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    Natuめ

    東iリiべi武i道i受iけi小i説書いてます!

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    Natuめ

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    【教育実習で来たやつが実はめちゃくちゃヤバいやつだった】の世界線のお話です。
    支部に上げようか悩んでやめたやつなのでここで供養します🙏

    高校の先輩が実はめちゃくちゃヤバいやつだったギャグ。n番煎じ。なんでもありご都合主義。キャラ崩壊。口調迷子。謎時空。
    武道の精神が強くなってる。

    オリキャラが出張ってきます。

    『教育実習で来たやつが実はめちゃくちゃヤバいやつだった』の過去のお話になります。
    上記の作品を読んでなくても大丈夫です。


    誤字脱字無視して頭空っぽにして読める方だけお進み下さいー!














    「佐藤君?」

    「そ、佐藤」

    高校二年の、緩やかに日差しが強くなってきた五月の事。
    天気がいいからと中庭で弁当を食べていた時、千冬からある話をされた。
    それが一つ下の佐藤という男子のことだった。

    「他県では結構有名な不良だったんだって」

    「え、わざわざほかの県から通ってるの?」

    「知らんけど、まあ多分親の転勤とかでこっち来たんだろ」

    武道達が通う学校は、わざわざ他県から来るほど有名なところではないため、推薦などとは考えられない。
    となると確かに千冬の言う、親の転勤などが一番可能性的には高いのだろう。

    「へー。そんな話題に上がってた子いた?」

    「入学式も来てないって」

    つまり一度も学校では会っていないということかと、唐揚げを頬張りながら考える。
    良くも悪くも学校という場所は、噂話のネタがなくなることはない。

    「で、その人がなに?」

    「最近いろんな不良に喧嘩売ってるんだって」

    「えぇ……。血気盛んだなぁ」

    有り余る体力があるなら、学校に来て体育に出ればいいのに。
    今日なんて持久走で、校舎周りを延々と走らされるのだ。
    しかも五時間目にだ。お腹いっぱい眠い中でなんて、気持ち的にはもはや拷問に近い。

    「東卍もだけど、黒龍も、ここらじゃ有名だ。気をつけろよ?」

    「気をつけろって言われてもなぁ……」

    東京卍會と黒龍。
    東京の二大勢力と言われるグループである。
    そのどちらにも武道は所属し、方や隊長、方や総長と言う異例ずくめの存在だ。
    確かにそんな腕試しみたいなことをしている人なら、武道を狙う可能性もなくはない。
    だがしかし。

    「オレみたいなの、狙われないと思うんだよなぁ」

    隊長らしくない、総長らしくない、と言う言葉を何度聞いたことか。
    パッと見は頼りなさげな武道のことを、そんな有名なグループに所属しているとは誰も思わないらしい。
    実際同じクラスの人たちからは、金髪の不良かぶれ程度にしか思われていない。

    「気をつけるに越したことはないだろ。異例ずくめの存在なんだから」

    まあ千冬の言うことに間違いではないので、素直に頷いておいた。
    確かに武道の存在はだいぶイレギュラーだ。

    「ほら、さっさと食おうぜ。午後一持久走だし」

    「あ、うん」

    残っていたお弁当を平らげ、武道たちは教室へと急ぐ。
    体育の教師は一分でも遅刻しようものなら、その日の授業は休み扱いしてくる。
    勉強もが人並み以下の武道は、なるべく出席日数を稼いでおきたかった。
    慌てて着替えて授業に出て、眠気をこらえながら走っている頃には、千冬との会話をすっかり忘れてしまっていた。













    六限目まで終えて、武道は家への帰り道買い食いしようと商店街を歩いていた。
    今日の夜は東卍の集会なのでその前に軽く腹ごしらえでもしたいと、お肉屋さんのメンチ目的で歩いていると、裏路地からなにやらうめき声の様なものが聞こえた気がし視線を向けた。
    そこには蹲る男子三人と、拳を握る男子一人。
    辺りにはバットや竹刀などの長物が三本転がっており、その光景を見て瞬時に理解した。
    どうやらリンチに合いそうだったのを華麗に回避したようだ。
    血に濡れた拳をハンカチで拭いつつ、こちらを振り返った男子と目が合う。

