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    きたはら/しま

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    きたはら/しま

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    はみ通をよんで我慢できなくて書いた
    部屋ではなく屋上で寝ているアーロンと、なにかものを買ってあげたいルークの話

    #アロルク
    allRounder

    アーロンにとって、世の中には嫌いなものばかりだ。餓え、争い、怪我、略奪、銃撃、腐ったパン、泥水。

    いつだったか。「アーロンはどうしていつもそんなに怒っているんだ?」と聞かれたことがある。決まっている、アーロンの世界には許せないことばかり目に入ってきたからだ。怒らなければ、立ち上がらなければとっくの昔に死んでいただろう。

    いつだったか。潜入した国で情報をあさるために図書館で情報収集していたとき。迷子になった子供になぜか懐かれて、絵本を読んでやったことがある。古ぼけた図書館の、これまた古ぼけた木枠ががたついている窓ガラスは、表面があめ玉みたいに波打っていた。そこから入り込む午後の光は揺らめいていて、机にぼんやりとした影を落とす。それがあんまりにも砂漠の日差しと違いすぎて、アーロンの気が迷ったのだ。その子供が、死んでしまった仲間と同じ髪の色をしていたのもいけない。
    アーロンはそのとき読んだ話も大嫌いになった。三兄弟がそれぞれ家を建て、狼が襲いに来るというおとぎ話。わらの家と木の家は吹き飛び、煉瓦の家だけが安全だったという、くだらない夢物語。

    コンクリートとガラスで出来ていた砂漠の家は、狼の吐息なんてものではなく軍の爆撃で何もかもが吹っ飛んでいった。

    それから、アーロンにとって安全な場所なんてどこにもなくなった。ハスマリーは紛争地帯だし、難民キャンプの治安は良いはずがない。盗まれませんように、奪われませんように、明日はご飯が食べれますように。真夜中の方が、遠くからの音がよく聞こえてくる。耳に触る誰かの潜めた足音、ナイフが肉を切る音。偵察機が一機、東から西へ飛んでいく。うるさくて、何よりその音の持ち主が家族を奪いに来るのかと思えば怖くて眠れない。
    自分の身体能力が他人のそれとはずいぶん違うと知ったのもこの頃だった。誰よりも早く確実に接近が分かるので見張りや偵察はアーロンの仕事になった。聞こえる、だから守れる。聞こえる、だからうるさくてたまらない。

    ハスマリーにいる間は、アラナや子供達を守るため。怪盗ビーストになってからは捕まらないため。寝るのは嫌いだが、室内で眠るのも嫌いだ。室内にいればそれだけ外の音が聞こえにくくなって接近を許してしまう。
    アーロンは眠るときに靴は脱がないし、毛布も使わない。いつでも起きれるように、いつでも動けるように。



    「アーロン、また外で寝てる」
    「……るっせぇよ」

    屋上までやってきたルークの、呆れたような顔を見上げながらアーロンは素っ気なく呟いた。
    ミカグラ島に来てからは、オフィスナデシコの屋上がアーロンのベッド代わりになった。ナデシコはアーロンの想像の何倍もおっかない女だった。立地から建物の構造にいたるまで、あの女は籠城戦でもやる気なのかと問いただしたいくらい、オフィスナデシコはアジトとして申し分なかった。脱出口は複数準備され、地下にはサーバールームまで完備。屋上は、隣接する建物がないので偵察も狙撃もしやすい。

    「それよりなんだよ、その手に持った物体はよ」
    「そう、コレを見せに来たんだよアーロン!君のグッズ、最新作がまた出てたんだよ」
    「……」
    「ビースト君マグカップミカグラ島バージョン、カグラ姫コラボだって」
    「びっくりするほど節操がねぇな」
    「そうか? この、椰子の実から出てくるビースト君かわいいって思うんだけど」
    「マジか……マジかテメエ」

    夜の屋上でも、アーロンの目にはルークの手の中でくるくる回されているマグカップの柄は問題なく見えている。椰子の実を爪に刺した赤いトゲトゲの何がかわいいというのか。

    逃げるように(実際牢屋から逃亡して)、縁もゆかりもない土地に来たというのに、自分のものを増やすことにためらいのない男の顔を、じっと見つめる。ルークの中には、確かにヒーローの名残のようなものが残っている。明るい緑の瞳や、すこし跳ねがちな柔らかい髪の毛だったり。弱い者の前には考えなしで飛び出してしまうところや、まっすぐとこちらを見てくるところなんて変わっていなくて、辟易とさえするくらいだ。
    勿論、アーロンが知らない部分だって多い。舌がねじ曲がりそうな甘党になっていたことも、射撃の腕も。だが、こうして、自分のものを当たり前に持とうとするところを見ると、アーロンは口を噛みしめてしまう。

