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    きたはら/しま

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    きたはら/しま

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    第8回アロルクワンドロ
    お題【童話】

    赤ずきんパロを演じることになった四人が配役決める話。アロルクはほんのり成分

    「BOND諸君。これが新しい台本だ」

    表紙に犬ずきんと書かれた冊子を受け取りながら、ルークは首を傾げた。
    確かにルーク達は一応は一度はバックダンサーとして舞台に立ったし、現在の身分も駆け出しのショーマンではある。だが、あれはあくまで潜入調査のためではなかっただろうか。

    (……そういえば、特訓大変だったよなぁ)

    正真正銘ショーマンであるモクマはともかく、素人のはずのアーロンとチェズレイの動きも美しさの種類こそ違えど夢のようにきれいだった。そもそも、あの二人は立っているだけで魅力的であるし、視線一つで人を引きつけることができる。いつだったか、そんな事を言ったら「あんな詐欺師と一緒にすんじゃねぇよ」と凶悪な舌打ちをいただいたことがあった。

    でも、アーロンの動きってすごいんだよな。こう、歩き方一つ野生動物染みているっていうか、獰猛さがのぞくっていうか……嘘みたいに長い足が、嘘みたいに速く振り抜かれて、ぴたりと静止する。無造作な動作一つ一つがかっこよくて……、うん、僕、よく一緒のステージに立てたな……。

    そんなことをつらつらと思い出していたルークを、不機嫌そうなアーロンの声が現実に引き戻した。

    「……なんでオレらがまた舞台に立たねぇといけねぇんだよ……」
    「今度調査したいところが孤児院でな。そこへの慰問訪問という形で忍び込んでほしい。狙いは裏帳簿だ」
    「孤児院で裏帳簿って、あんまり穏やかじゃないねぇ」

    慣れた手つきで台本をめくりながら、モクマがへんにょりと眉を下げる。孤児院、と聞いて思うところがあったのか、アーロンもぺらりとページをまくる。チェズレイはいつものように微笑んで、台本に指を滑らせていた。

    調査が目的であれば、ルークとしても異論はない。慌てて書いてある内容に目を通す。子供向けと言うことでどこかコメディチックに書かれている。どうやら、有名な童話のパロディであるらしい。面白そうだなと頬を緩ませながら読んでいたが、気になる一文を見つけてしまった。ルークはそっと手を上げると、上司に確認することにした。

    「あのナデシコさん、これ、ミュージカルですか? ここの、犬ずきんが狼と追いかけっこして捕まって食べられるシーンのとこ、曲に合せて踊るってあるんですけど」
    「……おいおい、詐欺師に歌わせるとか正気か」
    「あァ……そんなに私の歌声が気になるのであれば、今度怪盗殿の耳元で歌って差し上げましょうか?」
    「ふっざけんなテメエのその粘着質な声を近くで聞いたら脳しんとうでも起こすわ!」

    にらみ合いながら軽口の応酬を飛ばす二人は、いつものことだ。ナデシコは気にもしないようで、にんまりとその赤い唇を釣り上げた。
    「いや、この犬ずきんが食われているシーンはCDから曲をかける。この間におばあさん役とお母さん役の二人には潜入してもらいたい。ああ、誰がどの役をするのかはドギー、君に任せるよ」
    「えっ、僕ですか!? こういうの、モクマさんの方が良いんじゃ……」
    「いやいや、おじさんショーマンで監督じゃないもの。配役なんてやったことないよ」
    「えっと、じゃあまず先に潜入ルートを調査して、そこから逆算して役を決めましょう!」
    「頼んだぞ、BOND諸君」


    ▼▼▼


    「……で、みんなで捜査したところ、このステージから廊下を渡って食堂から院長室に抜ける食堂ルートと、一旦窓から外に出て、ここの通用口からもう一度入り込む通用口ルートが見つかったわけですが……配役どうしましょう」

    手に入れた地図情報をタブレットに表示しながら、二つのルートの線を引く。幸いにも、どちらのルートも初見でピアノの曲を弾くなどの特別な技能は必要としていない。つまりは、誰が潜入してもよいわけで。劇の配役をどう決めるかルークは頭を悩ませるはめになった。

    「ふふ、アーロン孤児院の子供達に大人気だったよねぇ。ビーストにそっくりだって!」
    「赤くてトゲトゲしていて人相が悪いという共通点がありますものねぇ……」
    「テメェらふざけんなよ、人にガキども押しつけて逃げやがってよ……!」
    「いやぁ、チェズレイと二人で職員さん達に調査してたんだって、ねぇ?」
    「えぇ、モクマさんが声をかけては不審者扱いされるところを最前線で堪能させていただきました」
    「あのー、三人とも聞いてます?」

    孤児院への訪問は一週間後である。それまでにセリフを覚えないといけないし、狼役と犬ずきん役はダンスの練習も必要だ。ダンス。バックダンサーのときの猛特訓と、ジャケットを使ったパフォーマンスでしばらく弄られたルークが、出来れば踊りたくないと思ってしまうのはしょうがないことだと思う。
    それでも、仲間達の意見も尊重したい。そんなルークをあざ笑うかのようにやりあう三人を見て、深いため息をついてしまった。あとではずれまんじゅうを食べて己を慰めよう。

