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    @vermmon 成人済/最近シェパセ沼にはまった。助けて。

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    時期不明だけど、多分付き合って間もないシェパセ。パセの心がいかに狭いか、夢で実感するシェ。パセの心の広さは四畳半くらいだと思ってたけど、シェと付き合い始める前は二畳だった。茶室の話は、へうげを読んでふわっと覚えてた事をそれっぽく書いただけです。

    #シェパセ

    君の心の小宇宙 ゲームセンターの一画に、数人の人だかりができていた。どうやら、ダンスゲームの順番待ちをしているうちに、話が盛り上がってしまったらしい。
     シェーシャが友人たちの後ろからのぞき込むと、どうやら旅行雑誌を眺めてああだこうだと意見を言い合っているようだった。
     雑誌を手にしているのはアカフユで、アオスタとフレイムテイルが彼女の左右に座っている。極東特集のページを、出身者のアカフユがいろいろと解説しているらしい。ふんだんに使用された写真には、炎国とも異なるエキゾチックな景色が写っていた。山や森はサルゴンの熱帯雨林ともクルビアの山脈とも異なり、どこか厳かな感じがする。
     アカフユはかなり目が悪いはずだが、写真について説明する分には問題ないのだろう。
    「この部屋はなんです? 倉庫ですか?」
     アオスタが写真を指差す。確かに狭い部屋だった。床には黒い縁取りがされた長方形が二枚並んでいて、極東の民族衣装を着た人物が一人、ちんまりと脚を畳んで座っている。極東人がやや小柄であることを差し引いても、その部屋はどう見てもロドスの宿舎の半分以下の大きさだった。
    「これは極東式のティールームの元祖となった建物だな」
    「「「ティールーム!?」」」
     意外過ぎる答えに、雑誌を除いていた全員が声を合わせた。
    「いや、狭すぎじゃないですか?」
    「ホスト一人、ゲスト一人を想定している……らしい」
    「あと、これ入り口どこ?」
    「ここだ。この角に木の引き戸がついている」
    「小っっさ! っていうか、こんなの屈まないと入れないじゃん!」
    「まさに、それがこの入り口の狙いなのだ」
     アカフユはフレイムテイルに頷いて見せると、神妙な口調で解説した。
    「極東式のマナーは主に武士の間に広まったが、当時、最も権威ある作法の教師はひとりの商人だった。彼がこのティールームを考案したのだ。この入り口は狭すぎて、刀を帯びたまま部屋に入ることはできない。外に棚があるだろう? 生徒は入り口で武装を解除し、頭を下げて中に入る。このティールームの中で、両者は対等だった」
     彼女の言葉を聞き、皆の口から「ほう」という溜息が漏れる。
    「武士って、騎士みたいなものなんでしょ? 商人のくせに無礼だーって怒られなかったの?」
    「もちろん、怒る者もいた。だが、そういった者は生徒たちが作るコネクションから徐々に排斥された。権威にこだわる者よりも、相手の地位に関わりなく頭を下げて教えを請うことができる者の方が先に行くのは当然のことだ」
    「なるほどねぇ」
    「だが、このティールームは確かに狭すぎでな……一度だけ入ったことがあるが、私は落ち着かなかった。私の作法の教師はこの狭さが良いと言っていたが、私がその境地に至ることはなかったな……」
     彼女の話を聞いていたシェーシャは、見取り図付きの写真を眺めて、なんだかパッセンジャーの心みたいだと思った。青年は年上の恋人をこよなく愛していたが、美しいリーベリの捻くれぶりと心の狭さについては流石にフォローできない。我ながら悪趣味だとは思うが、まさにそこが好きなのだ。
    「あれ、シェーシャじゃん。いつからいたの?」
    「私がティールームの説明を始めた頃からだな」
    「うっそ、気づかなかった!」
    「ふふ。修行が足りぬな、フレイムテイル」
    「僕は気づいてましたよ」
    「いや、気づいてたなら声くらいかけろよお前ら。俺は邪魔しちゃ悪ィと思って黙ってたんだぞ」
     その後、彼らと対戦ゲームを始めた事で、その狭いティールームのことは、シェーシャの頭からすっぽりと抜けてしまった。

