あ や 🍜☆quiet followDONE(ちせはる)『外の世界に踏み出した珂波汰くんのもとに那由汰くんが戻ってきたなら、ふたりの世界に居続けることを選んだ晴臣くんのもとに智生くんは帰ってこないかもしれない』ということに気付いて書き始めました。話自体はハッピーエンド(のつもり)です。 ##ちせとはる Age verification Tap to full screen .Repost is prohibited Let's send reactions! freqpopularsnackothersPayment processing Replies from the creator Follow creator you care about!☆quiet follow あ や 🍜DONEちせはる/リクエスト/20230101 鶴の恩返しみたい。 内容については考慮せず、状況を喩えただけの話だ。閉ざされた扉を眺めながら智生は思う。 晴臣の『籠城』が始まって三日が経った。制作期間に入ると、機材の揃った自室に籠って彼はほとんど外に出てこなくなる。合鍵を勝手に拝借し、ワガモノ顔で彼のフラットに入り浸っている相棒の存在にもお構い無しだ。――最悪、智生がいることにさえ気付いていないかもしれない。 それなりのエネルギーを使っているだろうに腹も空かないらしく、食事もほとんど摂ろうとしない。世間は『九頭竜智生』を天才だなんだと持て囃すが(そしてそのこと自体を否定するつもりもないが)、真の天才とは彼のような存在を言うのだと思う。音楽に魅せられ、取り憑かれ、――紡ぐ音はどれも至高で唯一無二。あの仏頂面からは想像も付かぬほど、色鮮やかで表情豊かな楽曲たち。 2018 あ や 🍜DONEちせはるちせ/風邪を引いた晴臣くん。「臨時休業の張り紙しておくね」 「……ああ。ありがとう」 礼を告げた晴臣のくちびるから、間髪入れずに乾いた咳が零れ落ちる。喉の奥から気管支をたどり、肺の方へ向かってヒリヒリとした違和感が張り付いていた。……これは本格的にまずそうだと他人事のように思う。 昔から、ちょっとしたキッカケで風邪を引くと良くない拗らせ方をするのだ。高熱を出して二、三日寝込むことさえある。 今も微熱を伴う倦怠感が全身に纏わりつき、身体を起こしていることも正直億劫になってきている。仕込みを出来ないこの状況では、しばらくは雷麺亭を開けることも難しいだろう。 ほとんど落下するようにソファに腰掛けた晴臣は、ぐらつく視界に重たい瞼で蓋をする。たったそれだけのことだが、具合の悪さは幾分もマシになったような気がした。それほど、視覚から得られる情報をうまく処理することが出来なくなっているらしかった。リビングを煌々と照らすLEDの光がこんなにも憎い。 1755 あ や 🍜DONEちせはるちせ/晴臣くん、28歳の誕生日星の夜をかぞえる 夏の残香が色濃く滲む夜だった。 ベランダの柵に頬杖をついて、煙草の煙をふわりと吐き出した晴臣はひとり静かに星の海を眺めている。――否、途方もないような探し物をしているのだ。 ――ほら、見て 記憶の中の智生は秋の夜空を指さしながら隣の晴臣へ笑顔を向けた。 ――あれにしようぜ ――……? ――どこ見てんの? カラカラと笑い声を上げながら、彼は掬い上げるように晴臣の顔を覗き込む。睫毛が触れ合いそうな距離で視線が交わり、彼の美しいアメジストの中に晴臣は自身の姿をみとめた。……はっとして思わず息をのむ。 それを悟られないようにむうとくちびるを引き締めたまま視線をそらし、晴臣は彼の指先を辿るのだった。返すべき言葉も、彼の指し示す『あれ』も、見つけられていないから。――けれど、晴臣が答えを得る前に隣にいたはずの智生の姿は無慈悲にもぱちりと霧散する。 4457 あ や 🍜DONEちせはる/BOOST用に書き下ろしたものの再録です。診断メーカー結果『晴れやかに鼻梁に愛玩のキスをされるところを書く』より。 今でも『あの日』を夢に見る。 抵抗する術もなく、温度を失った水の中を真っ逆さまにずぶずぶと沈んでいくような感覚を覚えた。何度味わっても絶対に慣れることはないし、慣れたいとも思わない。千切れた意識をかき集めながら、晴臣は、悪夢から覚める方法を探し続けている。――ここまで重たいトラップ反応は久々だった。父親の死と、相棒の死。心臓に絡み付くふたつの『トラウマ』を、しかしどちらも手放すことなんて出来ないのだ。 吐いた息はごぽごぽと音を立てながら、水の中をゆっくりと浮上していった。 「(……お前も、俺を置いていくのか)」 無意識に腕を伸ばす。けれど、水を掻く指先は何も捕まえることが出来ない。 ――痛くて、寂しくて、苦しくて、哀しい。悲鳴を上げそうになるくちびるを噛み締める。 1286 あ や 🍜DONEはるちせ/麦茶セふたたび→再録本に入れるにあたって非公開にしました。 2908 あ や 🍜DONEちせはる/ライブ終わり。 閉じた瞼の内側に眩いほどの光と音が鮮明に映し出される。何千ものヘッズたち――その一人ひとりと、あの瞬間たしかに繋がっていたのだ。他でもない武雷管の音楽を通して。 ライブの余韻を引き摺ったまま楽屋まで戻ってきた晴臣は、全身を纏う武装を解くように衣装をひとつずつ外していく。熱狂と興奮に『浮かされた』身体を正しく現実に引き戻す行為だ。 ファントメタルを含む装飾品と、トップスとインナーもすべて脱ぎ終えた。そうして剥き出しになった皮膚を、常時よりも低く設定された冷房の風がそろりとなぞる。ライブ終わりの火照った身体に気を遣われているらしい。物理的にも身体の熱が冷めていく感覚がある。 首を動かし辺りを見渡した晴臣は、ふと今更なことに思い至った。……着替えを入れた鞄は何処へやったか。脱ぎ始める前に手元に置いておくべきだったとちいさな後悔を抱えながら、視線を右へ左へと動かしていく。――と、同時に。 1456