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    リョウ

    エペとゴスワイ。暁Kの沼にドボン。
    @andandryo

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    POIPOI 37

    リョウ

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    なかなかくっつかない暁Kのお話。https://poipiku.com/3543762/6724351.html の続きです。
    KKさんの態度にやきもきしている暁人くん。
    戦闘シーン書くの楽しかったです。色々独自設定入れてしまいましたが、if世界線なのでご理解いただけると幸い。
    もう少し続きます。

    前置き:ED後、皆生きてる世界線で暁人くんとKKが一緒に祓い屋さんやってます。

    #暁K
    ##GWT

    言霊2 避けられても仕方ないと思っていた。端的に言ってしまえばKKを押し倒して逃げるように帰ったのだから。けれど、僕の予想とは裏腹に祓いの仕事の連絡が届いた。連絡は凛子さんからだった。よくよく考えてみれば、仕事は凛子さんから振られることが多い。KKが彼女に先日のことを話すわけもなく、ともすればいつもと変わらず「手伝いをお願いしたいのだけど」と凛子さんから連絡が来るのは当然のことだろう。
     新たに懸念するべきかKKがごねて現場に来ない、ということだが、KKは仕事は真面目にこなすタイプだ。予定通りの時間に彼は現場に来た。常と変わらない態度で。KKに言わせればオトナの対応ということなのだろう。わざとこちらを意識しないようにしているのが癪で、僕はいつも以上にKKを目で追った。
    「なんだよ」
    「別に、なんでもないよ」
    「……そうかよ」
     言い返すようなそぶりを見せたが、KKは無駄口を叩いている場合ではないと思い直したらしい。
    「集中しろよ、見習い。凛子からの事前報告は目を通してるよな」
    「もちろん」
    「じゃ、内容のおさらいをしようか」
     僕は頷き、凛子さんから送られた資料を思い出す。
    「依頼内容は——」
     依頼者は24歳のOL。数日前から自宅にいると視線を感じるという。普通なら気のせいと流しそうなものだが、彼女の場合は心当たりがあった。ストーカーに付き纏われていたらしい。ストーカーは同じ会社の先輩社員で、37歳独身の男。何がきっかけか定かではないが、社内では頻繁に視線を感じ、同僚と一緒に昼食に行けば同じ店についてきたり、退勤時は会社の出口で待っていたりていたらしい。そして、ついに家も特定され押し入られそうになった。幸い、事前に警察に相談していたこともあり大事には至らなかったが、その先輩社員の男は接近禁止令が出され、会社も辞めることになった。
     依頼者は全て解決したと思ったが、そうではなかった。また、男に見られている。そう思ったそうだ。
    「でもこれだと相談すべきは警察だよね」
    「ああ。依頼者も最初は警察に相談したみたいだ。だが、警察が調べてみたら、そのストーカーの男は自宅で亡くなっていた。死亡推定時刻は依頼者が視線を感じるようになった日の前日だとよ」
     僕は依頼者が住むアパートに目をやった。カーテン越しに明かりもれている彼女の部屋が見える。顔合わせをしたときの彼女の不安そうな顔を思い出した。
    「その自殺した男が悪霊になって彼女を見に来てるってこと?」
    「ああ」
     KKがボディバッグから見慣れない札を取り出した。それをアパート付近の電柱に貼り付ける。
    「それは?」
    「エドの新作だ。こいつで結界を張る。住宅街でドンパチするわけにいかないからな」
     どういうことか理解できず首を傾げるとKKが説明を続けてくれた。