       +


     荒野の只中に、木と紙でできた小さな建物があった。極東式のティールームだ。岩と砂だらけの土地に異国の建物がぽつんと建っている光景は、奇妙ではあったが違和感は感じなかった。周囲を見渡しても他に何もなく、誰もいない。あるのはサボテンくらいだ。
     シェーシャは「これは夢だろうなぁ」と思いつつ、躊躇いなく建物に近づいた。その中に恋人がいると解っていたからだ。
     入り口の傍にある棚に銃を置く。弾帯も外して隣に置いた。隠しポケットにもいくつか予備の武器が入っているので、コートを脱いで上に載せる。完全に武装解除したことを確認すると、小さな木の扉をじっと眺める。確か極東では、室内は土足厳禁だったはずだ。これがパッセンジャーの心なら、もちろん土足で踏み入るのはご法度だった。だが、どう見ても靴を脱ぐスペースがない。
     少し考えた後、青年はブーツの留め金を外して紐を緩め、簡単に脚を抜くことができるようにした。ノックしようとして止め、単に声をかける。
    「邪魔するぜ」
    「どうぞ」
     そっけない声は、入れるものなら入ってみろという冷たい響きを帯びている。シェーシャは思わず笑みを浮かべると、壊れやすそうな引き戸を慎重に開け、腰をかがめ、角がぶつからないように頭を下げて狭い入り口をくぐった。建物の床は彼のすねくらいの高さにあった。這うようにして中に入ったシェーシャは、床に腰を下ろして振り向き、手探りでブーツを脱いだ。脚をひっこめると、ようやく全身が室内に入る。彼は少し考えて、乱雑に投げ出されたブーツを入り口の傍に揃えて置いた。そうしないと、部屋を出るときに難儀しそうだったからだ。この建物は、中に入ろうとするだけで嫌でも礼儀作法が身に着くようになっているらしい。これを考案した教師は、よほど合理的な人物だったのだろう。
     溜息をついたシェーシャは、ようやく室内に目を向けた。パッセンジャーがそこに座っていた。彼は長い脚を正座というスタイルに折りたたみ、編んだ草でできた床に直接座っている。部屋の中は暗く、ガラスの代わりに薄い紙が貼られた窓が、外の明かりを透かして白く光っている程度だ。
     部屋は狭いだけでなく、天井も低かった。長身の上に大きな角を持つシェーシャは勿論、パッセンジャーですら背を伸ばして立つことは不可能だろう。手足を伸ばして寝そべるのも難しそうだ。
     それでも、シェーシャは不思議と居心地が悪いとは思わなかった。荒野を旅していた頃、悪天候を避けて身を寄せた洞窟を思い出す。ここは寂しいほど静かで、安全な隠れ家だった。
     パッセンジャーの背後には壁に見間違えそうな白い引き戸があって、僅かに開いた隙間から中の様子が見えた。どうやら、床から天井まで、古い紙の束がぎちぎちに詰め込まれているらしい。中途半端に飛び出した写真には、血を流して倒れているヴィーヴルの男が写っていた。多分、あれがソーン教授なのだろう。シェーシャの視線に気づいたパッセンジャーは、写真を紙の間に押し込み、戸をぴたりと締めた。
     木と紙で出来たその戸は微かに膨らみ、パッセンジャーの背に圧し掛かっているように見える。彼は記憶力に優れており、見聞きしたことをほとんど忘れなかった。それは嫌な出来事を忘れられないという意味でもある。いったい、あの中にどれくらい良い思い出があるのだろう。苦しみの記憶があまりに多すぎて、探し出すのは大変な作業かもしれなかった。
     アカフユが「床の間」と呼んでいたスペースには、さっきのヴィーヴルとフードの老人の写真が置かれ、小さな野花が添えられている。彼らはパッセンジャーの良い思い出に属しているのか、優しく微笑んでいた。床の間の壁にはサルゴンのナイフが深々と突き立てられており、一枚の写真を縫い留めている。そこに写っている女性はシェーシャも見知った顔だったが、礼儀を守って何もコメントしないことにした。彼女はまさしく、パッセンジャーの地雷だった。彼自身の口から語られるまで、シェーシャは何も訊かず、言わないと決めていた。
     室内を観察し終えたシェーシャは、パッセンジャーの前に胡坐をかいて座った。正座の仕方は以前アカフユにレクチャーされていたが、彼は正座ができない側の人間だった。出来ないのは自分だけではなかったので、彼はあまり気にしなかった。
