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    11月23日ネタ、ダとスにマー

    【brotherhood】 二ヶ月に一度くらい、兄さんは僕のためだけに一日を費やす。
     せっかくの休みをわざわざ僕と合わせて、前の晩から僕の部屋に泊まり込んで翌日は丸々一日ずっと一緒に過ごすのだ。
     といっても別段したいことがあるわけでもないから、ただのんびりするだけの休暇になるんだけど。


     朝は昼くらいまでゴロゴロと惰眠をむさぼる。日頃の寝不足を補おうと二人してベットにしがみついて、でもそのうち空腹に負けて起き出し街へと繰り出す。
     せっかく二人揃っての休暇だ、奮発して三ツ星レストランに行ってみたってかまわない。でも堅苦しく特別に凝ったような料理を食べたいとは思わないから、せめてちょっとだけ足を伸ばして人気のダイナーへ行ってみる。
     いつも食事は時間に追われてせかせかと口に押し込んでいるようなものだ。それをこの日は席に座ってゆっくりと楽しむ。昼からビールも頼んで陽気になって取り留めのない話をして笑い合うのだ。
     食事が終われば、たまのショッピングをしにモールへ。とりあえずそれぞれ必要な食料品と日用品を買い溜め、それから服も。着る機会の少ない私服はわざと奇抜なのを選んで兄さんに押し付けるのが僕の愉しみ。
     用事が済んだらふらふらと施設内を冷やかして歩き回る。まれに万引き現行犯を目撃しちゃったりするけれど、店員に報告だけして面倒に巻き込まれる前にそそくさと立ち去る。せっかくの非番に仕事なんてしたくないのだ。
     そうこうしているうちに暗くなって、今度は兄さんの部屋に泊まりにゆく。
     夕飯はほぼ酒のつまみ。ケースで仕入れてきたビールにさっき買ってきたデリ。それから一品兄さんが作ってくれる。得意なメニューは鶏手羽のコーラ煮。鶏を焦げ目が付くまで焼いてコーラ注いでニンニクとコンソメ入れて、あとは汁気がなくなるまで煮るだけ。簡単美味しい男の料理だ。
     二人でソファに並んで座ってビールを飲みながら映画を観る。ゆったりした時間は心地よくて僕は兄さんの肩に頭を預けて微睡む。時には二人して互いに寄りかかって寝てしまうこともあって、結局映画はもう一度観る羽目になるのだった。
     やがて時間は過ぎ、変哲もない「非日常」な一日は終わりだ。僕らは名残惜しく一緒にベッドに潜って「おやすみ」とキスを交わして眠りにつく。
     寝て起きればまた異常な日常が始まるのだ。せめて良い夢を──


    「──というわけで、明日はこういった予定になっているので。おあいにくさま」
    「は、はぁ」
     スティーブンは電話向こうに出た、掛けた相手とは別の人物に滔々と惚気けられた末に一刀両断されて言葉を失った。
     ダニエルが明日休みである情報を得たスティーブンは食事に誘おうと電話を掛けたのだった。が、電話に出たマーカスに子どもじみた独占欲で本人の意向も関係なく断られてしまったのだから呆然とする他ない。
     どう返事したものかと考えあぐねるスティーブンの耳に電話向こうで交わされる会話が遠く聞こえてきた。
    「マーク? 電話してるのか……って、それ俺のじゃねぇか!」
    「うん、スティーヴから。明日、兄さんとデートしたかったみたい」
    「あぁ?!」
     そんなダニエルの怒声に続きドタバタと足音が近付き、電話は唐突に切れた。


     掛け直したものかどうか。スティーブンの指は端末の画面にぎりぎり触れるか触れないかの位置で止まる。その逡巡の間に電話は先に着信を報せた。
     ダニエルの端末からだ。とはいえ先のことを考えると掛けているのがダニエルとは限らないのだからスティーブンはおそるおそる電話に出た。
    「俺だ」
     そう応えたのはダニエルの声だった。
    「すまん、マーカスは黙らせた」
     謝るダニエルの声に重なって「兄さん、痛い痛い」とくぐもったマーカスの声が微かにスティーブンの耳に届いた。どうやら物理的に黙らされているようだ。
    「で、さっきの話だが──本当か」
    「あぁ、うん。でもマーカス相手じゃ勝ち目はないよね」
    「悪い」
    「わかってる。明日は兄弟水入らずで弟孝行してくれ」
    「なんだ、ふてくされてんな。羨ましいか」
    「まぁね」
    「おまえだっているだろ、可愛い弟が。時間あるならたまには労ってやれよ」
    「弟? ははっ、クラウスか。そうだね、レストランの予約キャンセルしないで二人で行ってこようかな」
    「こっちの都合も訊かねぇで勝手に予約してんな。しかも当てつけかよ」
    「そう。だから埋め合わせ期待してるよ」
    「そもそも約束してねぇだろ。だけど──」
     ふいにダニエルは声を潜めた。
    「誘ってくれたのは嬉しかった」
     Thank you.
     ぶっきらぼうに呟かれたその言葉はスティーブンの耳と胸にこそばゆく響いて、断られてしまったことなどそれですべて帳消しだった。
    「うん。今度は君からの連絡を待ってるから」
    「わかった」
    「ダニエル」
    「ん?」
    「愛してるよ」
    「……俺もだよ、スティーブン。愛してる」
     滅多に口にしない言葉を最後に告げて、ダニエルは電話を切った。

    (オワリ)
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