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    mizuho_0313

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    mizuho_0313

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    現パロ月島誕。前回の鯉登誕と同軸ですが、読んでなくても大丈夫です!

    小鉢に入った様々なおかずに、主菜に魚の煮付け。つやつやした白ご飯にお味噌汁。
    それらを綺麗に食べ終わり。いつもより贅沢なお昼ご飯に満足して、月島が箸を置いたときだった。
    「そういえば。せっかく誕生日休暇取得第一号になれるところだったのに残念だったな月島」
    目の前で食事を続けている鶴見に言われている台詞の意味が分からず。
    「……なんの話ですか?」
    月島はそう返した。
    「この前、社内で通達メール来てただろう。来年度から社員の誕生日を休暇にすると」
    そう言われると、そんなのが来てたような気もしないでもない。
    なにせ、ここのところ年度末で忙しく。月島は業務に関係ないメールなど気に止めていなかった。社内通達に対して、良い態度ではないが。
    今だって、最近忙しすぎてろくに休憩を取っていない月島を気遣って、鶴見が昼食を誘ってくれたのだ。おかげで今日は、しっかりとした昼食を戴くことが出来た。
    「四月一日。せっかく年度の最初の日が誕生日なのに、土曜日だったなんて」
    言いながら鶴見が漬け物を口にいれた。
    「さすがに振替休日というわけにはいかないからなぁ」
    「それは全然構わないですが」
    残念そうに言う鶴見に、月島は全くの未練もなく言った。別に誕生日が休みである必要なんてない。子供じゃあるまいし。
    「それよりどうして鶴見部長が俺の誕生日を……」
    部下の誕生日を全員分把握している上司というのも世の中には存在しているかもしれない。が、なかなか稀だろう。
    「ん。最近、鯉登がうるさいから」
    「……」
    うん。
    まあ大方そんなところだろうとは思っていた。
    「誕生日休暇だって、鯉登が切っ掛けで出来たようなものだしなぁ」
    確かに。鯉登は去年年末の自身の誕生日に休みを取り、それを『誕生日休暇』と勝手に言っていた。実際は有休申請したわけだが。
    それが回り回って、本当にあっという間に会社に誕生日休暇という制度を作ってしまったのだ。
    「きっと月島の誕生日は、一緒に休むつもりだったんだろう。仲が良くて結構じゃないか」
    微笑みながら、鶴見は言うが。
    それを受ける月島は居たたまれない。
    「月島の誕生日をお祝い出来なくてすまない」
    「いえ!それはまったく結構ですから!」
    らしくもなくぶんぶんと手を振って、月島は全力で謝罪など不要とアピールをした。
    本当に、どうしてこうなったのやら。

    元々は、なにも特別なことはしなくて良いと言ったはずなのに。




    休日の、のんびりとした夕食を終え。くつろいでいる時だった。
    「月島。今度は、おいがなんでも言うことを聞くぞ」
    鯉登がそう言ってきたのは、三月になってすぐ。ようするに月島の誕生日の、ほぼ一ヶ月前である。
    「なんですか突然」
    「誕生日だ誕生日。月島の」
    「ああ……」
    なにかと思えばそんなことか。
    「いいですよ。特になにもしなくても」
    三十歳を過ぎると、だんだん自分がいくつか咄嗟に分からなくなってくる。誕生日に対して子供の時のような感覚はない。まだ二十代の鯉登には分からないだろうが。
    なんとなく手持ち無沙汰な気持ちになり、月島はソファの端にあったクッションを膝に抱えた。ふにふにと感触を確かめるように両手で押さえる。
    「そんなわけにいけん。おいの時にはちゃんとして貰ったのに」
    ……。
    あれはちゃんとしたと言えるのだろうか。
    鯉登の誕生日。
    月島の方からなんでもやりたいこと、やって欲しいことを言っていいと持ちかけた。
    ちょっと想定外な事態になったりもしたが。
    外をぶらぶらし、服を見たいというので服を買い、ケーキを食べたいというので店に入り。水族館に行きたいと突然言い出して閉館まで居たり。夕食は家で食べようと、色々と鯉登の好きなものを買い込んで帰ってきて。
    昨夜、散々しましたよね!?と言っても聞かなかったので、夜も付き合った。
    ……実はすでに日付は変わっていて、誕生日ではなくなっていたのだから、付き合うことは無かったのではと、気付いたのは事が済んでから。

