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    shakota_sangatu

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    shakota_sangatu

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    ロがそもそも吸.血.鬼で、ドがロの小さい頃に求婚してるやつ

    #ドラロナ
    drarona

    さよなら、白薔薇 それは、薔薇の棘のように深々と突き刺さった。
     幼い幼い、無垢でうつくしい約束……。

     出会いは、薔薇園だった。

     古き血の中でも、さらに尊い血。竜の一族と呼ばれる吸血鬼達が住まう城にて。彼らに呼び出された兄に伴われ、豪奢な調度品が置かれた古城を訪れた子どもがひとり。
     目新しいモノと、見慣れない物ばかりで、あたりをきょときょとと見まわしているうちに、愛しい兄とはぐれてしまって。おさないこどもはまろい頬を真珠の涙で濡らしながら、しゃっくりと上げてとぼとぼとお城の中をさ迷い歩いていた。
     会合があっているせいで、場内には人影はなく。子どもの小さな泣き声は、闇を優しく揺らすだけ……。
     目元を擦りながら、古城の中を迷い歩く子どもが辿り着いたのは、瑞々しく咲き誇った薔薇の香る美しい庭だった。
     たっぷりのパニエで膨らんだ、白いフリルドレスがふわりと風で揺れる。
     子どもは、涙の粒を湛えた目を大きく見開いて、美しく咲くピンクローズを見上げた。
     吸血鬼でありながら、上等なアクアマリンの宝玉と同じ色を宿す子ども。それは、ブルーアイズと尊ばれる、吸血鬼でありながら天使とも称される一族の証。
     見るものを魅了する、青い目を持つ愛らしい子どもが、一輪の薔薇に手を伸ばしかけて。
    「危ないよ」
     背後からそっと、指先を攫ったのは、冷たい温度を宿す青年の手だった。
    「棘で怪我をしてしまう」
     声変わりした青年の低い声が、優しい口調でそう囁いて。振り返った子どもの青い眼差しの中に、白檀のような香りを纏う黒髪の吸血鬼が映り込む。
     いつの間にか、子どもの後ろにしゃがみこんでいたその吸血鬼は。子どもの手をとって、その指先に柔らかな口づけをひとつ捧げた。
    「こんばんは、麗しきブルーアイズ……。昼の色を纏う我が同胞」
    「──、──、こ、こんばんは」
     子どもには刺激の強すぎる、一つ一つが完成された大人の仕草。それに、まろい頬を真っ赤に染めて。どもりながらも挨拶を返せたのは、身に着けた教養が成せる技だろう。
     この城の吸血鬼にみつけてもらったことに気付いた子どもは、すぐに自分が人の庭に咲く薔薇に触れようとしたことに気付いた。
    「あの、」
    「迷い込んだんだろう? わかっているよマドモアゼル」
     へにょんっと、眉を下げれば。その吸血鬼は軽やかな口調でそう言って、くすくすと優しく笑う。
     子どもが、初めての場所で迷子になってしまったことなど、彼はきっと造作もなく分かったのだろう。けれど、その青年は子どもを叱ることも、嗤うこともしなかった。
    「失礼、もしよければ、お兄様のもとに案内してもいいかな?」
     どこまでも優美に、淑女に向けた紳士の行動で。そう尋ねた吸血鬼に、子どもはさらに真っ赤になってしまい……。ただ、こくんと頷く事しかできなかった。
     おずおずと頭を下げた子どもに対し、吸血鬼は無作法を指摘するようなことをしなかった。
    「可愛い人、抱き上げてもいいかな」
    「う、うん」
     どこまでも紳士的に、子どもを抱き上げる。無意識に首元に縋りついてくる、その小さな手を厭うことなく。吸血鬼は、ただ、柔らかく笑っていた。
    「だいじょうぶだよ、お嬢さん」
     吸血鬼の目には明るく見通す夜のなか、闇夜の紳士は蕩けるように優しい声で。
    「私が、護ってあげようね」
     ──それが、はじまり。これが、出会い。
     青き目の天使と、竜の末裔の出会い。

