〇〇しないと出られない部屋①清高3,小高2の寮に2人とも住んでる設定です
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『腕相撲しないと出られない部屋』
机の上に置かれた紙にそう書かれていた時は、安堵した。なんだ楽勝じゃん、と笑って、普通に腕相撲して清春が勝った。鍵が開いたのに、もう一回やり直そう!、なんて口惜しそうに食い下がる小太郎に「とりあえず出よう」なんて苦笑してドアを開けた。開けた先にはまた同じ間取りの白い部屋。
「あれ?」
清春はドアノブを掴んだまま固まった。こういう映画無かったっけ? 中入ったらトラップとかあるやつ? と呆然と考えていると、小太郎が脇を通り抜けて歩いて行く。
「あ、おい」
制止する暇もなく小太郎はつかつかと机に歩み寄って、ハガキ大の紙を取り上げた。さっきの部屋で解放条件が書かれていた物と同じ形状だ。
「今度はなんて?」
清春はドアノブから手を離して、部屋に踏み込んだ。小太郎が慌てて振り返る。
「清春待って! ドア閉めないで!」
「へ?」
清春が間抜けにそう返した時には、ドアノブは清春の手から逃れて、くるりと元の位置に戻っていた。
バタン、と扉が閉まる。同時に施錠されたような金属の擦れ合う音が響く。小太郎が瞠目して清春を見ていた。
「……な、何?」
尋常ではない様子に、清春は怯んだ。殺し合えとかそういうのだったらどうしよう、と生唾を飲む。
『セックスしないと出られない部屋』
条件
・挿入中に「好き」と言い合う
・さっき腕相撲で負けた方は三回中イキする
思わず指に力が入り、ぐしゃりと紙がひしゃげたが、既に小太郎が思い切り強く握りしめていたせいで、清春が受け取った時からはそう変わらない。小太郎は膝の上で両手を組み、寝台に腰掛けながら蒼白になっていた。無表情なのがちょっと怖い。つい数分前までは気が狂ったように破壊行動に走っていた人間と同じとは思えないほどの落ち着きぶりだ。
清春はぐるりと部屋を見回した。
正面には小太郎が何度も椅子で殴りつけてもビクともしなかった扉が坐している。さっきの部屋は机と椅子が二脚と、取調べ室のように殺風景だったが、ここはホテルみたいになんでも揃っている。条件の書かれた紙の下には、白い箱があった。中を覗くと、何やら得体の知れない器具が詰められていて、顔が引き攣る。男性器を模した玩具くらいなら見た事があるが、他は何だかよく分からない。
『ご自由にお使い下さい』
と業務的な字面のメッセージカードが添えられていて、より寒々しい。唐突に、小太郎が「ハーーー」と獣の唸り声にも似た大き過ぎる溜め息をついたので、清春は思わず肩を竦めた。
「……分かった、やろう」
殺ろう、の変換ミスか? と思うような猟奇的な瞳で、小太郎はじっと清春を見る。
「エネマグラ取って」
「……なんて?」
「その黒いやつ」
「……これ、どうすんの」
困惑気味に問いかけた清春に、小太郎が虫けらでも見るような顔で「はァ?」と吐き捨てた。
「解放条件読んだでしょ? ケツに突っ込むんでしょうが」
「……誰の?」
「……」
小太郎は返事の代わりに舌打ちをする。その頬は苛立ちによってか、ぴくぴくと痙攣していた。
ヤンキーじゃん、と清春はその酷い形相に顔を強ばらせる。こいつとセックスとか無理だろ、と清春は腕組みしながら悩む。一回くらいなら頑張ったらなんとかなるかもしれない。だけど三回も出来る気がしない。
そもそも小太郎では勃たない。後輩だぞ、有り得ねぇだろ、と胸中で唸る。小太郎は歯噛みしながら清春を睨んでいた。
「逆だったらまだ、何とかなったかもしれないけど……無理だよ……」
「そうか?」
どっちにしろ無理だよなぁ、と清春は思ったが、確かにまだ逆の方がマシだったかもしれない。勃たない事にはセックス出来ないし。小太郎がまた大きな溜め息を洩らす。
