十、胸(所有) 小竜は大包平の上にひっついていた。互いの体温が心地いい。小竜は大包平の胸に耳を当て、その鼓動を聞いていた。大包平の身体に小竜の長い髪が広がっている。大包平は指にその髪を絡めたり、撫でたりしていた。小竜は猫のように、大包平の胸にすりすりと頬を当ててくる。
「珍しいな」
大包平が小竜の髪を掬う。指の隙間から金がこぼれた。
「俺だって甘えたいときがあるよ」
小竜は大包平の厚い胸板に唇を付けた。
そういう質なのか、小竜は大包平にベタベタとしてこない。こうして抱きついてくるなど、滅多にない。
「そうか」
ならば、好きに甘えさせてやろう。大包平は大きな手を小竜の頭に置いた。
ちろりと小竜が、大包平の乳首を舐める。
「くすぐったい」
大包平が笑う。
「自分はさんざん遊んだくせに」
大包平に身体を預けたまま、頭だけ起こして、小竜が言う。
「気持ちよかっただろう」
そう言われてしまうと、返す言葉はない。小竜は再び大包平の胸に頬をつける。
小竜はおもむろに上半身を起こす。
「ねえ、大包平。もう一回しよ」
まだ夜は終わっていない。小竜は大包平の顔を見下ろして、ちょっと考えるそぶりをした。そして、手を伸ばして小竜は大包平の頬を両手で包む。
「キミの全部が欲しい。なんてね」
心も身体もそれ以上も。彼の全てを自分の物にしたい。離れる隙間なんてないくらいに。
「今さら何を言う。とっくの昔に俺はお前の物だ」
大包平は意外といった顔でそう言った。
「そうじゃないんだ」
小竜はまとまらない考えのまま言う。
「どういう意味だ?」
大包平は小竜を見上げて言った。何が違うんだろう。
「うーん。まだ足りないってことかな?」
小竜はなんとか考えを言葉にする。こういうとき、言葉は不便だ。
「では、満足するまで、俺をやろう」
大包平は小竜の腰を自分の方へ引く。
「満足しないかもよ」
心は欲深だ。
「それなら、とことんまでだな」
大包平も半身を起こして、目の前の小竜の胸に口づける。
「俺もおまえの全部が欲しい」
小竜が先ほどしたように、大包平は小竜に頬擦りをする。小竜はその頭をぎゅっと抱いた。
「あげるよ。大包平。全部あげる」
骨の髄まで、全部貰っても、あげても、きっとまだ足りないと思ってしまうのだろう。二人はそう思った。