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    sari

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    sari

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    ルックと坊ちゃん、観察者2主くん。3の後に。

    天秤よく僕らを見つけたねと笑うリオは、とてもあの時と同一人物には見えないなあと。
    その、秋の日の日だまりの様な、ほっとする雰囲気と柔らかな表情を前に、僕の頬はほんのりと熱を帯びるのだった。

    グラスランドのただ中に連行されたのは記憶に新しい。
    ある日いきなり現れたリオは、触れたら切れそうな剣呑な気配を隠そうともせずに「お願い」という名の命令を下した。
    他国の王である僕に向かい。
    リオがどこまでを把握していて、何をして、結局どうなったのかは最後まで僕にはよく分からなかった、その近くて遠い国の騒動は。
    怒れる元英雄の介入により誰が悪なのかをより曖昧なものとした。

    騒ぎの元凶ともいえるルックの命を、リオは持ちうる全ての力を総動員して繋ぎ止めた。
    ルックから分かたれた真なる風の紋章は、トランのやたらめったら強い魔法使い達と、その中のライバルとやらに声を掛けられたメイザースと、リオに
    「いくらでも飲めばいい」
    と言われその美味しそうな血に釣られたシエラさんまでをも巻き込んで、再びルックと結び着いた。

    今度は魂ごと絡めとるような結びつき方ではなく、その肉体に宿る、ごく普通(?)の繋がり方で。
    生と死を司るのだというリオの紋章は、とても珍しく宿主の言う事を聞いてみせて。
    僕の紋章を容赦なく使役してルックの命を繋ぎ止めた。
    そうして紋章からの解放を願ったルックは再び、この地上に縫い付けられたのだった。

    「通り過ぎる予定だったのだけど、ルックの眠気が限界で。
    駆け込んだこの宿で、取り敢えず部屋が空くまでこの予備の部屋を解放して貰ったんだ」
    この街の人は優しいねと笑うリオに、貴方だから優しくするのだとはあまりに野暮なので言わないでおく。

    ルックはいろいろ無茶をし過ぎて、時々こうして起きていられなくなるのだと言う。
    容赦なくリオに使われた後の僕もそんな感じだったので、それが抗えないものなのだという事はよく知っている。
    リオが端に座るベッドの真ん中で、ピクリとも動かない毛布の山がきっとルックなのだ。

    「近くまで来たなら城に寄ってくれたらいいのに」
    僕は不満を隠そうともせず、部屋唯一の椅子に背もたれを前にして寄りかかるように座りながら抗議する。
    聞いて貰える訳もないけれど、何度も言えば1度くらいは思い出してくれる事もあるだろう。
    この人が欲しければ長期戦を覚悟しなければならないのだ。
    何せリオは、助けた命に責任を持って。
    こうして一緒に旅に出て四六時中一緒に居る。
    「忙しいリオウの、邪魔になってしまう」
    「まさか!クラウスだって『久しぶりにチェスのお相手を』って言ってたよ」
    「クラウス殿には、チェスよりも本を…国境の街に、彼好みの本があったのだけれど。
    次に寄ったら買って送る事にするよ」
    「ずるい。贈り物なら僕にも」
    「そうだね、では君には珍しい食べ物でも。
    日持ちする、ちょうど良いものを見つけたら。必ず」
    そう言ってまた、くすりと笑う。

    この人が、ルックの命を救うのに手を貸せと要請するために城を訪れた時。
    真っ先に承諾したのはクラウスだった。
    「あれは、ジル様を泣かせたルカ・ブライトを、1撃で沈めた時の顔より、なお悪い」
    そう、声を震わせながら。
    ハイランドで何をしていたんだ、とか、ルカを1撃?とか、聞きたい事は山盛りだったけれど、そのただならぬ雰囲気に全部押しのけて「行く」と答えた。

    結局それは大正解で。
    無表情に程近いリオに。
    「断っていたらどうなっていた?」
    と好奇心に負けて聞いてみたところ
    「その紋章を剥ぎ取ってクロウリーかロッテに付けていただろうね」
    と淡々と言われた時に、僕はやっとルックを呪った。
    何をしでかしてくれていやがると。

    このようにやたらと執着していたルックの命を大勢の人を巻き込みながら助けた後リオは。
    正確には、報酬だとシエラにその血のほとんどを吸われ2日意識を無くして目覚めた後のリオは。
    憑き物が落ちたようにその苛烈な感情を収めていた。
    ルックが、生きているならそれでいいと。

    「本当は、物より顔を見せてくれるのが1番なんだけど。ねえリオ。療養に最適な環境を整えるから、ここにとどまってみない?」
    僕は駄目元で何度目になるかわからない誘いをとても素直に口にした。
    僕のこの無邪気さを、殊更リオは買っていることを知っているから。
    なにしろこの人の周りには魑魅魍魎しか跋扈していないのだ。
    凡人枠万歳。

    「リオウがルックの面倒を見てくれるなら、置いていくのも吝かではない」
    「やめてくださいぼくがルックにころされます!!」
    「やだな。もうそんな事、ルックはしないよ」
    早口で捲し立てた僕に、リオウの敬語も久しぶりだと暢気に笑うリオは何もわかっていない。