     ドラルクという名の、竜の一族の長子と、青き目の吸血鬼の交流は、美しい映画の一幕のようだった。

     出会い以降、ドラルクにすっかり心を赦したこどもは、竜の城に兄が滞在した一週間、夜の訪れとともに彼の姿を探すようになった。
     大人たちの会合に参加するには、こどもは幼すぎたからかもしれない。兄の居ない時間を過ごすには、退屈な思いをさせない存在を、求めてやまなかったのかも。
     ドラルクという吸血鬼と過ごす時間は、こどもにとって魔法にかかったように心躍るひと時だった。
     美味しい紅茶、美味しいお菓子、見た事も無い宝物に、心躍る物語。
     珍しい吸血鬼だったこともあり、傷つくことが無いよう、あまり外に出して貰えなかったこどもは、ドラルクが与える全てに夢中になった。
     兄以外の優しい大人の存在が、心を掴んではなさなかったのかも。
    「可愛いねぇ、お嬢様」
     ドラルクが紡ぐ物語の一つ一つにこどもがきらきらと目を輝かせれば、彼はリボンを飾った銀の髪に触れてうっとりとした口調でそう言った。
    「物語のお姫様より、君の方がいっとう可憐だよ」
     それはある日の、ドラルクがいつものようにとある物語を語り聞かせたあとの出来事。
     その唐突な言葉に、こどもがゆでだこのように真っ赤になったのは当然の結果で……。
     小さな両手で顔を覆ってしまったこども、その指をひとつひとつ引き剥がしながら。その日のドラルクは、少しだけ意地悪な顔で俯いたこどもの顔を覗き込んだ。
    「ねぇ、私の可愛いお嬢様……、大きくなったら、どうかプロポーズさせておくれ」
    「──、───、」
    「私のお嫁さんになって」
     その優しく、甘い言葉は、まるで呪いのように。
     薔薇の棘よりも深々と、心に残る呪いとなったのだ。


     宝石散らしたヘッドドレスに、フリルたっぷりのドレス。白いストッキングに、つやつやのリボンローファー。


     それが、その首に喉仏が張るまで、俺に赦されていた偽りの少女の姿。
     天の一族は、幼少期は虚弱で身罷りやすい。ゆえに、幼いうちは、魔よけのために異なる性別の衣装を……。それは、数世紀前に存在した一族の長老が残したという言葉。
     その者の言葉通り、天の一族と言われたブルーアイズは、他の長命な古き血の一族たちと比べれば短命を言わざるを得ない程、儚くこの世を去っていた。
     短命ゆえに天の一族と呼ばれた自分たちが、それでも、外の血を受け入れるようになって徐々に徐々に寿命を延ばしていき、今では容姿のみの麗しさから天の一族と呼ばれるようになりはしたけれど。
     それでも、一族に長く染みついた因縁から、幼少期に本来とは逆の性別の衣装を着せる習わしは残っていた。
     だから、お嬢さんと呼ばれた子どもこそが嘘偽りで。
     赤いローブを纏った、男の姿こそが正しいのだと分かっている。
     ロナルドは、告死天使(アズライール)の称号を与えられた、天の一族の期待すべき次兄である。天の一族と呼ばれる彼らは、この世に生まれ出でる『誕生日』とは別に、正しい性別の衣を纏う日を『降臨日』と呼ばれて。専用の衣装と、天使に準えた称号が与えられる。
     現当主であり、ウリエルの称号を持つヒヨシの、善き右腕、それがロナルドの求められた姿であり。吸血鬼でありながら、十字の装飾が施された赤い外套を纏う姿は、一族においても畏怖の象徴とされていた。
     昼の色を目に宿し、天と呼ばれるがゆえに、銀が効かない一族。
     畏怖すべきブルーアイズたちの中で、退治人と呼ばれる聖なる吸血鬼。
     そんな男がいつまでも、少女だった頃の自分を探していると知られれば、きっと一族の誰かを失望させてしまうのだろう。
     彼が愛らしい少女だったのは、喉仏が浮かびはじめる15歳までの頃のこと。
     柔らかな陽光を写し取ったような銀の髪に、空を切り取ったような極上のアクアマリン。薔薇園が似合う至上の美少女の片鱗はもはやその色彩だけ。
     あんなに柔らかだった四肢は男らしく屈強に、彫の深い顔立ちに、眉もまた男らしいキリリとした形へと。まるで人間の退治人の如く、十字をあしらった深紅の衣装は、彼の男らしい顔立ちによく映えた。
     ──、それは、正しいことだ。ロナルドが、天の一族と、告死天使と呼ばれるに相応しい、精悍さを備えている事は、当主である兄の威厳にもつながる。
     天使の称号に相応しい、偉大な兄……。彼の為に、ロナルドは、男らしくあるべきなのだ。
     ──、だから。
     この心に、心に突き刺さって抜けない、小さな棘があることは。
     恥でしかない、そのはずだった……。

