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    baked_tane

    突然実福に目覚める。
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    baked_tane

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    🌿が恋しちゃった♡位のテンションなのに🌹の方がドロドロの愛を抱えているタイプの実福。
    稚拙でも先ずは書き切るのだわ。己の為に〜!

    #実福

    ハートに火を付けてその本丸の実休光忠は常に他者に囲まれていた。
    彼が持つ輝かしい来歴も然ること乍ら、とても人懐っこい性格で、先輩男士たちにあれこれと尋ねては人の営みを楽しんでいた。
    特に薬研藤四郎とは気が合うようで、同じ部隊になる度、薬草摘みに夢中になり過ぎて長谷部に叱られるのが常だった。

    教育係の燭台切は自由奔放な兄に少しばかり手を焼きつつ、それでも本丸に直ぐ馴染んだ様子に胸を撫で下ろしていた。

    今日も実休は厨当番を手伝うと言って意気揚々とニンジンの皮を剥いている。

    「光忠、これでいいかな?」
    「うん、バッチリだよ! 次はジャガイモをお願いね」
    「ということは、今日はかれーらいす?」
    「ふふ、今日はクリームシチューだよ」

    こないだと同じ材料なのに!と良いリアクションをするので燭台切は笑いながら解説する。
    そうして大鍋にホワイトソースを投入しコトコトと煮込んでいると、もうひとりの兄弟が厨に顔を出した。

    「ん、良い匂いがする」
    「福島、おかえり。今日はしちゅーだって」
    「美味そうだな。俺の分、取っておいてくれよ」
    「えっ、福島兄さん、まさか今から出掛けるつもり?」

    燭台切が顔を顰めた。
    福島は眉を落とすが、行かないとは言わなかった。

    「遠征で思ったより資材が集められなくてね。直ぐ戻るからさ」

    これ貰ってくね、と付け合わせのパンを一つ、手に取って厨を後にする。
    行ってしまった弟の影を見つめながら、実休が呟く。

    「そういえば福島とご飯食べたことないな。もしかして僕は嫌われてしまったんだろうか」
    「ううん、そんなことはないよ。実休兄さんが来る前から本丸に居ないことが多くてね」

    燭台切も厨の入り口に視線をやり、ため息を吐く。
    目の前にいる兄とは違い、もうひとりの兄は本丸に居着かない。
    無論誰にも行き先を告げずに姿を消すようなことはなく、先程のように遠征だ出陣だと何かしら理由を付けて出掛けていく。

    「理由は教えてくれないんだ。皆の役に立ちたいからだとは言っていたけど……」
    「そうなんだ……ところで光忠、香ばしい匂いがするけど」
    「あっしまった! 実休兄さん、火を止めて!」

    少しほろ苦くなったシチューだが、鍋は綺麗に空っぽになった。
    実休は完食となったことを嬉しく思い、薬研や不動たちに自分も手伝ったのだと伝えて回る程だった。

    (福島も美味しいって言ってくれるかな)

    感想が聞きたいと福島を待ったが、実休が起きている間に弟が帰還することはなかった。
    ニンジンとジャガイモが多めに入った一皿を冷蔵庫に収めて眠りにつく。
    翌朝、皿は綺麗に戸棚の中に戻されていた。

    しかし、この実休は人懐っこいと共にめげない性格でもあった。

    それから暫く福島について回る姿が本丸内でよく見かけられた。
    朝に弱い福島を起こしに行ってそのまま朝食を一緒に取ったり、遠征から帰ってきた所を捕まえて今日あったことを喋り倒し、そのまま福島の部屋で寝てしまったり。
    始めはやんわりと袖を掴むその指を振り解いていた福島も、その内隣にいても何も言わなくなり、段々と本丸を離れる時間も少なくなっていった。

    今夜も実休は福島の部屋を訪ねて、薬研と薬草茶を煎じたが苦過ぎて飲めなかった話をしていた。
    切花の手入れをしながら福島が屈託なく笑う。

    「福島にも今度飲ませてあげる」
    「あははっ、俺は遠慮しておくよ」

    最近見せるようになったその笑顔が実休は堪らなく好きだった。
    特に心細い時など福島が笑っているだけで気持ちが安らぐ。
    だからこそ実休は福島にお願いをすることにした。

    「ねえ、福島。明日、出陣から帰って来たら、ここに来てもいい?」
    「なんだよ急に。いつも勝手に来てるだろ」
    「でも明日はね、絶対待ってて欲しいんだ」

    絶対という言葉と懇願する瞳に福島は仕方ないなと笑って応える。

    「分かった。待ってるから」
    「うん! それじゃあ、おやすみ」

    福島が頷いたのを確認してから実休は部屋に戻る。
    翌日は福島には声を掛けずに出陣していった。
    お陰で久々に惰眠を貪った福島は昼頃ようやく起き出して、厨当番の歌仙に小言を貰いつつ、朝昼兼用の食事を取っていた。

    「珍しい奴がいるな」
    「ん、号ちゃん、おはよう」
    「おはよーさん。まあもう昼だけどな」

    味噌汁を啜る福島の向かいに座ったのは日本号だった。
    内番着ではない紺のツナギ姿が目に止まる。

    「どこか行くの?」
    「いいや。これから蜻蛉切と手合わせだ。お前も来るか?」
    「うーん。心惹かれる誘いだけど、今日は先約があってね」
    「先約?」
    「そ。実休がさ、出陣終わったら部屋に来るって。何時になるか分からないから部屋にいないと」

    すると日本号が神妙な顔をするので福島も箸を止めて尋ねる。

    「俺、何かおかしなこと言ったかな?」
    「今日の出陣先、知らないのか?」
    「ああ、そうだね。まだ掲示板見てないんだ」
    「確認しとけ。そんでまあ……なんかあったら呼べよ」
    「うん、ありがとう……?」

    そこで日本号は蜻蛉切に呼ばれて席を立つ。
    程なくして福島にも彼の懸念が分かった。

    福島は食事を終えて部屋に戻る途中、出陣先や当番表を示す掲示板の前を通った。
    実休が編成された第三部隊の行き先欄を見れば『天正10年 本能寺』の文字がある。

    「……そうか。やっと」

    口元を抑え、福島は足早に掲示板の前を去った。

    ◇◇◇

    福島は部屋の戸を開けて待っていた。
    夕暮れ時、気配を感じて福島が入口に目線を向けると夕焼けで赤く染まった実休が静かにそこに立っていた。

    「……おかえり」

    福島が声を掛けるが実休は俯いたまま返事をしない。福島はそんな彼の手を引いて、部屋の奥に座らせてやる。障子を閉めれば薄暗い部屋の中で向かい合わせに座り、福島は実休の手を握る。

    「手入れは? 怪我とかは無さそうだけど」
    「……うん。大丈夫」
    「なら良かった。任務も上手く行ったのか?」
    「ああ……燃えたさ。ちゃんとね」

    ぽつりぽつりと実休が言葉を紡ぎ、ようやく顔を上げた。普段とは違う虚ろな瞳に見つめられ、福島の胸が騒ぐ。

    「…………熱い」
    「……うん」
    「熱いよ」

    譫語のように繰り返す実休の頬を優しく撫でながら、福島が囁く。

    「熱いなら吐き出せばいい。目閉じて」

    実休は福島の言葉通りに目を閉じる。
    その姿に満足げに微笑んで、福島は白いネクタイを解く。そしてそのタイで実休の目元を隠した。肩をそっと押して、されるがままの彼に耳打ちする。

    「手、貸すよ。好きな奴の手だと思えばいいさ」
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