    「んだテメェ」

    「あ、ごめんなさい。呻き声聞こえたもので……」

    「……お節介なやつ」

    まあ確かに、普通なら裏路地からうめき声なんて聞こえたら避けて通るだろう。
    でも残念ながらそこへあえて行ってしまうのが花垣武道という男なのだ。
    なので悲しいことにこういった場面に出くわすことも少なくない。
    長年の経験で瞬時に現状を理解した武道は、倒れる男性たちの意識があることを確認し、元気そうな方に声をかけた。

    「怪我とかしてない?」

    「この程度の人数にするわけねぇだろ」

    「お強い…」

    三対一なら怪我してもおかしくはないのに、どうやら本当に無傷なようだ。
    凄いなと思いつつ、ちらりと彼の様子を確認する。
    私服だから確証は持てないけれど、多分同い年くらいだと思う。
    茶色の髪は少しだけ長めで、それを後ろでひとつに結んでいる。
    身長は武道と同じくらいだけれど、見た目がいいのでモテそうだ。
    血を拭ったハンカチをその場に捨てると、彼はこの場を後にするため武道の隣を通ろうとする。

    ーーぐぅぅぅ

    「……」

    「……」

    腹が鳴った。ちなみに武道のではない。
    ちらりと隣を見れば、耳が真っ赤になっている。
    その様子がなんだか幼く見えて、もしかしたら武道よりも年下かもしれないと思った。

    「ーー今からメンチ食べようかなって思ってたんだけど、一緒に来る?」

    「……行く」

    来るのか、と驚きながらも歩き出せば、後ろをぶすっとした顔でついてくる。
    肉屋はすぐ側だったのでそこでメンチカツを二つ買い、近くの公園へ向かう。
    ベンチに腰かけて隣を叩けば、相変わらずの顔で彼も座った。

    「はい」

    「……いくら?」

    「いいよ。百円くらいだし」

    「……あとで飲みもん買ってやる」

    「どうも」

    実はいい子みたいだ。借りを作りたくないだけかもしれないけれど、好感を持てた。
    隣同士に腰掛けて、鬼ごっこをしている小学生を見守りつつメンチを頬張る。
    お肉屋さんのメンチとかコロッケってなんでこんなに美味しいんだろうか?
    こっち本業にすればいいのにと、肉汁を零さないよう気をつけつつ食べていく。
    隣をちらりと見れば、彼もまた豪快に食らいついていた。

    「美味しい?」

    「めちゃくちゃ美味い」

    「あそこのコロッケもオススメだよ」

    「マジか、次買お」

    もぐもぐと口を動かしていたら、気づけば手の中にあったはずのものが胃の中に消えた。
    隣を見ればあちらもあっという間に食べ終えていたらしく、立ち上がると隣にある自販機に小銭を入れている。

    「なに飲む?」

    「炭酸がいいな」

    ガコンと音を立てて、自販機からなにかが落ちてくる。
    それを手にベンチに戻ってきた彼から、グレープ味の炭酸をもらう。

    「ありがと」

    「ん」

    前を見れば鬼ごっこは終わっていたらしく、今度は氷鬼が始まっている。
    元気だなぁとその姿を見ながら炭酸を一気に喉に流し込めば、シュワシュワとした感覚が口の中の油っぽさを消してくれる。

    「あんたさ、高校生?」

    「うん。高二」

    「マジ? 先輩だ」

    「高一?」

    「そ。中学は他県だけど」

    おや? となにか引っかかった気がした。
    なんだかつい最近、こんな話を聞いたような……。
    そこまで考えて、ふと昼に千冬と話したことを思い出す。
    一つ下の他県から来た子。喧嘩ばっかりしてるという。

