ふと気が付くと、あたりは星々が漂う宙であった。
ぷかりとそのただなかに浮かんだまま、ラインハルトは好奇心のまま近くに漂っている星をつんとつついてみた。
つつかれた星は、押されるがまま滑ってゆき、別の星にぶつかった。
「それで良いのですか、獣殿」
降ってきた友の声に見上げれば、実に見慣れた顔がそこにある。
「良いもなにも、私はなにを選んでいるのかな、カール」
「もちろん、新しい主演を。何度でも作ればよいと言ったのはあなたではないですか」
ああ、そういえば、と後追いで記憶が蘇った。
核となるものと、それを補強するものをと。
体を起こして、あたりを見回す。上下左右も曖昧ななか、そこに立てるのだと思えば、立てた。
きらきらと輝く星たちをながめて、つまみ上げて、覗き込む。
さあ、こちらにとうながすような口調で、つまんでいた星を奪い取っていった友に、肩をすくめつつ追加でいくつか心が赴くままつまむ。
星々を眺めて、一際強く輝いているものを掬い取って、ラインハルトは微笑んだ。
逆にカールが渋るような素振りを見せた。
「それを選ぶのですか」
なんとも嫌そうな口ぶりに、ラインハルトは笑みにすこしばかりの呆れを混ぜた。
「そう拗ねるな。元はと言えば、卿が選んだ主演だろう」
む、と唇をとがらせて、だって……とも言い出しそうな友の様子に、ラインハルトは声を立てて笑った。
「彼の奮闘は良きものであっただろう。再び主演を飾ってもらいたいな。それに私は卿の人を見る目は信じているよ。まあ、此度は少々行き違いがあったようだが……」
多少のからかいをこめれば、拗ね切ったようすだった友は咳ばらいをひとつして、姿勢をただした。
「では、そのように」
ラインハルトから受け取った全ての星が、カールの手から転がり落ちる。
からん、ころん、転がった先はフライパンの中だった。
ぱちりとラインハルトが瞬く。不思議な光景だった。こんなところでそんな調理器具を見るとは思わないだろう。
木のへらでゆっくりとかき混ぜ、潰され、こねられていく星たち。
さっきまでへそをまげていたのものなんのその。機嫌が良さそうに鼻歌まで口ずさみながら大きな一つの星につくりあげている友を、ラインハルトが眺めているとぱちんとまた意識が弾けた。
意識が浮上する。
ラインハルト・ハイドリヒは己が執務室で、書類を前にペンを握っていた。
妙な白昼夢を見たような気がする。
疲れているのかもしれないな、と珍しいことにそう自己評価して、しかしながら特段体調が悪いわけでもないと仕事に戻ることにした。