ひみつのおはなし(ロドスキッチン編) 暑く、熱く、乾いている。
彼は砂に埋もれていた。身体が熱い砂に埋もれている。絶え間なく吹き付ける風のせいで、口の中は砂でいっぱいだった。喉が渇くのはそのせいだ。砂が唾液も何もかも吸い取ってしまうから。
彼はもがいたが、熱を掻き分けても、ますます沈んでいくばかりだ。水。水が欲しい。サボテンはそこら中にある。その果肉が貴重な水分となることを彼は知っている。棘だらけの植物は目の前だというのに、踏み出した爪先は沈み、どうしても前に進むことができない。埋もれ行く彼の手を誰かが掴んだ。熱砂の只中にありながら、凍り付いたような美貌。ケルシー――否。あの女は、彼の手を握ったりなどしなかった。つまり、これは夢だ。こんな夢を見ている自分に彼はひどく苛立ち、失望した。だが、確かに誰かが彼の手を握ってくれている。大きな手が。
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