    「君もしかして佐藤君?」

    「……なんで知ってんの」

    訝しげに見られて、慌てて手を振った。
    もしかしてと思って聞いたけれど、まさか本当にそうだったとは驚きだ。

    「オレ、君と同じ高校。入学初日から来てない奴がいるって、ちょっと有名になってるんだよ」

    「……なるほどね」

    前髪をガシガシと掻きむしり、彼は背もたれに深く腰掛ける。
    先程も思ったけれど、普通にいい子そうなのに、なぜ人に喧嘩を売るような日々を送っているのだろうか?
    学校にも行ってないとなると、もしかして勉学というものに興味がないのかもしれない。
    武道の知り合いに、別の未来だけれど高校に行かず、自ら店を出した人もいるためそういう人生も素敵だと思う。
    けれど見えた表情がなんとなく悲しげに見えて、思わず声をかけていた。

    「……学校、行かないの?」

    「関係なくね?」

    「まあまあ。お節介な先輩に世間話すると思って」

    「変なやつ」

    自分でもそう思うので否定はしなかった。
    いくら同じ学校の上級生とはいえ、こんなパッと出会っただけのやつに話すわけないよなと思っていると、彼の中にも燻るなにかがあったのかぽつぽつと話してくれた。

    「……学校は、行きたいと思ってる。でも行けねぇ」

    「行けない? なんで?」

    本人が行きたいと思ってるのにそうすることが出来ないなんて、余程のことがあるのだろう。
    彼は缶コーヒーを開けたはいいが、飲む気がしないのか手に持ったまま話を続けた。

    「……中三の時にさ、同級生の女子が変なのに絡まれてて、それを助けたんだよ。そしたらそいつ、地元じゃ割と知られたグループに所属してたみたいで、目付けられてさ」

    「不良グループってこと?」

    「そ。丁度受験だったし、兄貴の家に転がり込む形で地元出てさ。流石にこっち来てまで手を出さないだろうって思ってたのにしつけぇの」

    どうやら千冬の話は少し違ったようだ。
    彼から手を出していた訳ではなく、むしろ向こうから絡んできていたらしい。
    なんとも報われない話だと、武道は頬を人差し指でかいた。
    彼はただ同級生の女の子を助けただけなのに。親や友人と別れてまでこちらに来たのに、そのグループの奴らが目を光らせているから、学校に通うことも出来ていないようだ。

    「学校行って、下手に他の奴らが絡まれるのも嫌だし。だから、行けない……」

    「……佐藤君、君いい子だね」

    「一個しか違わねぇのにガキ扱いすんな」

    他人のことをこんなに思いやれる子が、苦しんでいるのは見過ごせない。
    少なくとも彼よりもここら辺のことは詳しいつもりなので、なにか手助け出来るかもしれないと前のめりで質問した。

    「そいつらそんな強いグループなの?」

    「……なにお前、不良とかに憧れてる系? やめとけよ。お前みたいなのボコられて終わるだけだから」

    「えぇ……」

    そんなふうに見えているのかと、なんとも言えない顔をしてしまう。
    確かに憧れてはいたけれど、今は憧れるとかそういう次元ではない。
    自分では昔よりは威厳的なのが出てきた気がするのだが、どうやらまだまだなようだ。

    「こっちってめちゃくちゃ強いグループあんだろ? 下手に目立たねぇほうがいいぞ」

    「ああ、東卍のこと?」

    「あと黒龍っての。地元ですら聞いたことあるくらいだし、まじで気をつけろよ」

    気を付けるもなにもないのだが、好意で言ってくれてるのが分かったので黙って頷いた。
    武道がその黒龍のトップだと言ったところで、この感じでは信じてはくれないだろう。
    不良に憧れる一つ上の先輩。彼の中では武道はその位置づけらしい。