    「先の騒動でこの世でもあの世でもない狭間の世界に行ったのは覚えてるよな? あれを擬似的に発生させられるんだと。要は隔離するんだ」
    「なるほど」
    「周りを気にせず暴れらるのは助かるぜ」
     ニヤリとKKが不敵に笑う。
    「静かにできないもんね、KKは」
    「うるせーよ。いいだろ、さくっと暴れてさくっと終わらせるんだからよ」
     こういうところ、脳筋だなと思う。会話の言葉選びや返しのはやさから、頭の回転がはやくて論理的に物事を進めるタイプのかと思いきや、直情型ですぐ手が出る一面もある。僕とは違うタイプ。だから、目が離せないんだ。最後の札を貼るKKの手元を眺めながらそんなことを思う。
     僕の視線に気付いたのかKKがこちらを見た。と思ったがそうじゃない。僕の後ろを見たのだ。
    「来たぞ」
     KKの視線の先、街灯の少ない住宅街の路地。そこにぼんやりと青白い影が浮かび上がる。それが霊であることは明らかだった。徐々にこちらに……いや、依頼者のアパートに近づいている。ふらふらと進むその影は予想より遥かに大きくて、生前は100kgは下らなかったであろうことが想像できた。件のストーカーなのだろう。彼はブツブツな何事かを呟いているようだが何を言っているのかは聞き取れない。それがとても不気味だ。
    「暁人、あまり声を聞こうとするな。引きずられるぞ」
     KKが忠告する。
     あの日、KKに憑かれ渋谷の夜を駆けたあの日の一件以来、僕は霊の影響を受けやすくなっているらしい。特殊な条件で適合者になったこと、適合者になって日が浅い故だろうとエドさんが言っていた。一言で言えば瘴気にあてられ易い状態らしい。実際、霊の声ではなく負の感情や映像が流れ込んでくることがある。エーテル適合者は幻覚や幻聴に襲われるらしいが、それのもっとひどい状態になっているのが今の僕だ。これが落ち着くまではエーテル結晶体に触るなとKKに言われてしまった。僕としては早く戦力になりたいのだけど、KKが許してくれない。お前にはまだ早いって。それゆえの『見習い』期間というわけだ。
    「わかってるよ」
     僕は手にしていた大仰なケースから弓を取り出し構えた。エーテルを使えない今は弓での援護が僕の仕事だ。
     結界の間際で霊が足を止めた。KKと僕の存在に気づいたらしい。
    『ナンだ ナンだおマエ』
     わけのわからなかったブツブツ喋りからはっきりとした言葉に変わる。
    『またジャマするのか』
    「また?」
    「生前の記憶と混同してるんだろ。俺たちを警察と思ってるのかもな」
     KKが鼻で笑う。
    「ほら、来いよ」
    「ちょっとKK、そういう挑発するような態度はやめなよ」
    「話してどうにかなるようなら俺もそうするさ。だがな、よくみろ。あれは話してどうにかなる状態じゃねぇよ」
     夜の闇が濃くなったように感じた。霊は、悪霊になっていた。
    「来るぞ」
     KKが身構える。僕もそれに倣った。
     悪霊がうめき声を発しながらこちらに向かってくる。それが結界を超えた瞬間、KKが札にエーテルエネルギーを流し込んだ。景色が一変する。隔離されたのだ。隣でKKがヒューと口笛を吹いた。
    「エドのやつ、やるじゃねーか。上出来だ」
     上機嫌に言う。
    「暴れたくてウズウズしてるんじゃないの、KK」
    「わかるか? 女を泣かせるようなヤツには灸を据えてやらねぇとな!」
     悪霊の周りに複数体のマレビトが姿を現す。
    「色々と引き連れてきやがったか」
     穢れの周りにはよくないものが集まる。悪霊もまた然りだ。
    「いくぞ、暁人」
    「OK」
     KKが駆け、エーテルショットを放つ。一体二体と確実に仕留めていくKK。その彼を狙う浮遊する虚牢に僕は弓を引き、仕留める。
    「うまいぞ!」
    「まあね」
