【漆黒】 君の声 胸糞悪い。
日付が変わるころに用意されたビジネスホテルに辿り着き、そのままバスルームに駆け込んだ。いくら洗っても拭いきれない汚れは、一級には一歩届かない呪霊の吐瀉物でもなく、己の汗や血ですらない。恍惚とでも言うような意思すらない笑顔を張りつけ、敬意と祈り、そして恐れを綯い交ぜにした信仰という名の狂気を抱いた人の群れから発せられた醜悪なまでの、まじないだ。
いくらシャワーを浴びても温まる気配を見せず、冷えて薄汚れた体を熱いぐらいのお湯を落としたバスタブに横たわらせた。私を信用してこの任務を寄越したわけではなく、ただ単に手が空いていた上に、呪霊の強さと相性、嫌がらせも兼ねてだろう。それでもこんな案件、悟に任せるぐらいなら私にお鉢を回される方が、よっぽどマシだ。シャワーを止めれば水音の代わりに聞こえる、いつ止むとも知れぬ虫の鳴き声が哀愁を誘い、人恋しさを募らせる。否、人恋しさではなく、悟が恋しいだけか。
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