    「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよ」

    「心配なんてしてねぇ。……つーか、俺お前の名前知らないんだけど」

    「あ、ごめん! 花垣武道です。君と同じ高校の二年生」

    確かに一方的に名前を知っていたので名乗ってなかったと、慌てて答える。
    やっと缶コーヒーの一口目を飲み込んだ彼は、若干興味なさそうに頷いた。

    「ハナガキさんね。……学校ってさ、どんな感じ?」

    「……今日は体育持久走だったよ。一年もそう」

    「げっ、俺持久走嫌い」

    「わかる、オレも」

    学校のこと、気になってはいるのだ。
    武道が話す学校の情報を、楽しそうに、そして羨ましそうに聞いている姿を見ていると、胸にくるものがある。
    行きたいと思っているなら、行かせてあげたい。
    そのために出来ることが、武道にはあった。

    「……ねえ、佐藤君。明日学校行ってみない?」

    「……人の話聞いてた?」

    「聞いてた聞いてた。でも大丈夫だよ」

    「なにが大丈夫なんだよ。格闘技強い体育教師でもいんの?」

    残念ながらそんな教師はいないけれど、絶対に大丈夫だと胸を張って言える。
    ありがたいことに、武道には手を貸してくれる人がたくさんいるのだ。

    「そんな人はいないけど、でも大丈夫。明日、必ず学校来てね」

    「……でもさ」

    「行きたいなら行こうよ。学校、楽しいよ」

    授業は訳が分からないしすぐ眠くなるけど、それでも友達と過ごせるかけがえのない時間なのだ。
    その権利を誰かに奪われるなんて、あってはならないことだと思う。

    「大丈夫。オレが守るよ」















    「千冬」

    「おう、どうした? 遅かったな」

    夜、東卍の集会に顔を出した武道は、相棒でもあり佐藤の噂を教えてくれた千冬の元へ駆け寄った。

    「今日昼にさ、話した佐藤君に会ったよ」

    「はぁ!? おま、また面倒事に巻き込まれたのか!」

    「またって何!? あと声大きいから!」

    下手に騒ぎにしてほかの隊長格に知られたくない。
    彼らは武道のことを子供とでも思っているのか、いやに過保護なのだ。
    だから佐藤と関わっているとバレたら、きっと止められてしまう。
    まだ叫ぼうとする千冬の口を塞ぎつつ、端の方へと寄る。

    「たまたま会ったんだよ! 千冬が言うような子じゃなかったし」

    「まーた身の上話聞いたのかよ……」

    とにかく聞けと、彼の小言を遮って佐藤から聞いた話をした。
    元々面倒見のいい千冬のことだ、話を聞けばきっと武道と同じように感じるだろう。
    そう思って話をすれば、予想通り目の前の顔が真剣なものへと変わる。

    「なるほどな……。そりゃ大変だったな」

    「でしょ? だから明日学校来るように言っておいたんだけど……」

    「まあ大丈夫なんじゃないか? 校内まで来るとは思えないし……」

    他校にまで入るような度胸をその人たちが持っているかはわからないが、入ってきたところで佐藤に近寄れるとは思えなかった。
    それでもやってくるというのなら、こちらが先手を打っておけばいいだけの話である。

    「とりあえず明日は周りを警戒してもらおうかなって」

    「こっちの隊のやつ?」

    「ううん、黒龍のほう。ココくんに相談したら任せとけって」

    「黒龍の奴らこういう時絶対譲らないよな……」

    武道至上主義なところがある黒龍メンバーは、なにかと東卍一番隊を目の敵にしていると、千冬は思っているらしい。
    そんなことないはずなのにと思いながらも、自信を持って否定できないところもあるので、そこらへんはうやむやにしていた。
    出来れば仲良くして欲しいのだが……。

    「ま、なら大丈夫だろ。あそこら辺は黒龍の縄張りだし、見回りもしてんなら手を出してくることはないはずだぜ」

    「だよね。あとは彼の手助け出来ればいいんだけど……」

    「乗り込んじまえば? そのグループ潰せば一発じゃん」

    「どうやって? 抗争理由もないし、そもそも佐藤君、オレが黒龍の総長だって気づいてないし」

    「あー……まあ、だよな」

    なんで納得するんだと、じろりと睨みつける。
    同じクラスの千冬は、武道が学校でどんな扱いを受けているかよく分かっているのだ。
    女子からはほぼ相手にされないし、ちょっとイケてる男子からは下に見られている。
    とても不良のグループを率いているとは思えないようだ。
    まあココやイヌピーが武道の高校生活を思い、意図的に学校側にバレないようにしてくれているからなのだが。