     KKは視野が広い。それだけ僕を気にして戦っているということだろう。
     悪霊に間合いを詰めたKKが水のエーテルショットを放つ。悪霊はかなりのダメージを受けているはずだがその動きを止めず喚き立てている。
    『ナンでジャマするんだ! ボクたちはアイしあっているのに!! ジャマするな!』
     悪霊の言い分は一貫していた。
     好きという感情を抑えることは難しい。ストーカー行為を肯定はできないが、誰かを好きになって、その想いをどうにか相手に伝えたいと思うのは共感できる。そう思ってしまった。
     しかし、それがいけなかった。
     キーンとひどい耳鳴りが僕を襲った。
     思わず膝を突きそうになるのをどうにか堪える。
    『カノジョはボクにワラいかけてくれた。イッショにショクジもした』
     悪霊の声が頭に響く。それと同時に映像が頭に流れ込む。霊の記憶、なのだろうか。
     僕の知らない場所。広い空間にいくつもテーブルと椅子が並んでいる。そこに座る人々が食事をしているから食堂なのだろうと理解する。社員食堂なのだろうか、席に着く人たちは皆、首に社員証を下げている。
     視界の先、数メートル離れたテーブルに、今回の依頼主の姿を見つけた。女性社員と談笑しながら食事をしている。すると、視線に気づいたらしくふっとこちらを見、にこりと笑った。しかしすぐに視線は外れ、友人であろう女性社員との会話に戻った。
    『シゴトがオわったら、いつもイッショにカエってたんだ』
     映像が変わる。また依頼者の姿が見える。彼女がオフィスのエントランスを抜ける。それを追いかける。見える映像は、彼女の後ろ姿を追うだけだ。
     すれ違いなんてものじゃない。これはただの思い込みだ。
     僕は邪魔な映像を振り払うように頭を左右に振った。目の前の光景と例の見せる映像が交錯する中、僕は虚牢に弓の狙いを定めた。
     引きずられるぞというKKの言葉を思い出す。こんな身勝手な思考に引きずられてなるものかと自分を奮い立たせるものの、手元が狂う。いつもなら一発で仕留められるはずが、放った矢は僅か的を掠めるだけだ。
     くそっ、落ち着け。
     自分に言い聞かせ矢を番え狙いを定めた。そこに、
    「暁人!!」
     切羽詰まったようなKKの声。目の前の敵に集中しすぎていた。横から赤いエネルギー球が迫っていることに気づかなかったのだ。
     僕は慌ててガードをしようとしたが。
     間に合わない——
     衝撃に備えたが、それは来なかった。KKだ。グラップルで高速移動したらしく僕を庇うようにガードの体勢をとっていた。
    「なにやってんだ! ガードは基本だって教えただろ!」
    「ごめん……」
    「集中しろよ。さっきも言ったが、耳を傾けるな。引きずられると面倒だぞ」
     自分の不甲斐なさに心底腹が立つが悩んでいる時間はない。僕は気持ちを切り替えようと強く拳を握りしめた。
     その時だった。
    「KK後ろ!」
     僕に気を取られているKKの背後から悪霊が迫りKKを弾き飛ばす。地面に倒れたKKに悪霊が覆いかぶさった。
    「KK!」
    「くそっ」
    『ジャマするな。ボクとカノジョはアイしあってるんだ』
    「ああ? 寝言は寝て言えよ」
     KKが至近距離で火のエーテルショットを放つ。爆発音が響く。悪霊の体からコアが剥き出しになる。が、悪霊は動きを止めない。
    「往生際が悪い野郎だな」
     再びエーテルショットを放とうとするKKの首を悪霊の両手が捕らえる。
     僕の中で明確な怒りが湧いた。身勝手な勘違いも、聞き分けない態度も好ましいものではないと思っていた。でも、もはやそんなことはどうでもいい。今、目の前でKKが危険な状態になっている。それも、僕のミスのせいで。
     そこからは迷いはなかった。
     わらわらと群がるマレビトに麻痺札を放つ。邪魔な奴らを足止めし、僕は矢を番え全ての元凶である悪霊に狙いを定めた。露出したコアがいつもより鮮明に見えた。
