30日CPチャレンジの15日目『いつもと違う服で』「本当に着物を着たことがないの？」
九頭龍の母は、タンスを漁り、衣裳箱を発掘し、部屋を慌ただしく動き回りながら、小さく呟いた。

日向は努めて礼儀正しく微笑んだ。
「七五三の時以来です」
日向は、座布団から動かないように、少しそわそわしていた。 日向は、夕食が終わるやいなや、恋人の母親につかまって引きずり出されたことを、あまり快く思っていなかったが、壁に掛けられた薙刀が、単なる飾りではないことは、フックを開けた状態ではっきりと見えた。

九頭龍は、薙刀が見えるところでは、決して母に逆らうなと言っていた。 また、薙刀が見えないところでも母に逆らうなということも忠告されていた。 日向はそれを実践するつもりはなかった。

「ふーん...成人式にも出ないの？」

日向は苦笑した。その年の成人の日は、母親の死から1週間も経っておらず、生産的なことをする気分でもなく、ましてや恣意的で古臭い形式的なことをする気分でもなかった。
「俺は...行かなかったんだ。その日は気分が良くなかったんだ」

「そうですか... それは残念です」
彼女は白い房のついた黒い羽織を持って歩いてきて、袖を日向の腕にあてがい、長さを判断した。
「うーん...。これはちょっと大きすぎるかも。主人が若い頃のものがないか見てみます...」

「あの...こんなことしなくても...」
と、ひなたは逃げ道を探そうとした。

「なんてこと」
と九頭龍の母は言い放ちました。
「成人式にはちゃんとした写真を撮らなくちゃね。 あんたにも撮ってあげようと思って」

「待てよ、写真って......」
日向は目の前で手を振った。
「いや、それは...つまり、俺はもう25歳だから、そんなことする必要は......」

「ん？」
彼女は優しく微笑んだが、その視線には確かに危険な気配があった。

「俺...その...」
視界に薙刀が映り、日向は萎縮してしまった。
「迷惑をかけたくないから......」

「そんなことないですよ！」
九頭龍の母は、もう一枚の羽織を見つけ出し、日向の胸元に差し出しました。
「うん、こっちの方が似合うと思う。まだ、少し後ろがあいてしまうけど......」

日向はため息をつき、負けを認め、できる限りリラックスした。小柄な女性がうろうろしながら、この着物と袴を取り出し、時折日向に立ち上がって試着を要求し、別のものに交換した。

「そう、」
彼女は呟きながら、一番最近彼に押し付けられた袴のウエストをつまんだ。
「これならうまくいくと思うわ。ただ、あなたに合うように仕立ててもらわないとね...」

「待って、仕立てるの？」
日向は警戒して尋ねた。

「そう、写真のためね」
と彼女は優しく言った。
「でも、長い目で見れば、自分に合った正装が必要です。 組に入ったら、冬彦ちゃんのパートナーとして、おしゃれをすることもあるでしょうから」

「ま、待てよ」
一歩下がった日向の声は少し震えていた。
「俺は組に入るつもりはありません！」

「あら...そう？」
彼女の目には、再びあの危険な輝きが戻ってきた。
「あらあら......それは残念なお知らせね......。じゃあ、うちの冬彦ちゃんともいつか別れるつもりで付き合ってるんだね？」

日向は再び後ずさり、今度は長すぎる袴の脚につまづいて床に倒れ、大きな音を立ててサイドテーブルにぶつかった。
「俺は...いいえ、もちろんそんなことはありません！俺は決して... つまり、もちろん彼と別れたくはないんです」
彼は立ち上がろうと必死になって言いよどんだ。
「俺はただ、組に加わるのは、その...ほら、わかるよね？」

彼女は軽快に口ずさんだ。
「いや... わからないんです。 教えてください、創ちゃん...」

「日向！」
障子の戸がバタンと開き、九頭龍が大きく息を吐きながら立っていた。
「母さん、何やってるんだ......ああ、もう......」
彼は目を見開いて日向を見つめ、それから母の方を振り向いた。
「ここで一体何が起こっているんだ！」

「あら、冬彦ちゃん、どうかしら？」
彼女は歌いながら、日向の羽織を引き寄せ、ついでに彼の胸を撫で下ろした。
「まだ未完成ですが、この服を着るとイケメンに見えると思いませんか？」

九頭龍は頬を赤らめて日向を見つめた後、視線を外し、毅然と足元を見つめた。
「母さん、どうするんだい？あいつはあなたが遊ぶ着せ替え人形じゃないのよ！」

「冬彦ちゃん、質問に答えてないじゃない。」

九頭龍は苦しそうな顔をして、日向から母に視線を移し、そして最後にため息をついて、
「はい、母さん、イケメンに見えるよ」
と言い、いつもイケメンだな、クソ...と呟きながら言葉を濁した。

日向は彼の顔が温かくなるのを感じ、咳払いをして目を逸らした。 おそらく、彼はそれを聞くつもりはなかったのだろう。

「そうですね......むしろ、こうしている方が花婿にふさわしいとさえ言えますね」
九頭龍の母はそうつぶやき、日向を上目遣いに見て、目を輝かせた。
「そういえば、私の花嫁衣裳もこの辺にあるはずだわ。冬彦ちゃんにも似合うかもしれないし、二人の写真も可愛く撮れそうだし......」

「母さん！」
九頭龍は顔を真っ赤にして叫んだが、それ以上の抗議は喉から手が出るほどで、必死に母から薙刀、そして最後に日向を見た。

日向は同情してにやりと笑うと、羽織の袖から手を出して、こっそりと九頭龍の手を探した。そして、九頭龍の指を包むと、ぎゅっと握った。

これからどんな拷問が待っていようとも、せめて二人で立ち向かおう。

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