    「シェーシャくん、ここが何処なのか知っていますか?」
     パッセンジャーは辛抱強く黙っていたが、目が合うなりそう言った。どうやら、彼自身は気づいていないようだ。
    「お前の心だろ?」
    「私の?」
     心外そうに眉をしかめるリーベリに、青年は肩を竦めた。
    「ここは狭い」
    「否定はしません」
    「武装解除して敵意がない事を示し、靴を脱いで頭を下げて敬意を払う人間だけが入ることを許される」
    「なるほど、確かにその通りだ。ここは私の心の中なのですね」
     素直に頷いたあたり、自覚はあるらしい。
    「ではシェーシャくん、君は私が見ている夢ですか?」
    「はァ? お前が夢だろ。俺が極東のティールームなんかの夢を見てるのは、昼間、写真で見たからだ」
     パッセンジャーは、この返答には納得がいかないようだったが、追求しないことにしたらしい。
    「ともかく、ここはティールーム……なのですね? では、お茶を淹れてあげましょう。私がホストなのでしょうし」
     流石は夢というべきか、リーベリはどこからともなくカップを取り出し、シェーシャの前に置いた。極東式のお茶がどういう物かは知らないが、これは絶対に違った。パッセンジャーが差し出したのはシェーシャが愛用する赤い竜のプリントがついたマグカップで、中に入っているのは紅茶だった。
    「何かご不満でも?」
    「いや、お前らしいと思って」
     紅茶は美味しかった。角砂糖を二つ。シェーシャ好みの甘さだ。
     彼はひと口飲み、胸を抑えて倒れた。
     痛かった。身体ではない。心が痛かった。引き裂かれそうだった。
     シェーシャが苦痛に呻いていると、にじり寄ってきたパッセンジャーが彼の頭を膝に乗せ、赤い髪を撫でた。
    「苦しいですか、シェーシャくん?」
    「苦しい……兄貴が死んだ時くらい……」
    「そうですか」
    「これがお前のもてなし方か?」
    「そうです。私と一緒にいれば、君はそうやって苦しむことになります。今でなくても、いずれ」
     パッセンジャーは何の表情も浮かべていなかったが、髪を撫でる手は愛情に満ち、灰色に沈んだ瞳は寂しげだった。
    「ここを出れば、痛みは消えます。動くことくらいはできるでしょうから、早くお逃げなさい。苦痛を長引かせたくはないでしょう?」
     それを聞いて、シェーシャは笑った。
    「ここにいるよ」
    「即答しないで、少しは考えなさい」
     青年は答えず、恋人の脚を撫でた。ほっそりとした腿は温かく、いい匂いがした。彼は内腿の青白い肌に自分のものだという印をつけるのが好きだった。
    「皆に毒を飲ませて撃退したのか?」
    「多分、そうなんでしょう。何人くらいが私の心に入ろうと試みたのかは知りませんが、留まることが出来た者はほとんどいませんし、結局、彼らもいなくなりました」
    「お前のお茶は甘かった」
    「私が振る舞えるのは毒入りのお茶だけです。君もそのうち耐えられなくなります。だから、早く出て行ってください。君の写真をあそこに飾るのは嫌です」
     パッセンジャーがそう言うと、シェーシャの顔に温かい雫がぽたぽた落ちた。
     リーベリの顔は影になって見えなかったので、シェーシャは腕を上げ、手探りで彼の涙を拭った。
    「お前と一緒にいられないなら、俺はどこにいたって同じくらい苦しむと思う。だから、ここにいる」
     青年は涙で濡れた指を舐めた。塩辛かった。
     パッセンジャーが泣きながら呟いた。
    「ばか……」
     シェーシャは笑い、目を覚ました。


     瞼を開けると、腕の中にパッセンジャーがいた。ヴィーヴルは多少、夜目が利く。リーベリが不機嫌そうな寝ぼけ顔をしているのを見るには、常夜灯の明かりで十分だった。
    「シェーシャくん……」
    「ああ」
    「君は馬鹿なの?」
    「多分」
     シェーシャは恋人の目許を拭い、濡れた指を舐めた。塩辛かった。
     彼は笑った。
     二人が同じ夢を見たのだとしたら、それは間違いなく魂の共鳴だった。
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