ピザ屋のアルバイトの帰りにお店を出ると走って帰るには悩むぐらいの雨が降っていた。
今日は天気予報まで見ていなかったので傘は持っていない。
さてどうしようかと考えていると、
「青斗っ」
「……あれ、樹?」
そこに現れた見慣れた人影に驚く。
樹はこちらのアルバイトにはなかなか遊びに来てくれない(ピザを警戒している気がしている)のでここにいるのは珍しい。
「用事を片付けついでに近くだったので迎えに行こうかなと思っていたところです」
「ちょうど今アルバイトが終わったところだったから助かったよ、ありがとう」
「いえ、お礼には及びませんよ」
「今日雨予報じゃなかったから折り畳み傘も置いてきちゃってて……」
と言うと何だか機嫌が良さそうな樹がそういう時もありますよ、と笑ってくれる。
「白鷹さんなんて何も持たずに出かけて帰れないと黄島さんに泣きの連絡を入れていましたよ。先程渋々黄島さんが迎えに行ったみたいです」
「あはは……光牙さんらしいな」
見てもいないのにその様子が思い浮かんで笑いが溢れる。それじゃあ帰ろうか、と樹を改めてみると傘は差している1本しかなくて。
「あー……その、私もついで状態でこちらにきたのでこれしかなくて……」
「なるほど……、?」
説明に納得しかけたけれどもしかしてこれは相合傘になるんじゃないか、と気付く。
「どうかしましたか?」
「あの、えっと、俺は大丈夫だけど樹が嫌じゃないかなって…………」
「?あぁ、相合傘がですか?気にしませんよ。雨が酷くなったら途中で傘を買えばいい話ですし」
それに、と言葉が続く。
「……知っていますか?傘の中が1番綺麗に相手の声が聞き取れるらしいですよ。狭いですからそう聞こえるだけかもしれないですが、」
帰りながら試してみませんか?
と誘われたので樹が握っていた傘の持ち手を持ってその誘いに乗った。