     普段は写りたがらない鏡の前で、小さな子供用のドレスを手に立ち尽くす。

     ことの発端は、倉庫を物色していたヒマリが、「小兄が着てた服?」と言って、白い薔薇のレース飾りがあしらわれた少女用のドレスを持ってきたことが始まりだった。その白いドレスは、かつての記憶と共に、普段は蓋をしていたロナルドの懊悩を溢れださせる切っ掛けになったのだ。
     「棄てとくわ」とそう言って、その場では、ヒマリからドレスを回収したロナルドだったが。いざ、部屋の中にそのドレスを持ち込むと、姿見にかけている布を落して、鏡に映り込む自分の姿と手の中のドレスを睨みつけている。
     そう、その、筋肉質な身体では、腕をいれることさえ叶わないドレスを……。
     皺が寄るほど握りしめて、けれども引き裂くことができないのは秘めた記憶が囁き抱えるから。
     それは、心に突き刺さって離れない、誓いの思い出。
     それは、竜の城での、小さな小さな初恋の記憶。
     かつてロナルドは、ひとりの男を騙したことがある。
    『マドモアゼル』
     思い出す、耳元で囁かれる甘い声……。かつて、幼いロナルドを少女と信じた吸血鬼が居たこと。
     その男はすらりと背が高く、とても博識で、いつだって蝶のように花のようにロナルドのことを扱ってくれた。
     あの頃、性別を偽ることに不満はないものの、多少のおかしさを感じていた。けれど、彼の前でだけは、どうか少女で在りたいと願っていた。
     相手が自分のことを女の子だと勘違いしたと、最初に気付いた時、ロナルドは本当のことを言い出せなかった。あの日兄とはぐれて、迷子だったロナルドを見つけてくれた彼。その美しい真紅の目が、奇異なものを見るように自分を見て欲しくなかったからかもしれない。幼い頃の自分の感情はよく分からないけれど、きっかけはきっと些細なものだったのだ。
     あの頃のロナルドは『女の子』として、彼に扱われることに夢中になっていった。
     彼に、可愛いと言われることが好きだった。
     彼に、エスコートされるのが大好きだった。
    『マドモアゼル』
     あの優しい声を、思い出すだけで堪らなくなるほどに。
     逢瀬を重ねるほどに、積み上がっていく罪の意識に知らないふりをしていたあの日々。
     いつか、本当のことを言うべきだったのに、伝える事も出来ずに甘えていた時間。
    『ねぇ、私の可愛いお嬢様……、大きくなったら、どうかプロポーズさせておくれ』
     それは、今でも、忘れられない言葉。
     その優しく、甘い言葉は、まるで呪いのように。
     薔薇の棘よりも深々と、心に残っている……。
    『私のお嫁さんになって』
     そう言って、月明りの下で貴方は小さな薬指に口付けた。その少女はもう、この世にはいないのだ。喉仏がはったとき、あの少女はあの優しい手の中から泡となって消えた。
     だって、此処に居るのは……。鏡の中に写っているのは。
     がっちりとした体格の、背の高い男がひとり。
    「──、───、」
     無意識に、唇をかみしめていた。鏡の前で呆然と立ち尽くしていたロナルドは、手にしたドレスを握り締める手に力を籠める……。忘れようとしていた、蓋をしていた記憶が溢れだした代償で、その手はひどく汗ばんでいた。
     暴れ出したいような、酷い気分だった。それでも、手の中の絹を引き裂かなかったのは、衝動的な感情では壊しきれない想いが宿っていたからで。
     ロナルドは、小さく息を付いた……。そうして、再びまじまじと鏡を覗き込むと、恐る恐るドレスを、サイズも全くあっていない自分の胸元に広げた。
     告死天使は夢想する、かつて自分の中にあった、彼に愛された女の部分を……。女性になりたいわけではないけれど、敵わぬ恋と共にぐすぐすになった変身願望が身体に染みついていて。
    「──、────っ、」
    「ちょっとえぇか?」
    「そぉい!」
     くしゃりと顔を歪ませて、引き裂きかけたドレスは……。けれど、扉の向こうからの兄の問いかけによって命拾いし、部屋の隅へと放り投げられた。
     その間、ほんの数秒……。自慢の長い脚を生かして扉へと向かったロナルドが、兄を招き入れれば。当主であるヒヨシは、少しだけ焦った様子のロナルドに、気づいたらしい。
    「どうかしたか?」
    「な、なんにも」
    「そうか」
     尋ねるけれど、深追いはせず。話題を流したヒヨシは、真剣な表情でロナルドを見上げた。
     無意識に零れ落ちる、ウリエルを冠する、一族の当主のプレッシャーに、ロナルドはすっと背筋を伸ばす。
    「お前には、そろそろ、観念してお見合いをしてもらうぞ」
    「う、それは、」
     ヒヨシの言葉に、ロナルドは少しだけたじろいだ。それは今までロナルドが渋って、先延ばしにしてきたことだったから。今回も、できれば、回避したいのだろう。
     視線をさ迷わせる弟に、兄は申し訳なさそうな表情を向ける。
    「お前の意思を尊重してやりたいんじゃが、成人したら見合いをするのは一族の習わしじゃからのう……、すまん、ロナルド」
    「いや、俺こそ、ごめん」
     あやすように、ヒヨシが、しゅんっと項垂れる弟の肩を叩く。そうして、偉大な兄は僅かに微笑んだあと、当主らしい厳格な表情を浮かべて。
    「相手は、竜の一族の者じゃ。粗相のないようにのぉ」
    「──、はい、」
     その言葉に、返事を返しながらも。
     竜の一族という言葉に、ロナルドの中で、泡となって死んだはずの少女が、恨めしそうにこちらを見つめているのを感じた。


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