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    goto_510_mama

    主食は文ストの国受けです。
    推しが右なら、何でも美味しく頂けます。固定、リバ等方は、ご注意ください!!!

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    【包帯無駄使い装置の生誕祭記念】
    文ストのダザイ オサムの誕生日を祝う為の連載企画2日目です!

    【Who are you?】
    武装探偵社員として働く事になった元首領のダザイは、クニキダと共に外回りに出る事になり…

    #文スト(腐)
    literature
    #太国
    taikoku
    #包帯無駄使い装置の生誕祭

    【2日目】【二日目】

    「起きろ。太宰。起床の時間だ」
     きっちりかっちり。一秒の狂いもなく六時に叩き起こされた。
    「うう〜。眠いぃ。私は夜を生きるポートマフィアだったのだよ? こんな明朝はむしろ就寝時間みたいなものなのに」
     掛け布団をくるりと体に巻き付けて、蓑虫になって抗議した。
    「つべこべ言うな。探偵社員として、右目の太宰の代わりを務めるのだろう? だったら、起きて働け!」
     そう言うなり、国木田君は布団の端を掴むと、思いっきり引っ張った。布団を剥がされた私は、ゴロゴロと畳の上に転がり出た。
    「国木田君の乱暴者!」
     ずりずりと畳に這いつくばりながら、怨色もあらわに国木田君を見上げた。
    「顔を洗って来い。朝食も出来てるぞ」
     昨日の夕飯で、すっかり胃袋を掴まれてしまったようで、私のお腹がくぅ〜と物欲しそうに鳴った。
     仕方なく起き上がった私は、顔を洗うと、朝食の席に着いた。
     夕飯は和食であったが、朝食のメニューは意外にもパンだった。トーストにハムエッグ、野菜スープと、至ってシンプルなものだった。
     ほんわりと温かいトーストは、噛み締めるとマーガリンがジワっと染み出して来た。野菜スープはコンソメ味で、塩味が野菜の旨みを引き出してくれている。ハムエッグは半熟で、トロリとした黄身とハムとの相性は抜群だ。
    「朝食の時間は残り11分38秒だ。その後は片付け、歯磨きに忘れ物のチェック。七時半には家を出るぞ」
    「うへぇ。何それ、私も国木田君の予定に付き合えって事かい?」
     手帳を見ずとも、その綿密に書き込まれたスケジュールが浮かぶようだった。
    「当然だ。ウチに転がり込んだ時点で、それは決定事項だろう」
    「あー、えっと、そのぉ。わ、私、急用が……」
     冗談じゃない! そろりと背を向けて、四つん這いで畳を駆け出した私を、国木田君が後ろ襟をふん掴んで引き止めた。
     猫の仔のように捕まえた国木田君を、恐る恐る振り返り見て、私は逃げられない事を確信した。
    「……本当に付き合わせるし。よりによって、外回りばっかりだし。私、こんなに歩かされたの初めてだよ」
    「ええい、ぶつぶつ文句を言うな」
     探偵社に出勤したと思えば、「外回りに行くぞ」と連れ出された。商店街や繁華街を回り、事件や事故がないかと見て歩く。
     尤も、そんな物騒な事、そうそうあるものじゃない。実際に外回り中に遭遇したのは、老女の荷物を持ってあげたり、自転車の二人乗りを注意しただけだった。
     街は陰鬱な事件なんて無関係とばかりに、陽の光の下で無辜の民は日常を刻み、安寧を生きている。
    「どうして外回りの仕事なんだい? 仕事をするにしても、請けてる案件のどれかを処理する方が有益じゃないか」
     起こるか起こらないかもわからない事件を追うよりも、確実に探偵社の利益になる。
     私の前を猪突猛進とばかりに進んでいた国木田君は、不意に歩みを止めた。開いていた二人の差が縮まった。
    「あちらの世界でお前は……、」国木田君は横顔を向けたまま、「ポートマフィアであり、裏路地や暗部を生きていたのだろう? しかも、首領であれば命を狙われる危険もあって、こんな風に陽の高いうちに表を歩く事もなかったんじゃないか?」
     そう言って、こちらを向いたその顔は優しい。
     思い起こせば、犯罪が起きそうな路地裏や溜まり場よりも表通りを歩く方が多かったように思う。見回るにしては、少し不自然ではあった。
    「それじゃ、これは私の為……?」
    「だが、さすがに歩きっぱなしは疲れたな。そこの茶屋で休ん……」

