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    s_toukouyou

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    s_toukouyou

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    水銀黄金

     大の男がふたり寝転がっても十分に広い寝台で、まさか本当に大の男ふたりで寝転がるとは思わないだろう。そう思ったとたんに既視感が忍び寄ってくるのだから救いがない。いったい全体いつかの自分たちは何を思ってこんなことをしたというのか。この疑問とも長い付き合いだ。慣れ親しんだ疑問だけが胸の内にあり、答えはいまだに影も形もない。答えを出してもこの既視感はあるのだろうか。横になったまま、隣で眠っているふりをしている男の背をまるで子をあやすかのように一定のリズムで叩きながら、なんとも言えぬ表情を浮かべるしかない。
     長い黒髪が白い敷布を覆って、まるで寝台の半分が影に沈んでいるかのようだ。すう、すう、とわざとらしい呼吸にあわせて友人の胸がふくらんではしぼむ。なんとも不思議な気持ちでそれを眺める。この友人はなるほど人の形をしているが、まっとうに人らしい生理現象を見せられると違和感は湧く。
     眠れぬ子供のためならともかく、この歳の男に添い寝をするのはいかがなものかと思わなくもないが。そこで一度打ち切って、考え直す。そもそもこの男、大人と言えるほどの精神年齢でもない気がする。常日頃など駄々をこねる子供のようではないか。ぽむぽむと小さくもない背をたたいている内にむしろ自分のまぶたが閉じかけている中、じわじわと沸き上がってくる既視感がそのひらめきを肯定してくれている気がした。ぐずる子供をあやすのは大人がすべきことだろう。いまならこの男も慈愛の目で見れそうだ。
    「けものどの」
     ひっそりと敷布の上を這うようにして耳に届いた不機嫌そうな声に、声を出して答えるのは面倒でただゆっくりと何度か瞬いた。寝たふりをしていた子供は目を閉じたまま、何を言うべきか戸惑っているような形に唇をゆがめていた。
     自然と笑いがこみ上げて、灯りまで落とした寝室なのだから、あまり響かないようにと喉の奥で笑いを押し殺す。押し殺しきれなかった分はころころと敷布の上を転がって行った。
    「なにか、面白いことでも?」
    「たいしたことではないとも。なに、子供は寝る時間だ、大人しく寝なさい」
     がっと開いたまぶたの奥からつるりとしたガラス玉のような黒い目が信じられないものを見ているように固まっている。
    「いやまて、それはおかしいのでは、ハイドリヒ」
     起き上がりそうになっている子供の背を撫でて宥め、目を閉じる。蛇の皮がはがれているぞと思いもしたが、指摘するのも野暮だろう。
     何をしていても付きまとう既視感はうっとおしいばかりだが、今回に限っては少しばかり面白い。なぜならこれにも既視感を覚えているということは、いつかどこかで、おなじようにこの男をぐずる子供として扱ったことがあるということに他ならないだろう。そうしてこうやって本来ならまだ見せる予定のない部分をぽろりと出しているのもまた何度目の事なのだか。
     どうでもよいことを考えながらうとうととまどろみ始めていたというのに、ぎしりと寝台が軋むのに意識が浮上する。あやしていた子供の背からするりと手が滑り落ちて、ぽんと敷布の上ではねた。
    「親子で例えるのなら、私が父でお前が子だろう」
     私はただ子供のようだと思っただけで、別に親子に例えたつもりはないのだが。なにをいっているのだか、この男と思わずうろんげな視線で見上げる。
     のぞきこんでくる瞳はまるで星々が輝く銀河のようで、さらにその奥に目の前と同じ顔をした男が不服そうにすねているのが見えたような気がして、少し笑った。
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