    丸一日以上、鯉登の好きなようにさせてそれに付き合ったのは事実であるものの。
    誕生日としてあれで本当に良かったのかと翌朝、月島は思っていたりしたので。鯉登がそう言ってくれるのは有り難い。
    ちゃんと誕生日を祝えていたらしい。
    「なあ月島ぁ」
    鯉登が隣で月島の服の袖を掴んで引っ張ってくる。
    早くやって欲しいことを言えと言いたいのだろう。
    冗談で海外旅行とか言って誤魔化せたらいいのだが。鯉登の場合、冗談で済まなくなる可能性がある。
    「本当に普段のままでいいですよ。俺は」
    ちょっと良い酒でも飲めればそれで十分。
    なにも特別なことはいらない。
    「鯉登さんはいつもと違うことをやろうとしなくていいです。その方が俺も気楽です」
    月島は抱いていたクッションを脇に置いた。もう話は終わったと思った。
    「わかった」
    鯉登がそう頷いたので、月島は安心しかけたのだが。
    「おいがしたらいけんのなら、他のみんなにして貰う」
    なにやら、よからぬ暴走を初めていないだろうか。
    「……なんですって?」
    「すでに薄々知られてはいるが、改まって月島とのことを言う機会にもなるしな」
    どうしてそうなるんだ。
    「うちにみんな呼んで、月島の誕生日を祝おう!」
    「結構です!」
    誕生日のホームパーティでもやろうというのか。
    とんでもないと、すぐに月島は断った。
    「なぜだっ」
    「必要性を感じません!」
    良い年をしたおっさんが、誕生日のパーティを開くなんて。
    「誕生日だぞ。特別な日だ」
    「もう、そういう年でもないので」
    「パーティが嫌なら、他のことを言ってくれればそうするぞ。月島がしたいことが一番だからな」
    「なので、なにもいらないですって」
    平穏な日常が一番である。
    「おいは月島の恋人だぞ。恋人の誕生日を祝おうとすることのなにが悪い」
    「悪くはないですけど……」
    そう言って貰えることは有り難いと思う。
    けれど。
    「俺は。貴方に一言、おめでとうと言って貰えたらそれで十分です」
    それだけで、本当にいいのだ。
    「月島……」
    そっと肩を掴まれて、あ。抱きしめられるな、と察した。納得してくれたのなら良かった。
    そう思ったのに。
    「……一瞬、きゅんとしてしまったが!やっぱりさすがに、それだけじゃ気が済まん!」

    ……納得しなかったらしい。


    結局、鯉登はパーティをやると言って聞かず。せっせと準備を初めてしまった。
    そして鶴見部長にもお誘いをしていたらしい。鶴見に予定があって良かったと、月島は心底思っている。
    思っていた。
    ……のだが。

    「あの。何故、鶴見部長がここに」
    当日。
    月島の目の前には、鶴見が立っていた。
    「どうしてもって鯉登に頼まれて」
    「……鯉登さんっ!?」
    「有り難うございます。来ていただいて」
    慌てる月島の隣で、鯉登と鶴見の二人が微笑み合っている。
    それ以外にも、とにかく月島の想定外が色々と起こっていた。
    とんでもなく。

    家に呼べる人数じゃなくなったからと、鯉登はいつのまにかホテルの宴会室を借りていた。さすがにこのホテルで一番小さい、20人規模ぐらいの宴会室ではあるものの。どう考えてもおかしい。アラサーどころかアラフォーに近づこうとしている男の誕生日だぞ。なんだこの、ご大層な場所は。
    しかも、月島はしている男の誕生日だぞ。なんだこの、ご大層な場所は。
    しかも、月島は当日までなにも知らされていなかった。
    家で杉元たちを出迎えるつもりで普段着で居たら、ホテルだからさすがにな。と、鯉登が着替えを持ってきた。そう言う鯉登も、明らかに新調したのであろうスーツを着ており。月島に差し出されたのも真新しいスーツである。いつのまにこんなものを用意したのかと思いながら袖を通すと、またぴったり丁度良いサイズで。
    「おいの見立てで完璧やった」
    鯉登は満足そうに頷いているが、どうやってサイズを……と思うと、少し怖いものがある。
    そしてそのままタクシーに乗りホテルに連れてこられ。鯉登が大きな扉を開き、二人で部屋に入るとおめでとうの声と、拍手で迎えられた。
    その中に鶴見の姿を見つけたというわけである。

