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    toritoritototo

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    Δノスクラ出会い捏造その3。人間ノスは十代後半で御真祖様が創った吸対一年生。もう少し続きますが更新は遅めです。

    #ノスクラ
    nosucla.

    Δノスクラ出会い編3 作業は難航している。
     自然のものではなく科学の力でもなく、人ならざる化け物の特殊な力で作り出されたらしき氷の塊は尋常ではない硬度を誇り、かつ雑な強硬手段を取れば『中身』にどのような影響が出るか解らない。聖別された銀のナイフで氷の表層を削り落とせることが判明したが地下室の壁面を覆う氷はぶ厚く、文字通りの手作業では運び出せる状態まで切り出すなどどれだけの時間がかかるのか考えたくもなかった。
    「今はデータを取って、明日以降出直すしかない」
     というのが、“D”を除いた部隊全員の結論だった。ノースディンとしても、土木作業にも似た重労働は可能な限り避けたい。
     “D”は、おそらくはノースディンを含む彼が直に選抜した隊員達以外からは察せられない程度の表情の変化で、ごく僅かに落胆の気配を覗かせたものの特に異論は無いようだった。もしここで彼が「ヤダ、今すぐ持って帰る」などと言おうものなら、勿論全員が死ぬ思いで『何とか』したのだろうが。
     ともあれ、とノースディンは解析サンプル用として氷の表面を削り落としながら氷塊の内側で眠っている男を見上げた。
     眠っている。そう見える。手鏡での確認も踏まえダンピールの男が見せた狂乱を思い起こせば、この男こそが『居る』とされた吸血鬼で間違いないはずだ。実際のバイタルを確認するには氷が厚すぎるため計測できていないが、灰になっておらずこれだけの人間が廃教会と地下に出入りして何の反応も示さないのであれば、やはり眠っている……休眠状態であるというのがが最も近しいのではないだろうか。
    「どういう状況でこうなっているんだ……」
     氷の内側で眠る男には、黒い杭が全部で十三本突き刺さっている。幾本かは氷の厚みより長く僅かに先端が突き出ているものの、引き抜けば中の男にどのような影響があるか分かったものではない。
     何かしらとの戦闘があったのだろうとは想像に易い。杭に貫かれている以上に、男の身体は随分とボロボロだ。
     まず右足の膝から下が無い。切断されたのではなく強い力で引き千切られたように、乱れた衣服が中途半端な長さで残っている。両手足の何処も切り裂かれ、抉れ、左手は何本かの指を失っているようだった。
     そして一際目立つのが、大きく深く裂けて抉れた脇腹だった。凍りついていても一目で深手だと分かる、下手をすれば内蔵にもダメージを受けているだろう傷だ。
     吸血鬼が頑丈にできている種族であるという点を引いても中々の重傷であり、その上で串刺しになっているのだから灰になっていないのが不思議なほどだった。ノースディンは何度か覗き込む角度を変えて、眠る男の顔を観察してみる。
     彫りの深い、気難しげに眉を寄せたごく普通の男だ。凍りつく直前の栄養状態が良くなかったのか、些か頬が痩けているような気もする。癖の強い黒い巻き毛は背中まで伸びているが、不思議と不潔さや粗野な印象は見受けられない。
     どういった吸血鬼なのか、今の段階では何の情報も無いがもし何処か高名な血族の一員であれば、“大真祖”への手がかりになる可能性は否定しきれない。衣服の端にルーツを司る紋章の一つでも刻まれていないかと視線を巡らせてみるが、端々が擦り切れ千切れた黒い布を厚い氷越しに観察しても納得のいく答えは得られそうになかった。
     やはり、最終的には覚醒させる事になるのだろうか。ざりざりと削ぎ落とした氷の破片を指先で弄び、体温で溶ける様子がないことを確かめたノースディンはちらりと地上へと続く通路に視線を向けた。
     後はヨロ、と軽い調子で口にした“D”は気がかりが残っているのか、再び地上の探索へと戻っていった。彼の行動が突飛で常人には理解し難い尺度である事などとっくの昔に思い知らされているのは、何もノースディンだけではない。護衛(便宜上、だ。誰もが足手まといにならないだけで手一杯だというのに、立場が単独行動を許さないだけである)を一人伴っただけでも御の字だった。
    「ッ、……!」
     視線を逸したのが悪かったのか、集中力が途切れていたせいか、不意にノースディンの左手の指先に鋭い痛みが走った。びくりと大きく肩を跳ねさせ息を詰めるも、原因はすぐに知れた。
     何のことはない、氷を削る銀の刃が力加減を誤って滑り皮膚を切り裂いたようだった。作業の邪魔になるからと白手を外していたため、守るものが無かった人差し指の中程が裂けあっという間に真っ赤な血が盛り上がって指の付け根を伝い落ちる。深くはないが浅くもない、よく動く部位のため常に引き攣れるだろう事が予測される面倒くさい怪我のようだった。
    「くそっ……」
    「おいノースディン、サンプル取り終わったらこっちを手伝ってくれないか?」
     咄嗟に傷口を舐め取ろうとしたノースディンの動きを止めたのは、狭い地下通路の壁を僅かに削りながらも何とか運び込まれた機材の調整を行っていた隊員の声だった。俺はこういうの苦手なんだ、とぶつくさと文句を垂れる相手に呆れて片眉を跳ねさせたものの、はい、と礼儀を忘れぬ返事を返してナイフを仕舞い、サンプルケースの蓋を閉める。
     その些細な動きで、伝った血が白い制服の袖口を汚した事に気が付いた。
    「……最低だ!」
    「あーあ、何やってんだ新入り」
    「白い制服の宿命だよなぁ……絆創膏いるか?」
     思わず口から飛び出した舌打ちを咎める者はおらず、ままあるよなぁ、などと零す隊員達の間に流れる空気がほんの少しだけ緩やかになった事をノースディンだけが気付かなかった。
     そして誰もが気付けなかった。
     年若い青年の手から滴り落ちた鮮血が、ちいさな一滴が、氷塊からかすかに顔を覗かせた黒杭の先端に、眠る吸血鬼の正に心臓を貫くそれにぽたりと落ちて吸い込まれた事に。


