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    takami180

    @takami180
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    曦澄のみです。

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    曦澄ワンドロワンライ
    第二回お題「失敗」

    付き合ってない曦澄、寒室にて。

    #曦澄

     夜、二人で庭をながめる。
     今夜は名月ではない。寝待月はまだ山の影から顔を出さない。寒室の庭は暗く、何も見えない。
     藍曦臣はちらりと隣に座る人を見た。
     あぐらをかき、片手に盃を持ち、彼の視線は庭に向けられたままだ。
     こうして二人で夜を迎えるのは初めてだった。
     江澄とはよい友人である。月に一度は雲深不知処か蓮花塢で会う。何もしない、ぼんやりとするだけの時間を共有させてもらえる仲である。
     それでも、亥の刻まで一緒にいたことはない。江澄が藍曦臣を気遣って、その前に必ず「おやすみなさい」と言って別れる。
     今晩はどうしたのだろう。
     平静を保ちつづけていた心臓の、鼓動が少しばかり速くなる。
     宗主の政務で疲れているのだろう。いつもより、もう少しだけ酔いたいのかもしれない。きっと彼に他意はない。
     自らに言い聞かせるように考えて、白い横顔から視線を引きはがす。
     庭は、やはり何も見えない。
     ことり、と江澄が盃を置いた。その右手が床に放り出される。
     空っぽの手だ。
     なにも持たない手。
     いつもいろんなものを抱え込んでふさがっている彼の手が、膝のわきにぽとりと落とされている。
     藍曦臣は手を伸ばした。手のひらに、手のひらを重ねる。指の間に指をすべりこませて、力を込めた。
     江澄の肩が揺れた。だが、振り払われることはなかった。
    「もうすぐ、亥の刻ですね」
    「そうだな」
    「江澄」
     藍曦臣が呼んでも、彼はかたくなに庭を見続けている。
     その目元が赤い。酔っているのだ。酔っているだけにすぎない。でも、もしかしたら、少しだけなら触れることを許してもらえるのではないだろうか。
     藍曦臣は握った手を引いた。思いのほか軽く、江澄の体が傾く。肩が触れる。
     江澄は抗議もせずに、藍曦臣の肩に頭を預けた。そればかりか、もぞもぞと動いて、ちょうどいい位置におさまってくる。
     これは本当にどうしたものか。
     膝の上に握った手を引き上げて、藍曦臣は思案した。
     酔っているのか。弱っているのか。友だから許されているのか。
     考えたところで分からないのは道理だ。尋ねればいい。だが、聞く前にもう少し、不安を取り除きたい。
     重ねた手を見つめる。人差し指で人差し指をなでる。指がぴくりと動いて、ぎゅっと握り返された。
     鼓動がいっそう速まる。
    「江澄……?」
     返事はない。そろりと顔を動かすと、もたれかかっていた頭が持ち上がった。
    「藍渙」
     一瞬にして身の内が焦げそうになった。
     親しくなって、友と呼べるまでになって、藍曦臣が彼を名で呼ぶようになっても、江澄はずっと字で呼んでいた。
     理由など、どうでもいいではないか。今、目の前にあるのは彼の瞳だ。小さく揺れる瞳が見ているのは自分だけだ。
     藍曦臣が頬に手を添えると、江澄はゆっくりとまぶたを落とした。
     顔を寄せる。
     酒で濡れた唇に触れる。
     すぐに離すと、握った手が震えた。
     藍曦臣はもう一度口づけた。江澄が体を引こうとするのを片手で抑えて、さらに唇を押し付ける。
    「ん」
     すくんだ肩を抱き、わななく唇をついばみ、舌で舐めた。は、とわずかに開いた隙間に舌をすべりこませる。
     驚いたのだろう。握っていた手に力がこもった。
     藍曦臣はまず硬直する舌を舐めた。それから、歯茎をなぞり、上あごをなで、ようやくおびえはじめた舌をもう一度絡めとる。
    「ふ、あ……」
     江澄の手が白い袖の端をつかんだ。すがるように、指が衣にしわを作る。
     藍曦臣は腹の底から湧き上がる勢いのままに、江澄を床に押し付けた。
     彼の目が、大きく見開かれて藍曦臣の顔を映す。
     ようやく顔を出した月の光が、寒室に差し込んだ。
    「すまない」
     藍曦臣は慌てて体を起こした。腕を引いてやると、江澄も起き上がってくる。だが、彼はうつむいたまま顔を上げない。
     なんてことをしたのだろうか。
    「すまない、江澄。私は」
    「いい、謝るな」
     謝罪の言葉を遮られ、藍曦臣は口をつぐんだ。そのまま、沈黙が落ちる。
     亥の刻に入る。
     月は次第に空の高い場所へと上っていく。
    「寝る」
     唐突に江澄が口を開いた。彼はパッと立ち上がると、寒室を出て行く。
    「……おやすみなさい」
     藍曦臣は引き止めることができなかった。
     追いかけることもできなかった。
     指先で抹額に触れる。細く、長く、息を吐いた。
     月は夜空を上り続ける。
     寒室に差し込む光は静かに傾いていった。
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    PROGRESS長編曦澄17
    兄上、頑丈(いったん終わり)
     江澄は目を剥いた。
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    「何をしている!」
     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
    「ど、どうした」
    「怪我はありませんでしたか」
    「見ての通りだ。もう左腕も痛みはない」
     江澄は呆れた。どう見ても藍曦臣のほうがひどい怪我だというのに、真っ先に尋ねることがそれか。
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     藍曦臣は目を細めた。その拍子に目尻から涙が流れ落ちる。
     江澄は眉間にしわを寄せた。
    「おかげさまで、俺は無事だったが。しかし、あなたがそ 1337