    「とにかく、佐藤君からSOSでもないとオレからはなにも」

    「は? 佐藤って誰?」

    後ろから聞こえた声に慌てて振り返れば、そこにはこめかみに青筋を走らせた、恋人であるマイキーがいた。
    どうやら怒っているらしく、その原因がなんであるか武道は瞬時に理解する。
    武道が知らぬ男の名前を出したことに嫉妬しているのだ。
    飄々として掴みどころのない人だと思っていたけれど、実は愛情深く嫉妬深い。
    マズイ、と思った時には最後。首根っこを掴まれてズルズルと神社の裏へと連れていかれた。

    「佐藤って誰」

    「言いますからそんな圧強めないで……」

    別に聞かれて困ることではないので、洗いざらい説明をした。
    困っているらしいことを伝えても、目の前の顔は晴れない。
    どうやら武道が彼に構うこと自体が嫌らしい。

    「なんでタケミっちがそいつのためになにかするの?」

    「オレがしてあげたいからですよ」

    「は? なんで? なにそれ意味わかんない。まさか……好きになった、とかじゃねーよな?」

    もはや圧を通り越して殺気を放たれている。
    おかしな方向に進みそうな彼の思考を止めるため、何度も首を振って否定した。

    「そんなわけないじゃないですか」

    「じゃあほっときなよ。タケミっちがやる必要ないじゃん」

    「……ここでほっとくオレのこと、マイキー君は好きでいられる?」

    大きく見開かれた瞳が、質問の答えを返してくれた。
    こんな時に恐れて隠れているような男を、あの天下の佐野万次郎が好きでいてくれるとは思えない。
    当たっていたのか、思い切りため息をついたマイキーがゆっくりと抱きついてきた。

    「タケミっちさー、ほんともう止めてよ。これ以上ライバル作らないでよ」

    「ライバル? なんの?」

    「……もういいよ、好きにしてさ。そういうタケミっちのこと、好きになったんだし」

    どうやら佐藤の手助けをすることに、マイキーから一応お許しが出たらしい。
    ただ心からのお許しではないらしく、ほんのりと唇を尖らせている。

    「でもやっぱりムカつくから、必要以上に近づかないでね。あと、優しくもしないこと」

    「んー……」

    多分それは無理なので、約束は出来そうにない。
    でも今ここで否定すれば、マイキーの機嫌を損ねるのは間違いないと、武道は違う方法を使うことにした。

    「マイキー君、今日集会の後走り行きません? 久しぶりに後ろ乗せてください」

    「いいよ! どこ行く? 海とか?」

    「いいですね! 海行きましょ」

    一瞬にして機嫌は戻ったらしく、鼻歌を歌いながら集会場へ戻っていくその後ろ姿を見る。
    憧れてた人と付き合っているなんて、未だに驚きだ。
    もう交際歴は一年を越えており、喧嘩はすれど別れ話が出ることはない。
    お互い大切に想いあっているのだから、もう少し信じてくれてもいいのに、とも思う。
    もう少し長く付き合えば、そうなるのだろうか?
    武道がすることを否定するのではなく、背中を押してくれるようなそんな存在に。
    だといいなと思いつつ、武道は彼を追いかけた。













    翌日。同じクラスの噂好き女子が騒いでいたので、佐藤が登校したことを知った。
    入学早々他校の生徒と喧嘩して入院していた、実はヤクザの息子で裏口入学だった、など様々な噂が尾ひれについていたけれど、彼は大丈夫だろうかと考える。
    学校の周りは黒龍の人達に軽く見回りをしてもらい、変な人を見かけたという情報はこちらに伝わっていない。
    なので多分だが、ここら辺が黒龍の縄張りだとあちらのグループも理解はしているのだろう。
    佐藤個人を狙うならまだしも、関係ない人間まで巻き込みかねないことはしないらしい。
    それならそれで、こちらとしても守りやすくていい。

