十三、手首(欲望) 戦場の風はいつも熱く頬をなぶる。小竜は全身でその風を受ける。風はいつも同じ匂いがした。
今回の出陣は快勝とまではいかなくとも、苦戦はしなかった。部隊の士気も高かった。しかし早い段階で馬の脚をつぶされてしまった。機動が落ちた分、いくらか向こうの手数が多くなってしまった。深い傷は避けられたが、全員があちこちに手傷を負う羽目になってしまった。
「怪我はないか?」
「キミこそ」
「かすり傷だな」
そう言いあう二人の顔には、言うとおりかすり傷が何か所かついていた。
「他のみんなも同じ感じだねえ」
小竜が他の刀を見回す。
「損害としては軽微といったところだろう」
「手入れ部屋には微妙なあたりだね」
頬の傷からあふれた血をすくって舐めながら小竜が言った。鉄と人間でしか持ちえない脂の味がする。
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