    天秤の上の、執着と言う名の重い分銅は。
    リオの皿から場所を変え、今度は全てルックの皿の上に乗ってしまっているのだという事を。
    軽やかになったのはリオだけで、重い重いその塊は、消えて無くなってなどいない事を。
    この二人はいつだってバランスに欠けている。
    戦争中、そのバランスをある程度保てていたのは多分シーナのお陰で。
    調整役が居ないと零か百しかないのかと思えるくらい極端なのだ。
    きっと、本当に遠慮なく…魔力や紋章においても、気心という点においても…つき合えるのがお互いだけなのを。
    不器用にも程がある二人が共に理解していないからなのだと僕は考える。
    僕とジョウイも。
    傍から見たら、きっとこのように極端な関係だったから、理解できてしまえるのだ。

    「リオが目の前から居なくなったら、今度こそ世界全部を滅ぼしますよ。そこの魔王は」
    「リオウはとても大袈裟だ」
    「リオだって、ルックが助からなかったらそうしてたんだ。絶対」
    「断定?」
    「でしょ?」
    「僕をのけ者にするからこんな目に合ってしまって」
    「もしルックが真っ先に仲間に引き入れてたら?」
    「ねえリオウ。皆一緒なら、寂しくないと思わない?」
    目覚めない眠りだって。
    なんて穏やかな顔で、酷い事を言う人だ。知ってた。
    しかし、ジョウイを巻き込んだルカよりも思考回路が最悪だとは。
    「僕、何かをしでかす時は必ずリオに言ってからにする」
    「君相手なら、目を覚ませって一撃かなあ」
    「なにそれひどい!」
    僕とでは一緒に地獄に落ちてもくれないなんて。
    差別だ断固抗議すると、それまである程度は控えていた声がここから大きくなってしまった事は認める。
    認めるけれどだけどあんな。


    ゆらりと、ベッドに腰掛けるリオの後ろでとても緩慢にその身を起こしたルックは。
    僕やリオが何か声を掛ける前にするりと。
    片手でリオの目を背後から覆い視界を全部閉ざしてしまって。
    もう片方の手をその自身の、薄い、きゅっと引き結ばれた口の前。
    細く節の目立た無い、長い指を1本立てて僕に声を出すなと、示した。

    寝起きで端を微かに赤くした目は細められ、不機嫌さを少しも隠そうとはせずに。
    さらりとすべる、細く輝く髪は寝癖など知らぬ艶やかさをやたらと見せ付けてくる。
    その顔面も雰囲気も、僕に言葉を飲み込ませるには十分な威力だと言うのに更に。
    立てられたままの指をくるりと回しこちらを指差すと。
    そのままゆっくりと口をあけて。
    唇を読むのが結局下手なままの僕でも明確にわかるように
    「 じ ゃ ま 」
    とだけ動かして。噤んだ。

    「ルック?」
    視界を遮られたリオが、あまり動じた様子も見せずにその名を呼ぶと。
    「なに」
    微かにかすれた、それでも鈴の鳴るような声でリオの耳元。
    短く答えて、口の前の手でゆらゆらと、今度は億劫そうに僕を追い払う仕草をする。
    虫を払う時だって、もっと機敏に手を動かすものではないかなあ!
    こんなに気怠く、それでいて激しい自己主張する生き物、僕は他に見た事がない。

    この怠惰でやたらと美しい人でなしの我が儘を。
    無視するとその手に戻った風の紋章で切り裂きを掛けてくるのは目に見えているので。
    親切な宿の主人に迷惑を掛けない様に、僕は静かに立ち上がりドアに向かい。
    扉を閉める瞬間に子供の様に「べっ」と思い切り舌を出して退散した。

    リオ・マクドールという力を手に入れるには、まずはあの生ものを独り立ちさせねばならない。
    もう一度言うが長期戦は必至である。
    今は二人天秤の上、感情を行ったり来たりさせている最中なので引き際を間違えないようにするのみだ。
    いつか必ずその天秤を壊し、地べたで同じ土俵に立ってみせる。
    何しろ不老の僕ら。
    時間だけは余りあって仕方ない。
    本日のこのイライラも、僕は忘れず書き付けて。
    いつの日か全部まとめて倍返ししてやるのだ。
    幸いなことに、あの麗しさはリオを惑わすものでは決してないようなので…それもどうなのとリオに問い質したい気もするけれど…。
    あと50年くらいなら。僕が大人しく王様をやっている間くらいは、せいぜい二人で旅路を行くがいい。
    君と同じように世界だって、美しいことを知っておいで。


    戻った視界の中に、リオウは居なかった。
    「何を言ったの?」
    「なにも。僕の口はずっとここにあった」
    君の耳のすぐそばに。
    知っているだろう?
    と涼し気な顔をするけれど、音にしなければ言葉ではないとでも思っているのだろうか。
    まあ別に構わないのだけれど。
    「まだ寝る?」
    「寝る」
    「わかった。もう誰も入れないよ」
    君の眠りを邪魔するものは。
    リオウの事だって、宿の主人が国の王直々の出現に慌てていたので部屋に入れただけなのだから。
    そう言った僕の顔をルックはじっと見て。
    何を思ったのか座る僕の帯に指を絡ませてから、その本体をまた毛布へと潜り込ませた。

    …吝かではない、の時にはもう起きていたのか。
    これでは買い物にも行けないなとひとつため息を吐いた僕は。
    手を伸ばし指をひっかけ、何とか荷物を手繰り寄せて。
    冬がはじまる前の、午後の強くない柔らかな日差しを頼りに。
    2つ前の街で買った、幸せな結末ばかりを集めた短編集を静かに開いた。
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