    研究所に居た頃は、ヒーローは自分だけのものはほとんど持っていなかったと思う。共同の食器、共同のベッド。自分のものをたくさん持っていたのはアーロンの方だった。今は、アーロンはほとんどものを持っていない。一カ所にとどまることをほとんどしない生活だ、しょうがない。持ち物といえば、手になじんだかぎ爪とその手入れ道具ぐらいだ。

    与えられた部屋にポスターを貼り、こうして何の役にも立たないグッズを買っては飾るルークを見ていると、少なくともリカルドで理不尽に持ち物を奪われるような生活ではなかったのだと分かる。それに安心してしまうような自分がいて、どうしたって言葉に詰まる。

    「アーロンにも買ってこようかと思ったんだけどさ、モクマさんにアーロンにも好みがあるんじゃないかなって言われちゃったんだよね……」
    「よくやったおっさん!」

    掛け値なしの本気でそう叫べば、ルークが拗ねたように唇を尖らせる。ミカグラ島の一等地にあるビルの屋上からは、夜景が眩しいくらいだ。ルークの頬を照らす光に、意識を奪われていると、ルークが憤慨したように指を突きつけてきた。

    「いつか君が気に入るようなグッズを買ってくるからな!」
    「いらねーよ」

    いいからさっさと部屋に戻れとルークを追い返しながら、アーロンの顔には諦観が浮かんだ。アーロンが気に入る、ルークからの贈り物。例えそんなものをもらったとしても、アーロンには置いておく場所がない。そんなことを想像もしていない甘ったれた男の背中を見送った。




    エリントンに、アーロンの部屋が出来るのはそれからそう遠くない未来だった。そこには、アーロンの好みではない着心地だけがいい服や、ビースト君の時計やシンプルな筆記具が置かれている。
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    きたはら/しま

    DONEはみ通をよんで我慢できなくて書いた
    部屋ではなく屋上で寝ているアーロンと、なにかものを買ってあげたいルークの話
    アーロンにとって、世の中には嫌いなものばかりだ。餓え、争い、怪我、略奪、銃撃、腐ったパン、泥水。

    いつだったか。「アーロンはどうしていつもそんなに怒っているんだ?」と聞かれたことがある。決まっている、アーロンの世界には許せないことばかり目に入ってきたからだ。怒らなければ、立ち上がらなければとっくの昔に死んでいただろう。

    いつだったか。潜入した国で情報をあさるために図書館で情報収集していたとき。迷子になった子供になぜか懐かれて、絵本を読んでやったことがある。古ぼけた図書館の、これまた古ぼけた木枠ががたついている窓ガラスは、表面があめ玉みたいに波打っていた。そこから入り込む午後の光は揺らめいていて、机にぼんやりとした影を落とす。それがあんまりにも砂漠の日差しと違いすぎて、アーロンの気が迷ったのだ。その子供が、死んでしまった仲間と同じ髪の色をしていたのもいけない。
    アーロンはそのとき読んだ話も大嫌いになった。三兄弟がそれぞれ家を建て、狼が襲いに来るというおとぎ話。わらの家と木の家は吹き飛び、煉瓦の家だけが安全だったという、くだらない夢物語。

    コンクリートとガラスで出来ていた砂漠の家は、 2522

    きたはら/しま

    DONEアーロンのプロフィールにテンション上がって書いた
    ED後、エリントンで二人がご飯食べてる話
    家に帰れば明かりがついているなんていつぶりだろう。

    ミカグラ島のオフィスナデシコでは誰かしら居て、おかえりただいまは当たり前のように降ってきた。チェズレイとモクマは今は居ないけど、アーロンが無愛想に出迎えてくれるだけで一日の疲れが飛んでいくようだ。
    リビングに向かう途中、おいしそうな匂いがルークの鼻をくすぐる。どうやら、アーロンはデリバリーを頼んでいてくれたらしい。テーブルにはLサイズのミートパイにペペロニ、香ばしい匂いのフライドチキンと濃厚なマカロニ&チーズ。そこにちょこんと置いてある一個だけのチョコレートドーナッツにルークの頬は緩みっぱなしだ。

    「へへ、ありがとうアーロン。おいしそうだ」
    「ん」

    ネクタイだけを外すと、急いで椅子に腰を下ろした。ピザにはコーラだよな、と少し悪い顔をしたアーロンがペットボトルを放り投げてきた。もしかして振ってないだろうなこのボトル、とアーロンの方に向けて蓋を開けたが、シュワシュワと小さな音をたてるだけであった。へへ、とごまかすように笑うルークにアーロンは呆れたような顔をすると、ミートパイを口に放り込んだ。
    今日あったこと、アラナの見舞いのこと。昨 1863

