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    seeds_season

    @seeds_season

    ただいまmhyk小説(メインはミス晶♂・全年齢)がしがし書いてます

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    ミス晶♂風味SS(ミスラ不在)。ファウスト先生による個人面談の巻。

    個人面談:無自覚な魅力 中庭に集う猫達に癒やされているのは晶だけではない。
     リケやミチルが猫と戯れていることもあるし、レノックスの羊が一緒に走り回っている時もある。お茶会に乱入した子猫を追いかけるムルや、猫と話し込んでいるオーエンの姿を見ることさえある。
     そして――本人は否定しているが、恐らく晶と同じくらい猫を構っているのは、東の魔法使いファウストだ。
    「ファウスト、ネロから食材の余りを分けてもらいました!」
     魚や肉の切れ端を持って現れた晶に、ベンチで猫を撫でていたファウストは、少しだけばつが悪い顔をして、それでも猫を膝から下ろそうとはしなかった。
    「……君も大概、世話焼きだな」
    「ファウストほどじゃないですよ」
     用意してきた五枚セットの餌皿に切れ端を盛り付け、等間隔に並べる。するとファウストの膝から飛び降りた三毛猫を筆頭に、あちこちで寛いでいた猫達が一斉に皿へと殺到した。
     一つの皿を取り合わないように誘導し、綺麗に並んで食事し始めたのを確認して、ぱあと顔を輝かせる晶。
    「これがやりたかったんです!」
    「確かに可愛いな」
     思わず呟いてしまってから、はっと口を押さえたファウストは、ニコニコとこちらを見ている晶に、ふうと息を吐く。
    「……君は、本当に猫が好きなんだな」
    「はい! 残念ながら、俺の家では飼うことが出来なかったので、もっぱら近所の猫を構っていたんですけどね」
     嬉々として猫談義に花を咲かせる晶。熱の籠もった、それでもどこか寂しそうな声音は、どことなく〈大いなる厄災〉に恋をするムルを想起させた。
     愛している、でも届かない。そんな相手に心奪われた者の、渇望と寂寥。
    「……賢者」
    「はい? あ、すいません俺ばっかり喋って」
    「いや、そういうことじゃない。ちょうどいい機会だ。君の恋愛観について聞かせて欲しいんだが」
     魔法舎の風紀のために、と付け足したら、ぎょっと目を剥かれた。
    「待ってくださいファウスト。俺の恋愛観が、魔法舎の風紀に関わるんですか?」
    「関わるとも。シャイロックあたりから聞いていないか? 魔法使いは心のままに生き、心のままに恋をする。相手が男でも女でも。動物や植物、無機物だろうがお構いなしだ。それこそ月に恋する魔法使いだっているんだからな」
     どこか冷めた口調になってしまったのは致し方ないだろう。『月に焦がれるあまり魂が砕けた実例』を目の当たりにしているわけだし、自他共に認める人嫌いのファウストには、語って聞かせられるような恋愛経験など一つもない。
    「魔法使いは姿形を自在に変えられるし、長命故に、積極的に子孫を残そうという考え方もあまりしない。繁殖を目的としないから、それこそ相手を選ばないんだ」
     生き物が同種族の異性に惹かれるのは、繁殖が本能に組み込まれているからだ。人間の場合、その本能を土台にして社会規範が出来上がっているから、どうしても異性婚が主流になる。
    「年若い魔法使い達は、今はまだ生まれ育った人間社会の価値観に縛られているだろうが、いずれは折り合いをつけるだろう。つまり――」
     その先をどう続けようか逡巡して、晶の顔をちらりと窺う。
     真剣な表情で耳を傾けてくれている彼は、それこそ年若い魔法使い達と同世代。まして人間で、異世界人だ。
    「君は、自身が恋愛対象になり得ることを、もう少し自覚した方がいい」
    「ええええ!?」
     心底驚いた様子で、悲鳴じみた声を上げる晶。そんなことは考えたこともなかった、という顔だ。もしかして恋愛経験が皆無なのか? と邪推してしまう。
    「勿論、君には君の恋愛観があって、それは何よりも尊重されるべきものだ。寄せられた好意をすべて受け止める必要なんてどこにもない。ただ、この世界は――魔法使いはそういう生き物だ、ということだけは心に留め置いて欲しい」
     というわけで、と長々しい前置きを終えて、ようやく本題に入る。
    「君は異世界からやってきた人間だ。価値観が異なることも多いだろう。そのすりあわせをさせて欲しい。君の恋愛観を聞きたいのはその一環だ」
     大層なお題目を並べ立ててみたが、聞きたいことは一つだ。
    「つまり――ミスラとはどういう関係なんだ」
     ファウストにしては随分と踏み込んだ質問だったが、晶は気を悪くした様子も、はたまた照れたり恥ずかしがったりする様子もなく、あっけらかんと笑って、
    「添い寝友達ですかねー」
     と答えたものだから、ファウストはあんぐりと口を開けた状態で固まってしまった。
    (添い寝友達――!?)
     衝撃のあまり、声すら出ないファウストを前に、晶はえへへと気の抜けた顔で続ける。
    「ほら、ミスラは傷のせいでよく眠れないから、俺を頼ってくれるでしょう。毎回うまくいくわけじゃないのに、それでも構わないからって言ってもらえるのは、何だか嬉しくて」
     こういう関係を『友達』と言っていいのかは分からないんですけど、なんて照れてみせるが、拘るところはそこではない。断じてない。
    「……抱き枕にされても?」
    「あれはちょっと気恥ずかしいんですけど、でもその方がよく眠れるなら、まあいいかな、と」
    「……たまに囓られていないか」
    「美味しそうって言われるんですけど、そんなに俺って美味しそうですかね? ああでも赤ちゃんのほっぺとか、むちむちの腕とか、ちょっと囓りたくなる気持ちは分かりますし。それにミスラの噛み癖は、猫がじゃれついた勢いで甘噛みしてくるみたいな、そんな感じですよね」
    「……この間、寝台に押し倒されていた件は」
    「あれはたまたま、布団の外で寝ていた状態で変身魔法が解けた俺のことを心配して、ミスラが布団の中に引っ張り込んでくれただけですってば」
     さすがに全裸は恥ずかしかったですけどね、と頬を掻く晶。
     ――駄目だ。何を言っても手応えがない。
    (行動基準が猫目線な時点で察するべきだったか)
     親愛や友愛、恋愛、家族愛――呼び方や種類はいくらでもあるが、彼はきっと、その感情にはっきりとした名前をつけていないのだ。
     だからこそ、自覚がない。それ故、どこまでも無邪気に、無自覚に――周囲を惹きつけ、翻弄してしまう。
     それこそがもしかしたら『賢者の資質』なのかも知れないが、相手が魔法使いの場合、それはあまりにも危うすぎる。
    「――君、鈍感だと言われないか」
    「えっ」
     初めて言われた、みたいな顔をするな。ああ、そういうところからしてもう疎いのか。
    (これは……情操教育が必要か……)
     ムルを前にしたシャイロックのようなことを考えながら、やれやれと眼鏡を押し上げる。
    「賢者。君はもう少し、自分の心に耳を傾けた方がいい」
     溜息交じりの忠告に、晶はしかし、小鳥のように首を傾げるばかりだった。
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