まずは、お付き合いから――ズズッ、グスッ
「あーあ、お前。もう顔ぐしゃぐしゃじゃん、ほら」
そういって差し出されたハンカチを顔に当てると、さらさらとした肌を滑る心地よい感触と共に、上質な生地は私の目に溜まった涙を綺麗に拭った。
今日は大安吉日、連日の雨予報を覆すような気持ちのいい晴天に恵まれた日曜日。長く補助監督として勤めてきた子の結婚式に招待されていた。見知った顔ばかりの会場後方から、幸せそうな顔をした彼と新婦の門出を祝福する。私と悟は一般的に言うと所謂上司や先輩枠にあたるのだろうが、職業柄急遽中座しなければならない事態に備え後方の席を当てがってもらったのだ。
紋付きの羽織袴を着た彼は、いつもとは少し違う緊張した面持ちで式に臨んでいた。神前式ならではの厳かな雰囲気と華麗な神楽はなんとも美しく、そこだけくっきりと世界から切り取られたような凛とした空気が心地良かった。
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