未定「なんか長くないか?髪」
「そうか?まぁそんなに切る機会もなくてな」
シャアは肩をすくめながら答えた。
「切ってやろうか?」
「君が?」
「意外と器用なんだぜ」
アムロは右手をチョキの形にしてハサミで切るように人差し指と中指を動かしながらそう言った。
「誰かの髪を切った事は?」
「もちろんないよ」と悪戯っ子のような意地悪な笑顔の彼は断られるはずもないと、そう思っているに違いなかった。
「遠慮させていただこう」
腕の見込みのないエセ美容師にお願いするほどシャアは髪の長さに困ってはいないので当然の返答だった。しかしそんなやりとりも虚しく、今アムロの右手には鋏が握られていて、シャアはそのアムロの前に座り首の下には髪の毛避けの布を巻かれている。
「本当にセイラさんと兄妹なんだな」
シャアの髪の毛を手櫛でときながらアムロは呟いた。
「髪の毛が、かい?」
「うん。とても綺麗だ」
素直な感想だった。キラキラと透き通って見えるその髪は、自分のものとは大きく違い、全くの別物で、同じ成分から構成されているとは到底思えないものだった。日の光の下であれば、もっと綺麗だろうな、とそんな事をふと思った。
「アルテイシアの事が気になるのか?」
「まさか。まぁでも昔は憧れたよ」
シャキシャキと、小気味の良い音が不安定なリズムを刻みながら部屋に落ちる。
「癖毛は多少適当でもどうにかなるんだ」
「もしかして君は自分で髪を?」
「分からなかっただろ?そんなもんだよ」
「案外上手いのかもしれないな」
シャアはくっくっと笑った。
「あぁ!動かないで」
「失礼」
それからしばらくは散髪の音だけが穏やかに流れた。