    「きゃー! 誰かっ、引ったくりよ」

     国木田君が茶屋を指差したのと、初老の女性が叫び声を上げたのは、ほぼ同時であった。
     そして、国木田君は一瞬の躊躇もなく、その女性に駆け寄った。
    「大丈夫ですか? 怪我は?」
    「大丈夫です。それより、バッグが……」
     震える女性の目線の先には、バッグを抱えたジャージ姿に帽子を目深に被った人物がいた。
    「太宰!」
    「はいはい」
     私は声を掛けられるや否や、引ったくり犯を追って走った。やっと外回りの仕事らしくなってきたじゃないか。
     走って追い抜かすには、私は体力面で難がある。けれど、裏社会を歩く人間の心理を読むのは、お手の物だ。
     私は走り疲れたフリをして、右手の小路に逸れた。
     引ったくり犯は幸いとばかりに、スピードを上げた。追手が来ないかと、後ろを振り向き振り向き走っている。
     そんなに後ろばかりに気を取られてちゃ、危ないよ? こんな風にね。
    「う、わぁっ」
     引ったくり犯は、私の差し出した足に蹴躓き、前のめりに転がった。
    「お前っ、何で俺の前に? 俺を追ってたんじゃ」
    「犯罪者というのはね。得てして左回りに逃げる傾向があるのさ。右側だと反対車線で対向車にぶつかる危険性があるからね。だから、左側のこの路に進むと読んで先回りしたんだ。───さて、観念してバッグを返して貰おうか?」
     私は右手を差し出した。引ったくり犯は「ぐぬぬ」と呻くと、私の左目へ向けてバッグを振り回したのだ。
     バッグの角が左目に当たり、怯んだ隙に引ったくり犯は再び左回りに駆け出した。
     その先には、路とも呼べぬようなビルとビルの間に出来た通路があり、引ったくり犯はそこを擦り抜けていく。
     両脇にビルがあり、それを避けての先回りは出来ない。引ったくり犯は、私が駆け出す前に逃げ切ろうと、今度は脇目も振らずに走っている。
     思わず、口角が上がり掛けた時だ。───「独歩吟客! 鉄線銃!」
     私の脇を横切って、鉄線が引ったくり犯を巻き取った。あと一歩で通路を抜け出そうかという所だった。
     国木田君が鉄線を後方へ引き、引ったくり犯に尻餅をつかせた瞬間に、その目の前をトラックが横切ったのだ。
    「ヒィッ」と、引ったくり犯は短い悲鳴を上げた。もし、あのまま走り抜けていたとしたら、トラックに轢かれていた可能性がある。少なくとも引ったくり犯は、そんな未来が過ぎった事だろう。
     国木田君に捕まりはしたが、命拾いしたというわけだ。
     引ったくり犯は青褪めた顔をしてしまい、逃走する気力すらもない様子だ。
    「やあやあ。国木田君。お手柄だね」
     軽く拍手なんてしながら、ヘラヘラ笑って歩み寄った───途端、国木田君は有無も言わさず、私の胸ぐらを掴んだ。
     鬼の形相とは、こんな顔を言うのだろうかと、国木田君の顔は怒りに満ちている。
    「貴様ッ。態と、この路へ誘い込んだな?」
    「───何のこと?」
    「とぼけるな! 先回りして犯人を転ばせたまではいい。その後、転んだ犯人を拘束する事が出来たはずだ。それを逃がすチャンスを与えた。この路へ誘う為に」
     ああ。軽薄の仮面が剥がれてしまう。慣れ親しんだ暗い影を落とした瞳が、フッと顔を出した。
     幾ら『右目の太宰』の記憶を受け継いでいたとしても、『左目の太宰』として生きてきた記憶が身に染み込んでいるのだ。そんなに容易く抜けるわけじゃない。
    「この先の路は交通量の多い大通りに繋がっている。急に飛び出せば大事故にも繋がりかねんのだぞ?」
    「交通量が多いから、車間距離が詰まり易く、意外とスピードが出ていない。人が飛び出してもブレーキの間に合う可能性は高い。仮に間に合わなくても、スピードが出ていなければ大事故にはならない」
     国木田君の言う通り、捕まえる事も出来た。けれど、報復を生業にしてきたような私に、無傷で捕えるだけの発想がなかったのも事実だ。
    「それでも、万にひとつ死ぬかもしれないんだぞ? お前はもう、ポートマフィアの人間じゃないんだ。探偵社員として思考しろ!」
     国木田君の言葉が弾丸となり、私の胸に被弾する。
     確かに私は一度死に、此方の世界へやって来た時点でポートマフィアでも何者でも無くなった。
     それでも私は、望む望まないは別として、ポートマフィアとして生きて来た人間だ。悪側の人間なのだ。
     だというのに、君は───。

    「そうだったね。私はもう、『ポートマフィアの太宰』ではなく、『左目の太宰』だったのだよね」
    「……わかってるなら、いい」
     その後、国木田君は引ったくり犯を警察に突き出し、初老の女性は何度も何度も私達に礼を言った。
    「すっかり茶のタイミングを逃してしまったな。もう、昼だ」
     国木田君は時計を見遣った。
    「じゃあ、さっき通った国木田君行きつけの中華屋でお昼にしようよ」
    「そうだな。醤油ラーメンもいいが、炒飯と餃子も美味いんだ」
    「もしかして、それ全部頼むつもり?」
    「普通だろ?」
    「いやいやいや、無理でしょ?」
    「そんなんだから、お前はそんなに細いんだ」
     他愛もない会話を交わしながら、私達は中華屋へと歩き出した。
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