    「月島。誕生日おめでとう」
    「あ……有り難うございます」
    この状況に動揺したまま、月島はお礼を返し。
    「いくぞ月島」
    動揺したまま鯉登に手を引かれた。
    部屋の中には白いクロスの円卓が3つ。
    三角形の形で並べられた上の頂点に位置する円卓が空席で残されており、そこに鯉登と二人でついた。この円卓のみ、花が飾られ。華やかな雰囲気になっている。
    なんというか、これは。
    「なんか披露宴みたいだな」
    向かいにある円卓のうちの一つにいた杉元の声が、月島の耳に届く。
    そう、これではちょっとした結婚披露宴である。ここに双方の両親がいれば、完璧にそれだ。
    「そうだ杉元」
    しかも、鯉登が否定をしない。
    自分で言うのもなんだが、誕生日のパーティではないのか。誕生日はどこへいった。
    「えー本日は月島の誕生日にお集まりいただき……」
    鯉登は勝手に妙に固い挨拶を始め、そこに誕生日という言葉はあるものの。もはや主役は鯉登では?と思ってしまう。
    「大事な恋人の誕生日なので、みんなに祝って貰おうと計画しました。いろいろと協力していただいて有り難うございました」
    月島の知らないところで、鯉登が動き回っていることは察していたものの。ここまでのことを考えていたとはと、呆れるやら気恥ずかしいやらだ。
    鯉登が乾杯の音頭を取り、食事はビュッフェ形式となっていたのでみんな思い思いに食事を取りに散っていく。その様子を視界に入れながら、月島はその場に残っていた。
    「鯉登さん。どういうことですか」
    同じく、食事を取りに行くでもなく隣に残っている鯉登に声をかける。
    「どういうこととは、どういうことだ。恋人の誕生日を祝って貰おうとしているだけだが」
    『恋人』の部分を強調しながら言い。なにかおかしな事でも?と鯉登の顔には書いてある。
    「月島が、おいはなにもするなと言ったからな」
    「妙な拗ね方しないでください」
    ふんと口を尖らせる鯉登を、肘で小さく突く。
    「それに十分にいろいろとしてるでしょう。やりすぎです。こんなところまで借りて」
    何もしなくていいと言って、こんなことになるとは想像していない。
    二人の間の微妙な空気に割って入るように。白石が、ひょっこりと目の前に現れた。
    「お~い。お二人さん何揉めてるの~」
    片手に持っている皿には、ここぞとばかりに山盛りに料理が盛られている。
    「別に揉めてはいない」
    この状況に少し苦言を呈したいだけである。
    「鯉登ちゃん一生懸命だったからさ。せっかく誕生日なんだし。たまには、こういうのもいいじゃん。ね?」
    白石に飛ばされたウインクを受け止め、鯉登を見る。
    「……」
    改めて一生懸命などと表されると少し恥ずかしいのか、顔が赤い。
    やりずぎではあるが、してくれたことに苦言だけ呈していても申し訳がない。白石の言う通りだ。
    ふーっと溜息をついて、口を開いた。
    「確かに、めったにないな。こういうことは」
    テーブルにある真っ白な皿を二枚手にし、一枚を鯉登に渡す。
    「鯉登さん。食いましょう」
    「は?」
    月島はさっさと食事を取りに、場を離れ。
    「つ……月島っ」
    慌てて鯉登が追いかけてくる気配を感じる。
    とにかく食べて飲めば、場の空気に呑まれるだろう。