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     その日は各々の牀榻で休んだ。
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     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
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     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
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    PROGRESS恋綴3-5(旧続々長編曦澄)
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     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

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    DONEプライベッターから移動。
    TLで見かけて可愛くて思わずつぶやいたカフェ曦澄の出会い編。
     その日、藍曦臣がその店に入ったのは偶然だった。
     一休みしようと、行きつけの喫茶店に足を向けたが、残念ながら臨時休業だった。そう言えば前回訪れた際に、店主が豆の買い付けのためにしばらく店を休むと言っていたことを思い出す。それがちょうど今月だった。休みならばまっすぐ家路につけばよかったのだが、喉が乾いていたのと、気分的にカフェインを摂取したくて仕方がなかった。ならば、と喫茶店を探しながら大通りを歩いたが、めぼしい店が見つからず、あったのはチェーン系のコーヒーショップだった。
     藍曦臣が外でコーヒーを飲むのは常に、注文を受けてから豆を挽き、サイフォンで淹れてくれる店で、チェーン系のコーヒーショップは今まで一度たりとも入ったことがなかった。存在そのものは知識として知ってはいるが、気にしたことがなかったため、今日初めてこの場所に、コーヒーショップが存在する事を認識した。
     戸惑いながらも店に足を踏み入れる。席はいくつか空いていたが、席へと誘導する店員はおらず、オーダーから受け取りまでをセルフで行い自分で空いている席へと座るのだと、店内を一瞥して理解した。
     あまり混んでいる時間帯ではないのか 3066

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    PROGRESS恋綴3-7(旧続々長編曦澄)
    別れの夜は
     翌日、江澄は当初からの予定通り、蔵書閣にこもった。随伴の師弟は先に帰した。調べものは一人で十分だ。
     蔵書閣の書物はすばらしく、江澄は水に関連する妖怪についてのあらゆる記述を写していった。その傍ら、ひそやかに古傷についても調べた。しかしながら、薬種に関する書物をいくらひもといても、古傷の痕を消すようなものは見つからない。
     江澄は次に呪術の書物に手をかけた。消えない痕を残す呪術があることは知識として持っている。その逆はないのだろうか。
     江澄は早々に三冊目で諦めた。そもそも、人に痕を残すような呪術は邪術である。蔵書閣にあるとしても禁書の扱いであろう。
    「江宗主、目的のものは見つかりましたか」
     夕刻、様子を見に来た藍曦臣に尋ねられ、江澄は礼を述べるとともに首肯するしかなかった。
    「おかげさまで、江家では知識のなかった妖怪について、いくつも見つかりました。今までは海の妖怪だからと詳細が記録されてこなかったものについても、写しをとることができました」
     たしかに江家宗主としての目的は果たせた。これ以上に藍家の協力を得るのは、理由を明かさないままでは無理なこと。
    「あなたのお役に立てたなら 2224

    pk_3630

    MAIKING平安時代AUの曦×澄♀ ②
    今回は帝(主上)曦臣が女官の中から江澄♀を探し出します。
    ちょこちょこ続きを書いていこうと思っているのでお付き合いいただけると嬉しいです。
    平安時代の衣装や行事等そんなに知識なく書いているのでそのあたりはスルーしてください。
    平安時代AU 第2話「大変ですっ!主上がこちらに向かっていらっしゃいます」

    女官達が集まり、次の宮中行事の衣装を準備していた時だ。まだ年若い女官がばたばたと慌てて入ってきた。常なら大きな足音をさせてはしたないと叱るだろう古株の女官達も、主上のお出ましとあっては目を白黒させている。
    すぐに衣装を片付けるように指示が出たが、片づけ終わる間もなく主上が入室した。
    「忙しいところに急に来てしまって悪かったね。」
    「主上、とんでもないことでございます。御見苦しいところをお見せしてしまいました、お許しください。」
    女官達がひれ伏していると、皆顔をあげるようにと言われた。
    主上を間近で見ることなどそうないことであったため、皆が好奇心を抑えられずにそろそろと顔を上げる。後方に控えていた江澄も前の女官達にならって顔をあげると、驚いたことに主上がこちらをじっと見ていた。
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