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    白い桃

    @mochi2828

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    白桃です。
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    白い桃

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    Twitterにあげていた生存Sc博になります

    貴方がどうしたって隣に居てよ「勝っ…………た……?」

     ロドスアイランド製薬、その本艦で定期的に開催されるスツール滑走大会にて。
     優勝常連者であり、私物のスツールを持ち出して参加したlogosを僅差で抜いて、今大会で優勝をおさめたのは──未だに信じられないと大会で吹き飛んでいったサングラスはそのままに、珍しくも目元を露わにしてスカーフの中で息を切らしているScoutであった。
     わああ! と観戦者、それから感染者が一気に湧き立って、男も女も関係なくとんでもない盛り上がりを見せている。カジミエーシュの騎士競技でも見ていたかのような盛況さだった。
     今回もlogosが優勝するに違いないと賭けて大損をした者は龍門幣を床へと叩きつけ、勝利した者は「Scout! 愛してるぞ!!」とその叩きつけられた紙幣を天井へぶち上げてひらひらと空気中に舞わせている。こんな有様をケルシーが目撃したのなら、全員が説教と粛清を喰らうだろうが、生憎と我らが優秀なる医師殿はCEOの手によって強制的に仮眠を取らされている最中だ。そして可愛らしいCEOは優勝したScoutに向かって満面の笑みで惜しみない拍手を贈っている。最後の頼みの綱であるクロージャは、残念ながら賭けの胴元なので、誰もこのトンチキ祭りを止める者は居ない。そう、ロドスの作戦部門、その長であるドクターもこの騒ぎを止めるなんて野暮な真似をしなかった。だって、この大会の勝利はScoutの悲願でもあった──らしいので。去年の彼は大層悔しそうな様子でした、と記憶を失ったドクターに教えてくれたのは、目覚めた時に女の子らしい小さな手を差し伸べてくれたアーミヤだった。
     優勝者よりも喜んでいる大衆の間をドクターはするすると抜けて、呆然としたままの狙撃手の前に立つ。それから彼のスカーフに隠された頬に手を伸ばし──。

    「優勝おめでとう、Scout。優勝者にはトロフィーの授与と……賞品があるんだ」

     とても柔らかい声で、児戯に全力を尽くした男にそう言った。

     スツール大会の賞品は、その当日まで明かされることはなく。ドクターが手元のチケットのようなものをひらひらと振って、Scoutに差し出しながら心底可笑しいという声色でもって優勝者に告げる。

    「優勝者には、“休日に私──ドクターの隣で一日を好きに過ごせる権利”を与えるそうだ。どこにでも連れてって良いし、私が受け入れられる範囲ならどのように過ごしたって良いらしい。私これ初耳なんだけど?」

     シンと静まり返った中でカラカラ笑ってドクターは、「はい、」とチケットをScoutに差し出す。大したことはなさそうだが、少しでも自身の行動に関する権利を自らの手で渡すという行為はどこか倒錯的ではないか? ズゴゴ、とスツール大会後の水分補給の為、ドリンクをストローで啜っていたAceはそう思った。なんせ相手は本命であるドクターには童貞か? と言ってしまいそうなほど奥手になる人物であるからして。
     ごく、と誰かの喉がなる音が──聞こえずにただドクターの「うわぁ?!」という声だけがあたりに響いた。感極まったScoutがドクターを抱き上げたのだ。

    「ドクター!!!」
    「エなに、あの……降ろしてくれないか……怖い、勢いが怖いよScout……」
    「来年も優勝の賞品はこれにしてくれ!!」
    「聞いてない、微塵も聞いてないなコレ……。ん、賞品? 私と過ごす一日のこと?」
    「そう、それだ! ドクターの隣が賞品になるのなら、俺は死んだって毎回優勝する。誰にだって譲ってやらんアンタの隣は俺が死守する!」
    「んん……」

     ミチミチと身体を締め上げてくる鍛え抜かれた両腕の中でもぞ、とドクターは身動ぎする。Scoutの口から放たれた言葉にピュウ! とブレイズが口笛を鳴らした。他のエリートオペレーターも参加している中でとんでもないこと言うなあ、と感心した故の口笛である。事実、パッと軽く辺りを見渡すだけで衝撃すぎる賞品の内容を聞いてギチギチ歯軋りしているMiseryと、とんだ宣戦布告にほう、と目を丸くしたlogos、ゲラゲラとバカにしたように笑い転げているAceがいるのだ。
     彼らが、そして他の参加者が居る中で毎度優勝する、なんて喧嘩を売っているようなものだろう。あの男はそれに気づいているのだろうか、嬉しすぎて気づいてないんだろうなあ。よいしょ、と一緒に観戦していたロスモンティスを抱き上げたブレイズは「乱闘になる前に少し離れようねー」とよちよちその場から離れていった。喧嘩はとりあえず殺気だった野郎どもだけでやれば良いのである。女子供を巻き込むな。