    「その穢れた手で」
     ギリギリと弓を引き絞る。
     絶対に外さない。
    「KKに触るな!!」
     矢がコアを貫いた。
    『あぁぁぁぁぁ! イヤだ! ボクたちはアイしあってるんだ!!』
     悪霊が叫び、依頼者の名を何度も何度も呼んで、そして消滅した。同時に周りのマレビトも消失する。
     気づけば、僕たちはアパート前に戻ってきていた。結界を成していた札は燃え滓になっていた。
    「片付いたな」
     倒れていたKKがよっこいしょと立ち上がった。僕はKKに駆け寄った。
    「KK大丈夫!? 怪我してない?」
     全身を確認する。大きな怪我はなさそうだが首に手の痕が残っていた。鬱血したような赤黒い痕。悪霊に対する怒りと自分自身への情けなさと後悔とで頭の中がいっぱいになる。
    「ごめんKK……僕のせいで」
    「落ち着け。それより最後はナイスアシストだったぞ。さすが俺の相棒だな」
     ポンっと僕の背中を叩く。それはたまらなく嬉しいのだけど。
    「ありがとう。でもKKに怪我させてごめん」
    「怪我?」
     KKが首を傾げる。そうか、KKには見えていないんだ。僕は首の手形について話した。
    「あの野郎、霊のくせに馬鹿力だったからな。まぁ、こんなのすぐ治るだろ」
     一度自分の首をさすると何でもないように言った。
    「しかし、ごちゃごちゃ煩いヤツだったな」
    「KKもあの声聞こえてたんだ」
    「ああ。聞こえてただけで聞いてないけどな。勘違いで暴走した男の妄言なんて聞いても仕方ないだろ」
     それはその通りなんだろう。けれど、僕はあの霊のことを無条件で一蹴することができないでいる。こういうところが僕が引きずられ易い原因の一つなのかもしれない。
    「でも、あの人が全部悪いってわけじゃないと僕は思う。彼女がもっと早くにはっきり、そういうつもりはないって伝えたらもっと違う結果になってたかもしれないし」
    「はっきり言えないこともあるだろ。会社の、しかも年上の先輩相手だとな。はっきり言ったとして、その後何年も一緒に仕事をする可能性だってあるんだ。波風立てないように受け流す方がいい場合もあるさ」
    「KKもそうなの……?」
     僕の言葉にKKの眉がピクリと反応する。怪訝そう……いや、不機嫌そうに言う。
    「どういう意味だ」
    「KKも波風立てたくないから僕の気持ちに応えないんだ」
    「おい、勝手な解釈するなよ。そうやって人の話を聞かないのがガキだって——」
    「だってそうじゃないか!」
     KKの首に残った痕が嫌でも目につく。
     なんで、どうして応えてくれないんだという想いが膨らむ。まださっきの霊に引きずられているのか? これは、この考えは良くない。そう思っているはずなのに口から言葉が滑り落ちた。
    「何も応えないってそういうことだろ!? 僕は、嫌ならはっきり言ってくれた方が——」
    「暁人!」
     KKの一喝に気圧され僕はその先を続けられなかった。KKが深く息を吐く。
    「こんなところで騒ぐなよ。もう結界はないんだぞ」
    「ごめん……」
     僕が素直に謝罪したからか、KKの表情が少し緩んだ。
    「まだ勤務時間だ。無駄口叩く暇なんてないぞ、見習い」
    「いつも勤務時間なんか適当じゃないか。タイムカードを押した覚えないよ」
    「ははっ、そうだな。だがな、依頼者に祓いが済んだことを報告するのは、こんな話なんかより重要だろ」
     言って、KKは僕に背を向け、依頼者のアパートへと向かう。
     また、はぐらかされた。
     もやもやとした想いを抱えたまま、僕はKKの後を追った。
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