或る仙の日常 陽が山の稜線に隠れそうな頃合い、ちいさな田舎街の石畳をひとり、のんびりした歩調で上りゆく男がいた。肩から黒い鞄をひとつ掛け、服装は至って普通のシャツにパンツといったこの街でもよく見る風合いである。しかし、飛び抜けて目立つ優美な風貌をしていた。
男はひとつ角を曲がると、小さな路地裏に入り進んだ先の扉のベルを鳴らした。ジーッと音が鳴り、少し待つ。すると足音がし、ガチャッと扉が開かれるとともにあたたかな光が部屋の中から差した。
「おかえり、思ったより早かったな」
「汽車の便数が多くなっていて」
もう汽車じゃないぞ、ずいぶん前から電気駆動だからな。そう笑いながら出迎えた男も少し厳しめの面立ちをしてはいたが、また美貌の持ち主だった。
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