     ワイワイガヤガヤと騒ぎになっている中で、周りの気も知らずまだしっかりとドクターを抱き上げているScoutは、夢見心地で抱えたドクターのフードに頬を擦り付けた。すり、と布同士が擦れる音が互いの耳だけに薄っすらと響く。明日か、明後日か。兎に角いつか訪れる“一日”は、俺だけのドクターなのだ。そんな激情に動かされながらScoutは譫言のように「ドクター、」と口遊んでは、頬を繰り返し押し付けている。
     うっとりとした様を隠しもしないサルカズに抱えられ続けているドクターはまた「んん……」と唸って──どうにか引っこ抜いた腕で彼の顔を押し返した。しつこい、の意味ではなく一旦離れてくれ、の抵抗だった。離れた頬に満足したドクターはマスクに隠された口をScoutの耳に寄せて、ぽそ、と誰にも聞こえないように囁く。

    「ねえ、Scout」
    「ん? どうしたドクター、疲れたのか? ア、降ろす? 降ろすか?」
    「いいや、どうかこのままで。ええと、その……」

    「私は毎日訪れる朝──特権であるおはようの声も、おやすみの挨拶も君に一番にされたいんだけど……君は違ったのか? 私はどこかの、君がリラックス出来る一日だけしか、必要ない?」
    「え、」
    「朝から夜、揺り籠から墓場まで。私の隣は君が良いな、Scout」

     そんなの、そんなこと。

    「俺もに決まってるだろドクター! 俺の朝も、夜も、この声だって! 一片も残さずアンタの隣に置いてくれドクター!」

     なんだなんだとヒソヒソ会話している周囲を置いて、Scoutは更にキツくドクターを抱き締める。ぐえ、と固い胸元で漏れた声は彼に届く前にMiseryの「良い加減にドクターから離れろお前は!」という怒号に掻き消されてしまった。
     そんな声も辺りの喧騒も有象無象の僻みとしか思っていないScoutは、ドクターに見えないようにしつつ綺麗に中指を立てて「ドクターの隣は永久欠番だ!」と言い残し狙撃手らしからぬ速度で駆け出し、その場から逃げ出していく。「ハァ?!」「良いぞScout!」「お前ふざけんなよ!」などなど。色々な声を背にしながらScoutはワハハと笑った。釣られてドクターもくふ、と笑ってしまう。どうやら二人で来年の景品を考えなければならないようだ。
     二人で引っ付いてはああでもないこうでもないと言い合って、素顔を見てはまた笑う。優勝しなくたって君には隣をあげるけど、こんな風に過ごせるのは嬉しいな、というドクターの言葉に「賞品関係なくまた優勝します。俺は本気だ」と幸せ絶頂期のScoutがオペレーターたちに宣言して、エリートオペレーターを中心にした袋叩きに合うのは──なるべくしてなった結果であろうか。
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    白い桃

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     ロドスアイランド製薬、その本艦で定期的に開催されるスツール滑走大会にて。
     優勝常連者であり、私物のスツールを持ち出して参加したlogosを僅差で抜いて、今大会で優勝をおさめたのは──未だに信じられないと大会で吹き飛んでいったサングラスはそのままに、珍しくも目元を露わにしてスカーフの中で息を切らしているScoutであった。
     わああ! と観戦者、それから感染者が一気に湧き立って、男も女も関係なくとんでもない盛り上がりを見せている。カジミエーシュの騎士競技でも見ていたかのような盛況さだった。
     今回もlogosが優勝するに違いないと賭けて大損をした者は龍門幣を床へと叩きつけ、勝利した者は「Scout! 愛してるぞ!!」とその叩きつけられた紙幣を天井へぶち上げてひらひらと空気中に舞わせている。こんな有様をケルシーが目撃したのなら、全員が説教と粛清を喰らうだろうが、生憎と我らが優秀なる医師殿はCEOの手によって強制的に仮眠を取らされている最中だ。そして可愛らしいCEOは優勝したScoutに向かって満面の笑みで惜しみない拍手を贈っている。最後の頼みの綱であるクロージャは、残念ながら賭けの胴元なので、誰もこのトンチキ祭りを止める者は居ない。そう、ロドスの作戦部門、その長であるドクターもこの騒ぎを止めるなんて野暮な真似をしなかった。だって、この大会の勝利はScoutの悲願でもあった──らしいので。去年の彼は大層悔しそうな様子でした、と記憶を失ったドクターに教えてくれたのは、目覚めた時に女の子らしい小さな手を差し伸べてくれたアーミヤだった。
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