    「このあとどっかで飯食ってく?」

    「いいよ。夜黒龍の集会あるからそれまでだけど」

    千冬と共に教室を出て昇降口へと向かう。
    本日の授業は全て終わり、生徒たちは各々の放課後を楽しむ。
    部活に勤しむもの、バイトに向かうもの、友人と喋るもの。
    武道もまた千冬と放課後を共にするため、どこの店に行くかを話し合う。

    「ならガッツリ食っとくか。ファミレスとかどうよ?」

    「ハンバーガーは? ポテト食べたい」

    「おー。じゃあ今日はハンバーガー食べに」

    行くかと言おうとした口を、千冬はそっと閉じた。
    昇降口、武道の下駄箱の前に一人の男子がいたからだ。
    武道を見るなりもたれかかっていた体を起こし、小さく頭を下げる。

    「佐藤君。どうしたの?」

    「あー……ちょっと、話があったというか……」

    本日初登校したせいで話題の人になっている佐藤が、どうやら武道を待っていたらしい。
    気まずげにそらされた瞳は、一瞬だけ隣の千冬はへと向けられた。
    それにいち早く気づいたのは向けられた本人だった。

    「飯は明日な。んじゃ、オレ先帰るわ」

    「うん。また明日」

    手を振って颯爽と去っていく千冬はさすがだと思った。
    気の利く男はなんでもスマートにこなすなと感心していると、そんな千冬の背中を見ながら佐藤が口を開く。

    「気、使わせちゃったよな? 悪いことしちまった……。明日とか、会って謝れるかな?」

    「……佐藤君本当にいい子だよね」

    「それ止めろ。ガキ扱いすんな」

    千冬が察知して行動しただけなのに、心底申し訳なさそうな顔をする佐藤は本当にいい子だと、頭でも撫でてあげたくなる。
    怒られるだろうからやらないけれど。

    「それで? なにか用なんだよね?」

    「ああ、ちょっと話したくて。コロッケ、奢るから行こうぜ」

    「いいよ、払うよ!」

    「賄賂だから黙って受け取れよ」

    年下に奢られるなんてと思ったけれど、賄賂というならありがたく受け取ろうと、二人で商店街まで向かい、近くの公園までやってきた。
    今回は武道が飲み物を買い渡せば、なぜか不服そうな顔をされる。

    「これじゃ賄賂になんねーじゃん」

    「なるなる。大丈夫大丈夫」

    「いや、軽っ」

    どんなお願い事をされるのかは分からないけれど、賄賂なんて貰わなくても動くつもりだ。
    ベンチに腰かける佐藤の隣に座り、買ってもらったコロッケに食らいつく。
    お肉屋さんのコロッケも大変美味である。
    同じように咀嚼していた佐藤は、オレンジジュースで流し込んでから口を開いた。

    「学校さ、楽しかった。腫れ物みたいに扱われてはいたけど……でもやっぱいいなって思った」

    「……時が経てば解決するよ」

    佐藤の人となりを知れば、あんな噂は瞬く間に消えるだろう。
    それまでの辛抱だと言えば、佐藤は嬉しそうに笑う。

    「だな! 今は勉強ついてくだけでキツいし……」

    「そこは手助けできそうにない……」

    「あ、うん。期待してない」

    「ソウデスカ」

    そんな馬鹿そうに見えるだろうか?
    まあ実際そうなので文句は言えず、大人しくコロッケを頬張った。

    「これからも学校行きたいって、やっぱり思ったんだ」

    「……うん、そうだね。行くべきだよ」

    「だからさ、そのためにもまずは問題解決しなきゃなって」

    どうやら本題に入るらしいと、武道は手に持っていたコロッケを食べきり、ジュースで喉を潤した。

    「なにか策でもあるの?」

    「一番いいのは、俺が向こうと話をつけることなんだろうけど」

    「んー……。無理だと思うけどなぁ」

    佐藤がなにか問題を起こして目をつけられたわけではないため、そもそも話をつけることは難しいだろう。
    そういう輩はこちらの謝罪なんて受け付けないし、そもそも佐藤はなに一つ悪いことなんてしてないのだから謝る必要はない。