「こんな事になるって分かってたら、絶対負けなかったのに……勝つまであの部屋に居りゃ良かったんだ……」
「や、それは何回やっても無理だったろ」
「うるさい、黙って」
舌打ちして立ち上がると、小太郎は清春を押し退けるようにして箱の中から何やらあやしげな形状の器具とローションボトルを手に取る。迷いのない動作に、こいつすげぇな、とこっそり感心する。慣れてんのかな、などと下卑た勘繰りまでしてしまった。
「清春って童貞?」
「えーっと……」
「なに、その反応」
「やった事はあるにはあるけど……その、数える程しかねーから」
こんな大人の玩具みたいなものを使った事などは無い。
「……経験者ならまだ良いや」
何も良くはないだろ、と思ったが小太郎のイラついてるらしい表情にとりあえずは黙っておいた。
***
「ん、ん、ん……っ、う」
初めは抑えていた様子だったのに、一度声を漏らしてしまって吹っ切れたのか、小太郎はそれと分かる声を出していた。みし、みし、とベッドが揺れる。
小太郎に背を向けたまま、清春はいたたまれなさに膝の上で何度も手を組み替えた。新手の拷問だろ、とも思う。信じられないことに、音だけで完全に勃起してしまっていた。そんな自分に呆れを通り越して罪悪感も抱く。
「……小太郎、どう?」
声を掛けると邪魔になってしまうかと遠慮していたが、そろそろじっとしているだけなのは限界だった。びく、と揺れていた布団が止まる。
「小太郎?」
ゆっくりと回り込んで中を覗くと、小太郎は腰だけ上げた状態でうつ伏せていた。頬をぺたりとシーツにつけたまま、ぐったりした目付きで清春を見る。
「……くるしい」
おぼつかない声がぽつりと吐き出される。
「大丈夫か?」
「気持ちいいけど、全然、イけない……」
はぁはぁと荒い呼吸を混じらせ、小太郎が唸った。
「ちょっと休んだら?」
「そんな、のんびりしてたら、門限間に合わないかもしれないじゃん」
歯噛みしつつ、小太郎は目を伏せた。
その目蓋の青い血管をぼんやりと眺めつつ、清春は腕組みして、言いあぐねていた言葉をようやく口にする。
「あのさ、おれがしてやろうか」
「は?」
冷えた目つきに怯みつつも、清春は続ける。
「や、だって、ほら、人にやってもらう方が気持ちいい時あるじゃん」
「……そうなの?」
表情のない顔でじっと見られて、清春は自信を無くしかける。
「えっと、お前はそんな事ない?」
「知らないよ。僕童貞だから。」
「えっ?」
「悪い?」
「いや、んなこた無いけど……」
あんな口調で堂々としたこと言うから、てっきり。
清春は布団に潜り込みながら苦笑した。布団を剥ごうとしたらやめろとキレられた。これは小太郎の中の最後の砦らしい。見るなと言うが、見ずにされる方が不安にならないのだろうか。慎重に手を伸ばして、腰に触れる。
びく、と触れた先、横向きに丸まった身体が大袈裟にふるえた。
「ごめん」
「……いえ」
布団の中に呼びかけると、小太郎は清春に背を向けたまま、シーツを握りしめて低い声で返事をする。
「服ちゃんと脱いでねぇの」
「必要なの?」
「いや……動きにくくねーのかなって。暑いだろ」
脱がせんぞ、と一声だけ掛けて、中途半端な所で引っかかっているズボンを下げる。
小太郎は無言で、うんともすんとも言わない。
抵抗しないということは承諾したという事だろうと解釈した。布団の外にズボンを放り出しながら、清春は問い掛ける。
「あれ、突っ込んでんの? エレ…エネ……なんだっけ」
「いえ、今は、まだ」
「そっか」
布団の中で探るのはやりづらい。
見えないまま、ローションボトルを傾ける。少しシーツに垂らしてしまった。濡れた指で、臀部に触れる。こいつ肌やらけーな、とちょっとびっくりしてしまった。男の尻なんて他に触った事がないから比較しようもないのだけれど。
