丁寧にラッピングされた小箱を前に、ラインハルトはなんとも言い難い表情でそのリボンを引っ張った。机の上にあるものはすべてファンからの贈り物だから、勝手に食べて良いと言われたものの、甘いものを特別好んでいるわけではない。この量のチョコレートが並んでいるのを見ると、それだけで舌が馬鹿になる気がした。
積まれた贈り物の中から、引き寄せた小箱を軽く振ってみる。市販品である。開封された様子はない。
深い色のリボンを解き、箱のふたをあけると、3列に並べられたチョコが見える。個別に包装もされていた。1粒つまんで口に運ぼうとして、やめた。
背後の闇の中に、誰かがたたずんでいることに気が付いたからだ。
「もう終わったのか?」
振り返ると原稿と向き合っているはずの作家がそこにいた。
締め切りまであと7分だが、終わったのだろうか。
「食べないのですか?」
「ああ、やめておく」
少し迷って、やめておいた。チョコ菓子にふりかけられた赤い粉が、妙に不気味だった。