    「だよなぁ。話なんて聞いてくれないだろうし……謝りたくねぇし」

    「うん。それでいいよ」

    うんうんと頷きつつでも、と考える。だとしたらどうしたらいいのか。
    佐藤がなにも気にせず学校に通えるようになるためには、どうなるのがいいのか悩みどころだ。

    「でもそうなると、向こうに諦めてもらうしかねぇんだけど……。いろいろ考えて思いついたのが一つだけあってさ。そこで賄賂の出番だったわけなんだけど」

    「別にそんなの貰わなくてもいいのに」

    「俺の心の問題なの。……さっきさ、下駄箱で一緒にいた人、東卍なんだろ? 向こうが大丈夫だったら紹介して欲しいんだけど」

    「……千冬? 別に紹介はいいけどなんで?」

    すぐにでも彼に連絡を取れるけれど、それは理由次第だ。
    まあ佐藤のことだから変なことではないのだろうが、一応聞いておこうと疑問を投げかければ簡単に答えてくれた。

    「グループに入ろうかなって。他力本願なのは分かってるんだけど、俺一人じゃどうにもできない。だから虎の威を借りようかと思ってさ」

    情けない話だけどと笑う佐藤に、武道は首を振った。
    相手は複数人なのだから、佐藤一人でどうにかできるわけがない。
    だからそれでいいのだと、千冬に連絡しようとしてはたと動きを止めた。

    「それってさ、東卍じゃなきゃだめ?」

    「ん? いや、東卍なら名前も知られてるし、相手も諦めるかなって」

    「うん。でもそれなら黒龍でもいいかなって」

    「……あんた黒龍と繋がりあんの?」

    「繋がりっていうか、オレが総長だし」

    「………………










    はい?」

















    頭の上にハテナをたくさん浮べる佐藤の腕を引っ張りながら、武道は黒龍の集会所である教会へと向かった。
    そこは昔、聖夜決戦があったあの教会であり、黒龍に所属する人が増えた時ココが買い取った場所である。
    もう集会の時間も迫っているため、教会前には黒龍の特服を着た人達が屯していた。
    そんな彼らに近づけば、武道を見た瞬間背筋を伸ばす。

    「「お疲れ様です! 総長!」」

    「お疲れ様。そろそろ人も増えてきて周りに迷惑になるから中に入ろっか」

    「「はいっ!」」

    その一声で強面恰幅のいい男たちがこぞって教会へと入っていくその様子を見て、佐藤は大きく目を見開いた。
    花垣武道を初めて見た時、なんてことない奴だと思った。
    どこにでもいる、至って普通の男子高校生。
    なのにリンチを返り討ちにした光景を見ても、ケロっとしていた。
    佐藤の現状を聞いても面倒だとか、怖いだとかそんな思いが表情に出ることはない。
    やけに度胸があると思ったけれど、それもそのはずだ。

    「ボス、遅かったな」

    「花垣。何かあったのか?」

    「二人とももう来てたんだね。ちょっと話があるんだ」

    ごちゃごちゃと屯していた男たちが、武道の通る道を開ける。
    そこを真っ直ぐ背筋を伸ばして歩くその姿は、どこにでもいる男子高校生ではない。
    唯一無二の、黒龍の総長なのだ。

    「彼、佐藤君。黒龍に入れようと思って」

    「ああ、例の」

    「うん。そこでみんなにお願いがあってさ」

    「お願いじゃなく号令な。総長なんだし」

    「花垣のことだから、どうせ人助けなんだろ。ならいちいち伺う必要はない」

    ココとイヌピーにそう言われ、武道は集まっているほかのメンバーへと視線を向けた。
    会話を聞いていたのか、皆が皆武道をただじっと見つめてきている。
    そして向けた視線に周りが気づいた時、一度だけ大きく頷かれた。
    なにも言わず、なにも知らず、なのに彼らは武道に着いてきてくれるらしい。

