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    goto_510_mama

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    【包帯無駄使い装置の生誕祭記念】
    文ストのダザイ オサムの誕生日を記念した1週間短期連載です。お付き合い下さいませ。


    【Who are you?】
    探偵社に現れたダザイ。他の社員が何の疑問もなく受け入れている中、クニキダだけが「お前は誰だ?」と拳銃を突きつけて…

    #文スト(腐)
    literature
    #太国
    taikoku
    #包帯無駄使い装置の生誕祭

    Who are you?【1日目】【一日目】

     世界が、こんなにも晴れやかだった事が、未だかつてあっただろうか?
     鼻唄を歌いたくなる気持ちを抑え、努めて普段通りに振る舞う。
     初めてなのに、なんて懐かしく感じるのだろうね。
     少しレトロな昇降機は、新鮮さと懐かしさを抱えた私を乗せて、上へと運んで行く。
     続く廊下をスキップしそうな勢いを殺して進み、『武装探偵社』と刻印された金のプレートが掲げられたドアを開けた。
     真っ先に私を出迎えてくれたのは、敦君だった。資料を抱えて自机に戻る所らしい。
    「太宰さん。おはようございます。左目どうしたんですか?」
    「敦君。ちょっとね」
     ヒラリと片手を上げて答え、自机へと向かうと、その前に谷崎君が声を掛けて来た。
    「あれ? また自殺失敗したんですか?」
    「そんなトコかな? 谷崎君」
     その隣りに座ってるいる賢治君も眉尻を下げて、こちらを見た。
    「太宰さん。左目痛そうですね」
    「ありがとう。賢治君。痛くはないのだよ」
     あっ、国木田君の姿が見えた。
     自机へと辿り着けば、向かい側の国木田君はすでに仕事を始めており、キーボードに指を走らせていた。
     おはよう、と声をかけたら、訝しげに睨まれた。
     あれあれ? 今日は遅刻もせずに出社したのだよ?
     国木田君は無言のままキーボードから手を離して立ち上がると、徐ろに懐へ手を入れた。
     懐から取り出した手帳へ、素早く文字を書き込む姿に無駄はなく、「独歩吟客!」と唱えた声も迷いがない。
     現れ出たる拳銃を、私の額に向けた。そして、澱みない声でこう言ったのだ。
    「お前は、誰だ?」
     事務所内がザワつく。叱りつけると言った雰囲気なんかじゃないのは、瞭然だ。
    「何言ってるんだい。国木田。何処をどう見ても太宰だろう?」
     与謝野女医の反応は正しい。普通なら、そうだ。現に他の社員達も同じような反応なのだから。
     異様な空気が流れる中、それを断ち切るような高笑いが響いた。
    「よく見破ったな、国木田! そうだ。其奴は、僕達の知ってる太宰じゃない」
     眼鏡をぐっと押し上げて、乱歩さんは高らかに言い切った。
     やっぱり乱歩さんにはバレちゃうか。
     そのひとことで、国木田君の言動を疑っていた眼差しが、一気に確信へと変わっていく。
    「彼奴は……、敵」
     鏡花ちゃんが呟いて、短刀を身構えた。
    「私は、太宰 治だよ。紛れもなくね」
     証拠とばかりに、国木田君が具現化した拳銃を頁に変えながら言った。
    「なっ……、拳銃が……」
     驚愕に、国木田君が目を見開く。皆も、偽物だと判然したばかりだと言うのに、再び戸惑い始めている。
    「馬鹿な。『異能力・人間失格』だと? お前は一体何者何だ?」
     成程ね。国木田君はあくまでも、私が偽物だと確信しているわけだ。
    「私は太宰 治だよ」もう一度私は言い、ひとつ付け加えた。「──但し、別の世界線のね」

    ───別の世界線。

     世界は、幾つもの可能性を秘めている。
     打ち捨てられたはずの二者択一の、もうひとつの世界。
     選ばれなかった、もしもの世界にも続きが存在していたら?