    「えっと、役は……犬ずきん、狼、おばあさん兼母親、猟師の四人だね」
    「つうか犬ずきんって、ドギーしかいねぇんじゃねぇの」
    「な、なんてこと言うんだアーロン、僕以外だって立派な犬ずきんになれるよ!」
    「いや、なりたくねーわ」
    「なりたくないね」
    「なりたくありませんね」
    「どうしてこういうときの団結力はすごいんだよ!」

    考えてみろよ、とアーロンが長い腕をルークの肩に回す。静かな動きなのに、逃げられないような気がするのは気のせいだろうか。もしかしたら、狼に捕まった犬ずきんはこんな気持ちだったんだろうか。

    「犬ずきんってよ、犬耳がついたずきんをかぶってるから犬ずきんなんだろ?」
    「うん……台本の一番最初がそのナレーションから始まってるしね」
    「おまえ、見たいか? オレやおっさんの犬耳姿」

    肩にアーロンの重みと、暖かさを感じながら腕を組む。
    犬耳アーロン。犬耳モクマ。犬耳チェズレイ。別に違和感はないように思うのだ。

    (モクマさんには柴犬みたいな耳が似合うかな。チェズレイはボルゾイかな。アーロンはシェパードとか、それこそ狼の耳、似合うんじゃないかな。
    ……というか、その理論でいうと、アーロンは、僕が犬耳が似合うとでも思っているのだろうか。人前でお座り芸を仕込もうとするアーロンの思考は、ルークにはちょっと難しい。というか、犬ずきんになったら踊らないといけない。ここは反論しよう。アーロン、君にだって犬耳似合うよ自信を持って!)

    ルークの決意は少しだけ遅かったようだ。ルークが口を開けた瞬間、声を上げた人間がいた。チェズレイだ。

    「あぁ……ボスが犬ずきんなら、母親は私しか居ませんねェ。しっかりと見守って差し上げないと」
    「アーロンはやっぱり野獣――狼がいいよね。じゃあおじさんが猟師で、チェズレイと潜入組かな?」
    「えっ、ええ!」

    思わぬ話の流れて慌てて反論しようが、三人は納得したように頷くばかりだ。

    「まぁその配役が無難だろうなぁ……おっさんとオレの配役は逆でもいいんじゃねーの?」
    「ドキっ……おじさん狼になっちゃうの期待されてる?」
    「怪盗殿はそんなに私と潜入がされたいのですか?」
    「どっちも違ぇわ……」
    「では、決まりですね」
    「決まりだね」
    「決まりだな」

    三人の当然といった視線に、ルークは途方に暮れた。
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    Replies from the creator

    きたはら/しま

    DONEはみ通をよんで我慢できなくて書いた
    部屋ではなく屋上で寝ているアーロンと、なにかものを買ってあげたいルークの話
    アーロンにとって、世の中には嫌いなものばかりだ。餓え、争い、怪我、略奪、銃撃、腐ったパン、泥水。

    いつだったか。「アーロンはどうしていつもそんなに怒っているんだ?」と聞かれたことがある。決まっている、アーロンの世界には許せないことばかり目に入ってきたからだ。怒らなければ、立ち上がらなければとっくの昔に死んでいただろう。

    いつだったか。潜入した国で情報をあさるために図書館で情報収集していたとき。迷子になった子供になぜか懐かれて、絵本を読んでやったことがある。古ぼけた図書館の、これまた古ぼけた木枠ががたついている窓ガラスは、表面があめ玉みたいに波打っていた。そこから入り込む午後の光は揺らめいていて、机にぼんやりとした影を落とす。それがあんまりにも砂漠の日差しと違いすぎて、アーロンの気が迷ったのだ。その子供が、死んでしまった仲間と同じ髪の色をしていたのもいけない。
    アーロンはそのとき読んだ話も大嫌いになった。三兄弟がそれぞれ家を建て、狼が襲いに来るというおとぎ話。わらの家と木の家は吹き飛び、煉瓦の家だけが安全だったという、くだらない夢物語。

    コンクリートとガラスで出来ていた砂漠の家は、 2522

    きたはら/しま

    DONEアーロンのプロフィールにテンション上がって書いた
    ED後、エリントンで二人がご飯食べてる話
    家に帰れば明かりがついているなんていつぶりだろう。

    ミカグラ島のオフィスナデシコでは誰かしら居て、おかえりただいまは当たり前のように降ってきた。チェズレイとモクマは今は居ないけど、アーロンが無愛想に出迎えてくれるだけで一日の疲れが飛んでいくようだ。
    リビングに向かう途中、おいしそうな匂いがルークの鼻をくすぐる。どうやら、アーロンはデリバリーを頼んでいてくれたらしい。テーブルにはLサイズのミートパイにペペロニ、香ばしい匂いのフライドチキンと濃厚なマカロニ&チーズ。そこにちょこんと置いてある一個だけのチョコレートドーナッツにルークの頬は緩みっぱなしだ。