奥まった部分はもうびっしょりと濡れていて、指で撫でると、ひくひくとふるえた。
「う……」
小太郎が嫌そうな声を上げる。
「……なんか、ごめんな」
ぼそりと謝罪しつつ、でもおれだって男のケツなんか進んで触りたくはないぞ、と心の内で弁解した。
指を突き立てると、驚くほど容易く沈んでしまう。結構時間かけて慣らしてたもんな、と思いながら、指を増やす。三本までは簡単に呑み込んだ。
「う、あ……」
「すげ……なにこれ……」
指を動かすと、くちゅりと音が鳴る。女の子と殆ど同じじゃん、とこっそり、息を飲んだ。
やわらかくて温かい肉が、きゅうきゅうと指に絡みつく。
「っ、く、う〜〜〜……っ」
小太郎が気持ちいいのか気持ち悪いのか判別しにくい唸り声を上げる。
「なあ、どう? いいとこある?」
「はァ……っ!? わ、わかるわけ、ないだろ……っ!」
「だよなぁ」
肩越しに怒り散らす小太郎を宥めつつ、指を抜き挿ししてみる。襞を伸ばしていくように、指の腹でゆっくりと、腸壁を撫でていく。
う、あ、と小太郎が苦しそうに喘ぐ。
せめて気持ちよくしてやりたいなと、腹の裏側を擦りあげ、探っていると、指を曲げた辺りにしこりのようなものが引っかかった。
「ふぁ……っ」
小太郎が、今までにない甘ったるい声を出した。思わず手を止める。本人もびっくりした様子で、両手で口許を押さえていた。
「今の、もしかして良かった?」
問いかけると、小太郎は無言で俯いた。耳が、じわりじわりと赤く染まっていく。さっきよりも慎重に、そっと同じ箇所を撫でると、びくりと腰が跳ねた。
「あんま強くやると痛い?」
「わ、分からない……」
「そっか。痛かったら言えよ」
「は、ちょっと、きよ!」
「だってお前、三回イかせなきゃダメなんだろ」
清春が首を傾げると、小太郎は慌てたように目を見張る。
「そ、そんな、軽く言わないでよ!」
「お前が最初に軽く言ったんじゃん」
苦笑しながら、清春は甘く収縮する媚肉を指で撫でる。小太郎がのけ反って、声を上げた。
「ひ、あ、ああっ」
前も触ってやろうかと手を回しかけて、ふと思い至って小太郎の顔を覗き込んだ。
「これさ、ちんこ触ったらお前、もう出ちゃう?」
「……っ」
小太郎は肩越しに泣きそうな顔をして清春を見ると、口惜しそうに何度もこくこくと頷いた。
「そっか、じゃあ触んない」
「……ひ! い、あ、あ、ああ」
ケツだけでほんとにイったりとか出来るんだろうか、と疑問に思いつつ、清春は指を動かした。
「どう? さっきよりイけそ?」
「ひぁ、あ、やめ、そこで喋んなぁ……」
「なんで? 耳弱い?」
「あ、あ、あぁあ」
喘ぎながら、小太郎は否定するように頭を左右に振る。それと同時に、ぎゅう、と締め上げられる指に、やっぱ弱いんじゃん、と思わず笑みを洩らした。
舌を尖らせて、外耳をしっとりとなぞる。
「ひ、ぃ、きよっ……あ、あぁ……」
「もうイきそう?」
「やめ、やめろ……」
「やめちゃったら意味ないだろ」
「あ、あ、あああぁっ!」
びくん、と清春の腕の中の身体が跳ねた。
「あー……っ、あ、あ」
泣き声にも似た湿っぽい声を上げながら、小太郎が背中を丸めて顔を伏せる。
「……イった?」
はー、はー、と苦しそうな呼吸で肩を揺らしながら、小太郎が目だけ動かして清春を見る。
身体はぐったりと脱力している様子だった。
音もなく、壁に嵌め込まれていたランプが一つ点灯する。よく見ればランプは三つ並んでいる。
そういうカウント方式なんだ、と清春は頬を引き攣らせた。
「あと二回か……頑張れそう?」
「……だって、やるしかないんでしょ」
奥歯を噛みながら、屈辱に耐えるように小太郎が返事をした。
続