
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