    「おい……何か変じゃないか?」
    「何かって、何がだ」
     オーディオに似た形状の対吸血鬼活動阻害装置の配線を、どうしたら間違えられるのかと疑問に思いながらも一つ一つ繋ぎ直していたノースディンの聴覚が、緊迫と困惑の入り混じった会話を拾い上げたのは特に何の意識を向けていたという訳では無かった。
     特に自分に向けられていた訳でもなく、警告の意図があった訳でもない他人同士の会話が耳に届いたのは、単純に一つの作業が終わって肩の力を抜いたタイミングであったからだ。後はちゃんと電気が通っているかを確認する段階に落ち着き、ノースディンはしゃがみ込んでいた姿勢から膝を伸ばし、全身を大きくしならせるようにして背筋を正す。
     ぐっと視線の高さが上がれば、機材向こうで氷塊を調べていた隊員達の間で密やかに、しかし明確に動揺の波紋が広がっているのが見て取れた。
     何か変化があったのか、と僅かに眉を寄せたその瞬間。
    「杭が!」
     悲鳴とも警告の叫びとも取れる声音の奥、飛び込んできた光景にノースディンはぎょっと目を見開いた。どくりと大きく心臓が跳ねる衝撃は、鉛の塊を呑み込むに似た怖気そのものと言えただろう。
     氷漬けの吸血鬼を貫く十三本の黒杭が、熱したチョコレートのようにどろりと形を失い溶けて落ちていく。氷から飛び出して先端を覗かせるもの、氷の内側に完全に収まっているもの、それらの全てが唐突に形を崩し、液状になって流れるように落ちながら、しかし一滴の欠片さえ地に滲みを作ることなく霧散して消えていく。
     異常な光景はしかし、吸血鬼という異能種が生み出すものとしては珍しくもなく、そして人間種にとって致命的になり得る可能性もまた珍しい事ではない。ぴしり、と冷え切った地下室に響く乾いた音に真っ先に反応したのは、隊の中で二番目に長く“D”の部下として働いてきた男だった。
    「“D”に報告! 此処には近寄らせるな! ノースは『盾』を起動させ──」
    「退がれ、氷が砕ける!」
     ぴし、ぴしり、ばきん。
     音を文字とするならば、そのように表現するべきだっただろうか。背を強張らせたノースディンの視線の先で、或いは緊急事態に警戒を超えて殺気立ち始めた隊員達の目の前で、銀のナイフ以外では傷ひとつ付かなかった氷塊に次々と罅が走り、ぱきぱきと音を立てて表面が剥がれ落ちていく。
     対吸血鬼用鎮静麻酔弾が込められた銃器だけではなく、殺傷力の高い銀弾が込められたハンドガンを構えた隊員の背に、ノースディンはごくりと自身が唾液を飲み下す音に我に返った。
     ぱきん、がらん。指先ほどの小さな氷の粒から、やがて人の人の頭部よりも大きな氷塊が崩れ落ちていく。慌てて『盾』と呼ばれる活動阻害装置の電源を入れれば、息を吹き込まれた鉄の塊が重苦しい唸りを上げて目を覚まし始める。
     早く早く早く早く!
     やたらと鈍重に感じられる機械の起動を待ちきれず、ノースディンは腰に帯びたハンドガンを両手で握りしめた。銀弾の込められたそれを砕けていく氷塊へと向け、ぐうと強く奥歯を噛み締める。
     そしてとうとう、ばきりと一際大きな音を立てた走った罅に沿って、一際大きな氷の塊が石造りの床へと落ちる。ふわりと、いっそ場違いなほど柔らかな動きで黒い巻き毛が重力に従って垂れ下がり、かくりと目を閉ざしたまの吸血鬼の首が項垂れた。
     氷塊は既に三分の一程が砕け散り、男の上半身は肘から先は未だ氷に埋まったままであるが、真っ直ぐに伸びていた背が重力に従って丸みを帯びる。自重を支える肩の筋肉と骨の隆起が古びた黒衣越しに浮き上がり、ぱらりと纏わりついていた氷の粒がこぼれ落ちた。
     磔にされた聖者のようだと、感じたのは瞬きにも満たないほんの僅かな間だっただろうか。
    「───…………」
     ノースディンの睨み付ける視線の先で、隊員達の警戒を一身に浴びた吸血鬼がぴくりと肩を揺らして小さく身じろいだ。
     幼い子供がむずがるように両手足を動かそうとしたのか、しかし氷に埋まったままの半身はぴくりともせず露出した上半身だけがわずかにうねる。ノースディンの位置からでは分からなかったが、微かに首を左右させたような動きは目が開かれたのかもしれない。
     事実、のろのろと重たげな動きで吸血鬼はゆっくりと首をもたげ、滝のように伸びた黒髪の間から赤い瞳が覗く。LED照明の人工的な白い明かりを厭うかのように細められた赤が、静かな動きで自身へと向けられた数多の銃口を流れていく。
     ほんの一瞬、ノースディンの視線と吸血鬼の視線とが交わった。数歩では納まらない距離があるというのに、至近距離から腹の中を覗き込まれたような気分になりぞっと背筋に寒気が走る。
     だが背を強張らせたノースディンを気にかけた、或いは気付いた様子すらなく赤い瞳は己を取り囲む来訪者を一瞥すると、ゆっくりと瞼を閉ざし微かに俯いた。
     何もしない? 状況把握ができていない訳では無いだろう、怯えた様子も警戒の気配すら見せない吸血鬼の反応に戸惑ったのはノースディンだけではなかった。
     しかし誰一人として銃を下ろす者は居ない。最も吸血鬼との距離が近い隊員が一名、じゃり、と石室の床を躙るように踏みしめながらもう僅かに、距離を詰める。
     おそらくは、意思疎通が可能かどうかの確認をするためだったのだろう。隊員の片手が銃から外され持ち上がり、半身を氷に埋めた吸血鬼を見上げる頭部の動きはノースディンからもはっきりと見て取れた。
     だが、そこまでだった。
    「───退避!退避だ!!」
     引き攣った叫び声と共に振り返った隊員の形相に、ノースディンはあと少しで引鉄にかけた指を完全に引く事ができたはずだった。
     だが瞬きの差が、青年の動きを許さなかった。