    きたはら/しま

    DONE第8回アロルクワンドロ
    お題【童話】

    赤ずきんパロを演じることになった四人が配役決める話。アロルクはほんのり成分
    「BOND諸君。これが新しい台本だ」

    表紙に犬ずきんと書かれた冊子を受け取りながら、ルークは首を傾げた。
    確かにルーク達は一応は一度はバックダンサーとして舞台に立ったし、現在の身分も駆け出しのショーマンではある。だが、あれはあくまで潜入調査のためではなかっただろうか。

    (……そういえば、特訓大変だったよなぁ)

    正真正銘ショーマンであるモクマはともかく、素人のはずのアーロンとチェズレイの動きも美しさの種類こそ違えど夢のようにきれいだった。そもそも、あの二人は立っているだけで魅力的であるし、視線一つで人を引きつけることができる。いつだったか、そんな事を言ったら「あんな詐欺師と一緒にすんじゃねぇよ」と凶悪な舌打ちをいただいたことがあった。

    でも、アーロンの動きってすごいんだよな。こう、歩き方一つ野生動物染みているっていうか、獰猛さがのぞくっていうか……嘘みたいに長い足が、嘘みたいに速く振り抜かれて、ぴたりと静止する。無造作な動作一つ一つがかっこよくて……、うん、僕、よく一緒のステージに立てたな……。

    そんなことをつらつらと思い出していたルークを、不機嫌そうなアーロンの声が現実に引き 2983

    きたはら/しま

    DONE第七回アロルク版深夜の創作60分一本勝負
    お題:【噛み付く】

    ED後、恋人関係にある二人でビースト特番を見ながらいちゃいちゃしているお話になります
    カツンカツン、と音をたてて煉瓦道を駆け抜ける。夜のエリントンは外灯やビルの明かりで煌めいていて、眩しいくらいだ。遠くから聞こえるクラクションを背に、ルークは腕時計をそっとのぞき込む。どうやら目的の時間までには家に帰れそうだ。ふふ、と自然に頬が緩まる。

    警察の仕事はある意味体力勝負だ。
    いつ事件が起きるか予想は出来ないし、犯行は待ってくれない。エリントン中を走り回ることもあれば、逮捕のために立ち回ることもある。それでいて書類仕事も大事だ。メールや報告書を作成していると腰や目が痛くなる。それでもこの仕事はルークの夢でもあるので、ちっとも辛くない……いや、それは嘘だ。辛いときだってやるせない思いをすることだってあるが、それでも前に進むと決めた男の足を止める理由にはならない。

    ある意味仕事中毒ともいえるルークが、ほとんど定時で家に急ぐ理由。今日は、テレビで怪盗ビースト特集なる番組が放映されるのだ。



    ぜえぜえと息を切らしながら玄関にたどり着いたルークを迎えたアーロンは、理由を聞いた後空をあおいでぼそりと呟いた。

    「……頭沸いてんじゃねぇか?」
    「何てことを言うんだアーロンっ……げほっ 2923

    きたはら/しま

    DONE第6回アロルク版深夜の創作60分一本勝負
    お題:【〇〇しないと出られない部屋】

    ED後、酔っ払いルクに捕まったアロで
    アロ(自覚あり)→←ルク(自覚なし)です
    どうしてこうなった。

    アーロンは、横でキャンキャン騒いでいる金髪をなるべく見ないように目をそらしながらグラスを傾けた。ストレートの蒸留酒。胃を焼くような強いアルコールも、芳醇な樽の芳香も、今のアーロンには何の意味もない。隣から伝わるいつもより高めの体温や、少し薄くなった整髪料の匂い、そんなものに五感を支配されようとしている。

    何の反応も返さないアーロンにじれたのか、ルークの手がアーロンの肩を揺さぶる。好きなようにさせてやりながら、アルコールの所為では頭痛がアーロンを襲う。どうしてこうなった。

    「アーロン、ねぇ君聞いてるのか」
    「聞いてねぇ。酔っ払いの戯言なんざ誰が聞くか」
    「僕は酔ってないぞ!いいか、君が好きだと言ってくれるまで絶対この手を離さないからな!」
    「勘弁してくれ……」

    フィジカルお化けというあだ名をつけられるぐらい人間離れした身体能力を誇るアーロンにとって、酔っ払いの拘束なぞ目を閉じていても抜けられる。肩を少し傾けて、指が浮いたところでさっさと立ち上がれば良い。ついでに腕を引っ張って相手の重心も崩してしまえば、ソファに倒れ込むだろう。これだけ酔っているのだ、そうした 2989

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