    「……いいの? 抗争になるかもしれないよ?」

    「花垣の命令なら、東卍とだってやるぜ?」

    「いや! 東卍とは良好な関係でいたいので!!」

    なにが悲しくて現仲間であり、恋人と喧嘩しなくてはならないのか。
    そんなことには絶対にならないと首を振って否定すれば、何故かイヌピーは不満げだ。
    案外千冬が言っていた、目の敵云々というのも間違いではないのかもしれない。
    兎にも角にもみんな武道の意思を尊重してくれるようなので、ありがたく思いながら呆然としている佐藤へと視線を向けた。

    「今から君は黒龍の仲間だよ。大丈夫、絶対守るから」

    「……なんで、そこまでしてくれるんだ?」

    掠れた声は、今にも泣きそうなほど弱々しかった。
    一人で抱え込んで、辛かったのだろう。
    でももう大丈夫だと、手を差し伸べた。

    「黒龍はね、守るために力を使うんだ。君はそれを実行して、理不尽に傷つけられている。オレがそれを許せないってだけ」

    「……本当にいいのか? 完全に厄介事だぞ?」

    「佐藤君は本当にいい子だね。どんとこいだよ! こんな時のために黒龍があると言っても過言じゃないんだから」

    そこまで言って、佐藤はやっと武道の手に己の手を乗せた。
    力強く握ってあげれば、不安げに揺れていた瞳がゆっくりと落ち着いていく。
    負けるなんて思っていない。
    黒龍は強く、優しいチームだから。

    「ようこそ、黒龍へ。その力は、君を、仲間を、大切な人を守るために使ってね」

    「……はい、はいっ。ありがとうございます」

    「それじゃあ、行こうか」

















    後日。

    「おはようございます、総長!お荷物お持ちします!」

    「佐藤君止めてっ。そういうのいいから!」

    「いえ! 学校では俺が、俺だけが総長のお側にいれるので! なんなりとご命令ください! パシリでもなんでもします!」

    「本当に止めて!!!」

    悪い意味で目立っていた佐藤は、学校にやってきた武道を見て綺麗に腰を折り頭を下げた。
    ハキハキとした大きな声に、登校途中の生徒たちは皆こちらを見てくる。
    武道は必死に佐藤を止めつつ、周りの人になんでもないですよーっと冷や汗をかきながら弁解した。
    しかしほとんどの人が、訝しむ瞳を向けてくる。

    「貴方のおかげで俺は救われました。これからは何があっても、俺が貴方を守ります」

    「うん、ありがとう! でもそういうのいいから!」

    周りからヒソヒソと声が聞こえてくる。

    『あれって噂の一年生じゃない?』

    『え、ヤクザの息子って噂の?』

    『あれ、喧嘩して相手入院させたんじゃなかったっけ?』

    『だからそれがあのヤクザの息子だろ?』

    『えーやばっ。てかあいつ花垣だろ? そんな奴パシリにするとか……あいつもヤバいやつじゃね?』

    聞こえてくる声に、武道はそっと空を仰いだ。
    どうやら平穏無事な学園生活は、終わりを迎えたらしい。
    さようなら、平凡。ようこそ、波乱。

    「総長! ココさんに聞いて、総長の好きなポテチ買っときました!」

    「ああ、うん……。ありがとう」

    今にも泣きそうな武道の肩を、一緒に登校していた千冬が慰めるように叩いた。
    それにも礼を言って、校舎へと足を踏み入れる。
    当たり前に着いてくる佐藤を引き連れ、武道は己の教室へと向かうのだった。











    のちに武道の跡を継ぎ、彼が黒龍十二代目総長を名乗るのだが、それはまた別のお話ーー。
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