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    らくさぶ🚬

    20↑、男前が右側に居るのが好物

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    らくさぶ🚬

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    クスとみせかけてのスダもしくはダス

    「〇〇ないと出られない部屋」 皆が帰った事務所でひとり、ファイルに目を通していると胸ポケットに入れていた私用の端末が着信を報せた。
     クラウスだ。
    「なんだい?」
    「資料室に居るのだが、君に見てもらたいものがあるのだ」
    「わかった。すぐ行くよ」
     通話を終えてふと見た時計は11時を過ぎており思ったより時間が経っていたことに驚く。
     だがそれよりクラウスがまだ居ることに驚いた。いつも通りとっくに帰ったと思っていたが一体何を熱心に調べているのだろう。
     僕は大きく声を出しながら伸びをし、のそのそと資料室へと向かった。


    「クラァウス、見せたいものってなんだい」
     最低限の照明で薄暗い廊下を行き、そのドアを開ける。けだるく語りかけながら一歩踏み込み、だが僕はびくりと震えて足を止めた。
    「あ、あれ?!」
     僕は資料室に来た。でもここは――
     目の前に見たものを信じられず廊下に戻って確かめようと一歩退いた。
     が、後ろから力強く押し戻されてしまった。
    「わっ!」
     前につんのめり二歩、三歩と室内へとたたらを踏む。その間に背後でドアが閉まり鍵が締められた。
    「え、え!」
     慌てて振り向きノブを回したが外からロックされたドアは開かなかった。
    「スティーブン」
    「クラウス?! そこに居るのか、これはなんだ!」
    「今その部屋は条件を満たさなければ出られないようになっている」
    「はあっ?!」
    「サイドテーブルに書類がある、要項はそれを見てもらいたい。では明日、共に朝食をとろう」
    「なっ……? 朝食??」
     クラウスは一方的にそう告げると靴音を響かせ行ってしまう。
    「待て! クラウス!」
     無駄と知りながら叫んだが、当然、靴音が戻ってくることはないのだった。


    「なんだ、なんなんだ」
     僕はクラウスに呼ばれて資料室に来た。間違えるはずなどあろうはずもないのに、今居るこの部屋は仮眠室なのだ。
     空間転移の術式で部屋を入れ換えたんだな。
     だが何故そんなことを。「見てもらいたいもの」と関係が? 謎解きの手掛かりとして僕はとりあえずサイドテーブルの要項とやらを見た。

    《 八時間ベッドの上で過ごす 》

    「――――?!」
     簡潔なその一文に僕は天を仰ぎ、額にぺしりと手を置く。
     こんなの謎でもなんでもない。単に「寝ろ」ということだ。
    「ふっ、ふふっ」
     そうか、だから朝食か。
     ふつふつ込み上げてきた笑いはついには大笑いとなり僕は背中からベッドに倒れた。
     いつも休め休めと言うのを無視するつもりはなかったが、こんなイタズラまがいの実力行使に及ぶというのは想定外だった。
     休む目的のこの部屋にパソコンはない。テレビさえ備え付けていない。仕事用の携帯もデスクに置いてきた。そんな状況でできることといえば、そう眠るだけ。
     僕は早々に観念して靴を脱ぎ、身体全体をベッドに預けた。
     ヘッドボードのスイッチで明かりを消して目を閉じる。しかしまんまとハメられた悔しさと可笑しさで神経が昂ぶってなかなか眠くならない。
     仕方なくまた目を開き、唯一持ってきていた私用の携帯電話――カードサイズの通話とショートメッセージ機能しかない――を取り出して電話をかけた。


    「やぁ、ダニエル。もう寝てたかな」
    「いや。どうした、渡したデータに不備でもあったかよ」
    「いやいや、そうじゃなくてさ。ちょっと聞いてくれないか」
     と、僕は事の顛末を話して聞かせた。
     聞き終えるとダニエルは僕と同様に大笑いをして「よくやった!」とクラウスを称えたのだった。
    「ラインヘルツがやらなきゃ俺が拉致監禁して無理やり寝かせてたところだ」
    「なんだいそれ」
    「今日会ったとき言わなかったが、おまえクマがヒドいぞ」
    「君にだけは言われたくないな」
    「だから言わなかったんだよ」
     寝不足なのはお互い様。離れた場所で僕らは今きっと同じように携帯を耳に当てて苦笑いをしているのだろう。
    「今日も帰ろうとは思ってたんだけど、目の前に仕事があったら気になってしまうだろう」
    「俺の所為みたいに言うな」
    「それ。君の所為にするなら、もっと別の意味で寝不足になりたいね」
     僕は唇を弾いて回線越しにキスを送る。最近は忙しくて二人の時間が取れていない。日中会ったのは飽くまで仕事でのことで甘い言葉を交わす余裕もないのだった。
     窓のないこの部屋は照明を消すとほとんど闇だ。その中で小さなディスプレイで仄かに室内を照らし、愛しい人の声を響かせるこのローエンドな携帯電話を僕は指先で愛撫する。
    「会いたいなぁ」
    「だったら尚更ボスの言いつけを守れよ。勝手が過ぎるとそのうち籠の鳥にされるぞ」
    「それは困る」
    「だろう? それなら今夜もイイコに、もう寝ることだな」
    「――お休みのキスはくれないの?」
     耳にこそばゆくキスの音を残してダニエルは通話を終えた。
     僕はその携帯を枕の上に置いて、明日の朝食を想像しながら目を閉じた。


    (オワリ)
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