十二、首筋(執着) それは触ってはいけないものだった。彼を彼たらしめている部分であり。長い金髪から覗くそれは、ときに美しくときに愛らしい。でもそれは小竜の完全な所有物で。触れることはおろか見ることすら彼の許可がいる。もっとも出し惜しみをしているわけじゃないから、言えば気さくに見せてくれる。それでも、小竜の竜は彼の髪よりも触れるのが難しい。
その日は季節外れの暑さで、二人は浴衣姿で縁側で夕涼みをしていた。空のてっぺんが黒くなるころ、ようやく風がひやりと通り抜けるようになっていく。
「暑かったねえ」
小竜は団扇でゆっくりと自分を扇ぐ。
「まったくだ。倒れるかと思った」
大包平は小竜の方へ身体を倒して、小竜の膝に頭を預けた。今日の大包平は畑当番に始まり、馬小屋の修繕の手伝いやら、外での力仕事ばかりをしていた。
「おつかれさま」
小竜は団扇を大包平の方へ向ける。小竜が酢飯を作るときのように素早くパタパタと扇ぐので風が目に痛かった。
大包平は手を伸ばして小竜の首に触れる。頸動脈が脈打っている。そこに重なった竜は別の生き物のようだった。
「好きだねえ」
竜を撫でる大包平に小竜が言う。大包平は理由をいくつか考えたが、どれも正解じゃないので、代わりに小竜のあごをくすぐった。小竜はふふっと笑う。そして、大包平の指先はまた竜へ戻る。
「もし」
「ん?」
大包平の声に小竜は耳を傾ける。
「誰にも触らせるなと言ったら?」
小竜はきらんと目を輝かせる。
「OKするよ」
「本当か?」
小竜の即答に驚いて大包平は跳ね起きる。
「そんなに驚くことかい?」
「いや、」
そんな独占欲に小竜がつきあってくれると思わなかった。大包平は頬を掻く。
「好きな人が自分の好きなところを好いてくれるのは嬉しいよ」
にこっと小竜が笑った。
「小竜」
大包平の唇が小竜の唇に迫る。小竜はそれを手のひらで止めた。
「今はここだろ?」
小竜は自分の竜の頭を指でさす。大包平はくすっと笑って、その頭に口付けた。
「そこに唇で触れていいのはキミだけだからね」
小竜はそう言って、大包平の背中を抱いた。