    好きなものを盛りたいだけ盛ってあっという間に皿をいっぱいにしてしまった鯉登は席に戻り。月島はまだ食事を選んでいた。
    「月島さん」
    隣から声をかけられ、振り向く。
    そこには皿も持たずに立っている尾形がいた。
    「……お誕生日おめでとうございます」
    「おう。有り難う」
    小さい声で言われたお祝いの言葉に少し笑ってしまった。
    「よく来てくれたなお前」
    こういうの断りそうなのに、と月島は思う。
    先程の小声のお祝いといい、本人もキャラではないと思っているらしい。
    「月島さんには世話になってるんで」
    おめでとう。よりは大きな声で、尾形が口を開く。
    「それに、あのボンボンが俺をちゃんと誘ったってことは、誉めてやってもいいかなと」
    少し不本意そうではあるが、ここに来ていることが尾形の敬意の表れだろう。
    「月島さんを自慢したい意図が見えるのが腹立ちますが」
    「……そうなのか?」
    今更、自分なんて自慢してどうするのだろう。
    尾形はそう言うが、月島にはよく分からない。
    「そうですよ。やつの居るところで声かけたくなかったんで。月島さんが一人で居るの狙って声かけました」
    「もうちょっと仲良く出来ないのかお前ら。一応、鯉登さんは上司だし」
    というか、ある意味では分かり合っているようにも思えるが。自分には、いまだに尾形の言う自慢とやらの意図が分からないのに。
    「無理ですね」
    ものすごく真顔で尾形が言う。嫌ではなく、無理と言うあたり根が深い。前世からの因縁でもあるのかこいつらは。
    「誕生日プレゼントだと思って」
    「……多少は善処します」
    そんな尾形でも誕生日を持ち出すと。たとえ口だけだとしても、そんな答えが返ってくるのだから誕生日は偉大である。


    その後も、次から次へと声をかけられ。
    口々におめでとうと言われる。
    祝って貰うような年でもない。パーティなんて大層な。と思っていたが、こうやって祝って貰うことは思ったよりも嬉しい。
    そうこうしながら、なんとか皿をいっぱいにし。月島が席に戻ってきたときには、逆に鯉登の皿は空っぽになっていた。
    「遅いぞ月島。もう食べてしまった」
    「すみません。みんなが声をかけてくれるので」
    「ああ。それを見とった。ここから」
    何故か鯉登が嬉しそうである。
    自分の誕生日でもないのに。
    「たまにはいいだろう。こういうのも」
    満足そうに鯉登が笑う。
    どうだ。良いことをしただろう。誉めろ。と、顔に書いてある。
    「……はい。有り難うございます」
    それに釣られるように月島も微笑み返した。





    思い思いに食べて喋って、最後に全員で写真を撮ってお開きとなった。最後の最後まで鯉登が仕切って絞めの挨拶をしていたが、最後に月島も一言喋れと言われたので本当に一言だけ改めてお礼を言った。