    「へへ、ありがとうアーロン。おいしそうだ」
    「ん」

    ネクタイだけを外すと、急いで椅子に腰を下ろした。ピザにはコーラだよな、と少し悪い顔をしたアーロンがペットボトルを放り投げてきた。もしかして振ってないだろうなこのボトル、とアーロンの方に向けて蓋を開けたが、シュワシュワと小さな音をたてるだけであった。へへ、とごまかすように笑うルークにアーロンは呆れたような顔をすると、ミートパイを口に放り込んだ。
    今日あったこと、アラナの見舞いのこと。昨 1863

    きたはら/しま

    DONE第8回アロルクワンドロ
    お題【童話】

    赤ずきんパロを演じることになった四人が配役決める話。アロルクはほんのり成分
    「BOND諸君。これが新しい台本だ」

    表紙に犬ずきんと書かれた冊子を受け取りながら、ルークは首を傾げた。
    確かにルーク達は一応は一度はバックダンサーとして舞台に立ったし、現在の身分も駆け出しのショーマンではある。だが、あれはあくまで潜入調査のためではなかっただろうか。

    (……そういえば、特訓大変だったよなぁ)

    正真正銘ショーマンであるモクマはともかく、素人のはずのアーロンとチェズレイの動きも美しさの種類こそ違えど夢のようにきれいだった。そもそも、あの二人は立っているだけで魅力的であるし、視線一つで人を引きつけることができる。いつだったか、そんな事を言ったら「あんな詐欺師と一緒にすんじゃねぇよ」と凶悪な舌打ちをいただいたことがあった。

    でも、アーロンの動きってすごいんだよな。こう、歩き方一つ野生動物染みているっていうか、獰猛さがのぞくっていうか……嘘みたいに長い足が、嘘みたいに速く振り抜かれて、ぴたりと静止する。無造作な動作一つ一つがかっこよくて……、うん、僕、よく一緒のステージに立てたな……。

    そんなことをつらつらと思い出していたルークを、不機嫌そうなアーロンの声が現実に引き 2983

    きたはら/しま

    DONE第七回アロルク版深夜の創作60分一本勝負
    お題:【噛み付く】

    ED後、恋人関係にある二人でビースト特番を見ながらいちゃいちゃしているお話になります
    カツンカツン、と音をたてて煉瓦道を駆け抜ける。夜のエリントンは外灯やビルの明かりで煌めいていて、眩しいくらいだ。遠くから聞こえるクラクションを背に、ルークは腕時計をそっとのぞき込む。どうやら目的の時間までには家に帰れそうだ。ふふ、と自然に頬が緩まる。

    警察の仕事はある意味体力勝負だ。
    いつ事件が起きるか予想は出来ないし、犯行は待ってくれない。エリントン中を走り回ることもあれば、逮捕のために立ち回ることもある。それでいて書類仕事も大事だ。メールや報告書を作成していると腰や目が痛くなる。それでもこの仕事はルークの夢でもあるので、ちっとも辛くない……いや、それは嘘だ。辛いときだってやるせない思いをすることだってあるが、それでも前に進むと決めた男の足を止める理由にはならない。

    ある意味仕事中毒ともいえるルークが、ほとんど定時で家に急ぐ理由。今日は、テレビで怪盗ビースト特集なる番組が放映されるのだ。



    ぜえぜえと息を切らしながら玄関にたどり着いたルークを迎えたアーロンは、理由を聞いた後空をあおいでぼそりと呟いた。

    「……頭沸いてんじゃねぇか?」
    「何てことを言うんだアーロンっ……げほっ 2923

    きたはら/しま

    DONE第6回アロルク版深夜の創作60分一本勝負
    お題:【〇〇しないと出られない部屋】

    ED後、酔っ払いルクに捕まったアロで
    アロ(自覚あり)→←ルク(自覚なし)です
    どうしてこうなった。

    アーロンは、横でキャンキャン騒いでいる金髪をなるべく見ないように目をそらしながらグラスを傾けた。ストレートの蒸留酒。胃を焼くような強いアルコールも、芳醇な樽の芳香も、今のアーロンには何の意味もない。隣から伝わるいつもより高めの体温や、少し薄くなった整髪料の匂い、そんなものに五感を支配されようとしている。

    何の反応も返さないアーロンにじれたのか、ルークの手がアーロンの肩を揺さぶる。好きなようにさせてやりながら、アルコールの所為では頭痛がアーロンを襲う。どうしてこうなった。

    「アーロン、ねぇ君聞いてるのか」
    「聞いてねぇ。酔っ払いの戯言なんざ誰が聞くか」
    「僕は酔ってないぞ!いいか、君が好きだと言ってくれるまで絶対この手を離さないからな!」
    「勘弁してくれ……」

    フィジカルお化けというあだ名をつけられるぐらい人間離れした身体能力を誇るアーロンにとって、酔っ払いの拘束なぞ目を閉じていても抜けられる。肩を少し傾けて、指が浮いたところでさっさと立ち上がれば良い。ついでに腕を引っ張って相手の重心も崩してしまえば、ソファに倒れ込むだろう。これだけ酔っているのだ、そうした 2989

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