花〇しき遊園地デートネタ「私はここで見ているので。鯉登少尉一人であの馬に乗って来てください」
「何を言う月島。せっかく二人で乗れるものがあるのに」
うきうきしていると、見るからに分かる様子で鯉登が指を差しているもの。
華やかで派手な飾りを施された作り物の白い馬がくるくると回転している。その屋根も煌びやかに装飾されていて、さらには音楽まで流れていた。他の遊具と比べてもひときわ華やかである。
その中にある馬車に二人で乗ろうと、先程から鯉登は言っている。
「こういうものは、私には似合いません」
本人も、私にぴったりではないか。と、言っていた通り。鯉登ならこの空間の中に居ても負けない華やかさがあるだろう。自分は確実に浮く。というか、これに限らずこの園全体、遊園地とやらそのものが自分では浮いてしまう存在に思えてならないのだが。
そんなことを思っている月島に、あっけらかんと鯉登が言う。
「似合わないと乗ってはいけないのか?そんなことはないだろう」
こういうところだ。
「ほら。行くぞ月島」
手を掴まれ引かれていっても、振り払えない。
さすがにあの空間に足を一歩踏み入れた時は引き返したくなったが。結局、それも出来ず。
まるで鯉登にエスコートされるかのように例の馬車に乗ってしまった。
開始のベルが鳴り、馬達と二人の乗った馬車がゆっくりと回転し始める。
「おお……っ。動いたぞ月島」
「あまりはしゃがないでくださいよ」
「無反応で乗っているのも不自然だろう。潜入作戦なんだからな」
それは。自分が無反応なことについて言われているのだろうか。
お返しではないが、窘めてやることにした。
「遊びに来ているんじゃないですよ。鶴見中尉からの任務でここにいるんです」
「そうだ。潜入だ潜入」
感嘆の声を上げながらきょろきょろと回る様子を見ている鯉登は絶対に遊んでいると、月島は思うのだが。
鯉登に付けさせられた、頭の上の耳の飾りになんとなく手を触れる。
こんなものを付けていては、窘めるも何もない。
「さあ。次はどこに行く?」
回転が終わり、乗っていた客が全員降ろされる。二人は最後に回転木馬の遊具を出たわけだが。出て早々、鯉登は次の遊具を探している。
「鯉登少尉っいいかげんに……」
「月島ァ。ここは遊園地だぞ。楽しんでいないと逆に目立つ。月島は、ここをただぐるぐると歩き回るつもりか?」
そもそも。
自分たちは従業員の法被を着ているはずなので。客のように遊んでいても、おかしいのだけれども。
どうやら、その点はすっかり忘れているらしい。
「潜入だっ潜入作戦!月島付いてこい!」
「……」
はぁ。
面倒くさい。
潜入って言ったら、許されると思ってるだろっ。
月島は溜息をひとつ吐いてから。
鯉登の背中を追いかけたのだった。