    さあ。家に帰るかと月島は思ったのだが。
    今日の鯉登は、どこまでもサプライズをしたいらしい。

    「どうりで家を出るとき、妙に鯉登さんの荷物が多いなと思ったんですよ」
    左手に小さめのボストンバッグを持ち、右手にカードキーを持ってホテルの廊下を歩く鯉登の隣を歩きながら、月島は言った。
    「せっかくだしな。どうせなら部屋も取った」
    「全然帰れる時間なのに」
    鯉登の荷物に言及している月島も、家を出たときは財布とスマートフォンぐらいしか持っていなかったにも関わらず。今は、なんやかんやとプレゼントだと言って貰った荷物で手はいっぱいである。
    カードキーに書いてある部屋番号を確認し、ここだ。と言って鯉登が鍵を開ける。
    「スイートルームでも取るかと思ったが、さすがに月島が引きそうだったからやめておいた」
    扉を開けながら、とんでもないことを言う。
    「賢明です。確実に引きます」
    開いた扉の先がスイートルームだったら、月島は家に逃げ帰っていただろう。もったいないが、絶対に落ち着かない。
    鯉登の後に続いて入った部屋は、こじんまりとしつつも清潔感のある一般的なホテルの一室だ。
    そのことにホッと息をついた。やめておいたと言うから当たり前なのだが。今日の鯉登なら、サプライズの為の前フリという可能性もゼロではない。
    ツインではなくダブルを取っていることに関しては、もはや何を言う気もなく。むしろツインで取っていたら、どうしたのかと心配するところだ。
    お互いに荷物を部屋の隅に置き。
    さて。と、なんとなく顔を見合わせた。
    「ところで鯉登さん」
    「なんだ」
    「俺の気のせいでなければ、まだ鯉登さんから言って貰ってないと思うんですが」
    月島が言うと、にやりと鯉登が口の角を上げた。
    何を?とは言わず。
    「気付いてたか」
    鯉登はそう言った。そんなことだろうとは思ったが、あえてやっているのだ。もったいぶっているつもりか。
    「当たり前でしょう」
    今日一日、沢山の「おめでとう」を言われたが。
    鯉登の口からは、一度も聞いていない。
    「あの状況では、その他大勢の中の一人になってしまうからな」
    「その状況をセッティングした本人が何を言ってるんですか」
    「それもそうだが。それはそれ、これはこれだ」
    堂々と言い放つ鯉登に。
    まったくもう。と、思いながら月島はベッドに腰掛けた。
    鯉登がそれに続いて隣に座るのを見届けてから。
    「……で。言ってくれないんですか?」
    ちらっと視線をやりながら、ゆっくりと口を開いた。
    「月島は言って欲しいのか?」
    鯉登は少し意地悪な言い方をしてくる。
    分かっているくせに。
    「言って欲しいに決まってるじゃないですか」
    隣に座る恋人は、自分に言わせたいだけなのだ。
    「最初に言ったでしょう。貴方が言ってくれたらそれだけで十分だって」
    それが、どうしてこうなるのかはさておき。なんだかんだで、今日のことは感謝している。
    けれども。一番欲しいものを貰っていない。
    「誰に祝われるよりも、好きな人に祝って貰うのが一番嬉しいです」
    欲しいものを貰うために、鯉登が欲しがっているであろう言葉を言ってやった。
    「…………んッ」
    なのに欲しいものよりも先に、唇が降ってくる。身体を両腕で固定され深く口付けられた。
    ようやく離れていったので、いつまでもったいぶるつもりだと言ってやろうと口を開きかけたところで。
    「月島。誕生日おめでとう」
    やっと欲しかったものを貰えた。
    今日一日、待ちに待っていたものだ。
    「あ……有り難うございます」
    散々じらされた分、いざ言われると急に恥ずかしくなってくる。
    顔が熱くなってきたのを誤魔化すように、鯉登の胸に顔を埋めた。
    鯉登の腕が背中にそっと回る。背中に手のひらの体温を感じながら。
    月島は月島で、今日一日言えてなかったことをようやく口にした。
    「あの……すみません。何もしなくていいなんて言って」
    今日のことは、鯉登が勝手に暴走した結果であることは間違いないが。それを招いたのは、自分がちょっと鯉登をないがしろにしたからだということは分かっている。
    なので、そこは素直に謝らなければいけない。
    「そうだぞ月島。恋人をなんだと思ってる」
    言いながら腕の力が少し強くなる。
    「今日は有り難うございました」
    「うん」
    今回の反省をいかすならば。少し、いやかなり気が早いが。
    「あの鯉登さん……今日みたいなのも悪くはないですが。来年は二人っきりでお願いします」
    先に希望を伝えておくべきだろう。
    「そうだな。来年はそうしよう。……今度こそスイートルーム取るか」
    「それは勘弁してください」
    顔を上げて即座に言うと、鯉登は悔しそうな顔をしている。どうやらスイートルームに未練があるらしい。
    そんな鯉登には申し訳ないが。
    「家がいいんです。家が」
    やっぱり我が家が一番で。
    二人で暮らすあの家が居心地がいいのだ。
    「家が一番ということには同意するが。……ひとまず」
    「……!」
    突然、身体が押し倒されて、ぽすんとベッドに埋まる。
    「せっかくふかふかなベッドなんだから、やるべきことは分かってるよなぁ月島」
    「あの……先にシャワー浴びてきていいですか?」
    いずれそうなることは分かっていたが、展開が急だ。
    もう少しのんびりと時間を過ごさせて欲しかったので、時間稼ぎに言ってみた。
    シャワーを浴びて、最後に一杯ぐらい改めて乾杯でもしたい気持ちなのだが。
    なのに、鯉登の手が月島のネクタイに延びてくる。
    「いいが、おいに服を脱がさせっ。着せるのも楽しみにしてたが脱がすのも楽しみにしちょったんじゃ」
    「はぁ?なんですそれっ」

    自分の誕生日なのに、なんだか鯉登が一番楽しんでいないかと思わないでもないが。
    それはそれで、いいかと思うことにした。

    誕生日に大事な人が楽しそうにしているのは。
    嬉しいものなので。








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