    「つまり貴公は、ある目的の為にポートマフィアの首領にまで登り詰め、目的を果たしたが故に自殺を遂行し、見事本懐を遂げたはずが、気付けば此方の世界にいた、と」
    「その通りです。社長。さすがに話が早くて助かります」
     この騒ぎに、社長が出張らないはずはない。社員一同を集め、私に説明をするように求めたのだ。
     請われた私は説明をしたが、聞いている皆は狐にでも摘まれたようだった。
     ただ、それが事実である事は、名探偵からの否定がない事で証明されている。
    「私がこちらに来た理由は、大体察しはついているよ。向こうの世界が崩壊しかかっているのさ。それを止める事が出来るのは、私しかいない」
     乱歩さんは眼鏡を押し上げて、続きを繋いだ。
    「だが、お前は既に死亡してしまい、それを止める事が出来ない。それで、探偵社の太宰とお前が入れ替わった」
    「ええ。私自身が生きて此処にいる事を考えれば、探偵社の私の身代わりを務めよ、という宿命なのは明白。別の世界線と言えど、私は私。正体がバレる恐れはない。危惧するべきは乱歩さんだけであり、事情を説明し口止めすれば問題もないだろうと、……思ったんだけどねぇ」
     私は恨みがましく、国木田君を睨め上げた。
    「な、何だ。その目は! 気付いちゃ悪いか!」
     いつも通りの太宰 治を演じていたはずだ。唯一違う点である左目の包帯は、それでも気付かれないだろうという自信の現れだった。現に国木田君以外は、何の疑問も持っていなかったのだから。
     尤も、今なら確信を持って言える。国木田君ならば、包帯をしていようがいまいが、私が探偵社の太宰とは違うと見抜くだろう。
    「気付かれなければ、互いの世界の干渉も最小限で済まされただろうに。まさか、国木田君に気付かれるとはねぇ」
     私は態とらしく肩を諌め、嘆息した。
    「そうですよ。国木田さん。よく気が付きましたよね?」
     敦君がズイッと国木田君に詰め寄った。
    「はぁ。違うだろう? 此奴の方が身体は細いし顔色は悪いし……」国木田君は親指を立てて、私を指しながら言う「それに、俺の勘が違うと言ってる」
     最後は勘という曖昧な理由で締められた為に、「そういうものですか?」と、敦君はあまり納得してない様子だ。
    「それで、お前はこれからどうするつもりだ?」
     話を逸らすように、国木田君が言った。
    「向こうの私が役目を終えない限り、私と入れ替わる事は出来ないだろうから、暫くは探偵社員としてこの世界に居させて貰うよ」
     社長に許可を得ようと、視線を送る。
    「世界の崩壊を止める、だったか。それは、如何ほどの日数を要するのだ?」
     私は暫し、逡巡させた。
    「……十日。いや、七日もあれば恐らくは」
    「では、此方側の太宰が戻るまで、貴公を探偵社員として迎え入れよう」
    「ありがとうございます。改めて、ヨロシク〜」
     こうして私は、当初の計画とはズレたものの、探偵社員として受け入れられる事になったのだった。



    「それで何故、当然のように我が家に転がり込んどるんだ? 貴様は!」
     国木田君の家へ上がるなり、私は座布団へダイブした。そんな私を見下ろして、国木田君は眉間の皺を深くさせる。
    「『右目の太宰』の家があるだろ? そっちへ行け」
     国木田君は、マフィアの首領であった私と探偵社員の私を区別する為に、左目に包帯をしていた私を『左目の太宰』と名付けた。そして、残った探偵社員の私は結果的に『右目の太宰』となった。
    「えー。別にいいじゃないか。それよりさ、国木田君。何故、私を『左目の太宰』としたんだい? 『マフィアの太宰』とでもすればわかりやすかったろうに」
    「何を言ってるんだ。ポートマフィアではないお前を、そんな風に呼べるか」
     ごく当たり前に。衒う様子もなく───。
     ケロリとした顔で言い放ったものだから、私の方が呆気に取られてしまった。
     刻まれた記憶が、『それが国木田独歩という人間だ』と叫ぶ反面、この世界に来て初めて対面する光に、私は目が眩みそうだった。
     でも、これが光というものか───。
     国木田君は私に一瞥をくれ、「……ともかく」と続けた。
    「お前一人にしておくと、碌なものも食べんだろうから、面倒をみてやる。今までは、ちゃんと食べてたのか?」
    「食べてたよー。米の水とかね」
    「馬鹿もん! それは日本酒で、飯とは言わん。だから、そんな青白い顔をしとるんだ。此処にいる限りは、そうはさせんぞ。きっちり三食食べて貰うからな!」
     国木田君は腕を組み、踏ん反り返らんばかりに宣言した。
    「ハハっ。そうだよね。国木田君なら、そう言うよね」
     私のではない記憶という名の情報が、正しく証明されていく度に、私自身の記憶になっていく。それが可笑しくて、嬉しかった。
     この日食べた白米と味噌汁の味は、泣きたくなる程に美味しくて、私の記憶として刻まれた。
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