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    sari

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    sari

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    猫は寒さに弱いので

    冬の黒猫はらはらと空から六花が舞うそんな季節が訪れると。
    シーナは寝床に毛布を一枚、追加で持ち込み比較的大きなベッドの脇へと用意する。
    グレッグミンスターでは街に積もる程、雪がたくさん降る事は少ないが。
    それでも夜は冷たく、風は等しく全てを平等に凍えさせる。
    冬の夜は早く長く。短い昼の中に仕事を凝縮させる、勤勉な人々の眠りは他の季節よりずっと。長くて静かなものだった。

    そんな夜深、既に眠りの中に落ち着いたこの街に、辿り着いた旅する獣がふらりと一匹。
    吐く息は白くけぶり、夏でも冷たい指先は手袋の下にあっても人としての温度を無くして凍えている。

    昼に辿り着けなかったから。
    いつものように通り過ぎようともしたのだけれど。
    「にゃー」
    わざと口を空に向かい、大きく開けて鳴いた声すら凍るのだから。
    温かい場所を求めてしまうのも仕方ない。
    だって猫なのだ。君がそう呼んだから。

    音も立てずに開けられた窓が、きちんと閉められたのでシーナは心底安心した。
    流石にこんな寒い季節に窓を開け放たれてしまっては身に染みる。
    足音を立てない黒猫が、落とす布の微かな音でだんだんとシーナに近づいて来ているのが分かるから。床で丸まる気は無いのだと知って、これにも安堵の息を吐いた。
    そこまで確認し、脇に置いた毛布に手を伸ばしたところで。
    横に回らず足元からもぞりと入ってきた侵入者の冷えた手が、自分の足先をひたりと掴んでくれたものだからたまらず息を飲み、触れられた個所を震源地とした震えがたちまちシーナの全身を襲う。
    咄嗟に予備の毛布を掴むのとは反対の手を足元へと伸ばし、侵入者の手首を掴み一気に上へと引き寄せて。
    文句の一つくらいは許されるだろうと、覗き込んだ目が真ん丸に、驚いたように見開かれていたものだから。
    シーナの方が何倍も驚いたに違いないのにそのあべこべぶりに笑ってしまって、敗北が確定した。
    「逆だろそこは」
    その驚きに固まった顔は反則過ぎる。
    触れる肌はどこも冷たく、なのに半袖のシャツくらいしかまともに着ていないから急いで自分の体ごと、引き寄せた毛布でくるんで抱え込んだ。
    「冷たっ!氷か?服、脱がなくてもいいのに」
    「セイラにはとても会えないくらい、ひどく汚れた格好だったから」
    シーナが怒っていないとその言葉で知ったリオは、これ幸いと暖を求めてその手を容赦なくシーナの服の中にするりと忍ばせて、更なる震えを彼に与えながらぎゅうぎゅうとくっついてくる。
    ひゃーとかぎゃーとか小さく頭の上からあがる悲鳴を全部きれいに無視した黒猫は。
    顔に触れるシーナの夜着をすんすん鼻を鳴らして嗅いだ後。
    「うん、覚えてる」
    それだけを呟いてすぐ、その小さな体を重くした。
    体温と臭いで安全な巣と認識し、安心してしまったのか即座に寝落ちした、そのまだ冷たい体を改めて抱え直したシーナは。
    我ながらとんでもないものを手懐けたものだと自分の猛獣使いぶりに感心して、また頬を弛ませた。
    セルゲイの発明した、いつもは寝ている間に温かくなりすぎて使わない特製の毛布がちゃんとその小さな背中を全て覆いつくしていることを確認してから。
    「おやすみ黒猫」
    温かい場所を探して彷徨わせるような、一人冷たい寝床で丸まらせるような。
    そんな事をこの街でさせずに済んでいることに満足して。
    少しも温まろうとしない体温すら頑固なその体をぎゅうと強く抱き締めた。
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