    『A、Aaaaaa、aaaaaa──────!!』

     絶叫と表現するには感情の無い、悲鳴と呼ぶにはあまりにも平坦な、しかし咆哮と捉えるには冷淡過ぎる声音は、耳に届いた瞬間明確な吸血鬼の有する能力の込められた物であると理解するに充分だった。
     色の悪い吸血鬼の、些かかさついたと思われる唇が開き牙が覗く。遠目から奇妙にはっきりと見えた牙の白さに、意識が向くよりも早く、ノースディンは全身に何か重く目に見えないものが絡まりついて伸し掛かってくる錯覚を受けた。
     そう自覚したかしないかの合間に、ぐらりと視界が回る。指のから力が抜け手の内のハンドガンがずしりと重く、かくんと膝から崩れ落ちる。
     黒髪の吸血鬼が、叫んでいる。いや、歌っているのかもしれない。
     ばたばたと何か重さのある物が倒れる音と吸血鬼の声を聞きながら、ノースディンの意識はぷつりと途絶えて眠りの底へと落ちていった。




     続く

      
     
     
     
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    toritoritototo

    DOODLEΔノスクラの出会い捏造。人間ノスはまだ十代後半で御真祖様が創った吸対一年生でウスはノスより一回り年上ぐらいをイメージしています。クラさん未登場。
    Δノスクラ出会い編1 すまない、父を止められなかった。そう、涙目で震える歳上の友人の姿に呆れたような気分と、何故止めてくれなかったのかという気持ちと、いや無理もないお前は頑張ったと肩を叩いて慰めたい衝動が一気に湧き上がったものの、ノースディンがそれら全てをぐっと腹の中に抑え込む事に成功したのは数日前の昼だった。
    「じゃそういう訳だからシクヨロ。ドラウス、私が留守の間は代理頑張ってね」
    「解っています頑張ります俺はできる子努力の子!うぇーんミラさーーーん!!」
     えーんと大きく悲痛な叫び声をあげて執務机に突っ伏す友人の姿は悲痛なものであったが、純白の制服の背が昼の明るさに眩く煌めいていたのが奇妙に瞼の裏に焼き付いている。
     友人の父でありノースディンにとってはかけがえのない恩人にして誰よりも敬愛する人物は、嘆く息子の姿を何処か微笑ましげに眺めている。と言っても彼は極端に表情に乏しいため、おそらく他人から見ればひどく冷淡な男に見えているのだろうが。
    1947

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