忘れ難き味 ドンドンと扉を叩く音に、眠りについていた厭離は起こされた。
「姉上……!」
扉の向こうの姉に向かって江澄は声を上げた。父にも母にも言ったら絶対に怒られるに決まっていて怖くて言えないから、江澄には姉に頼る以外の道は無かった。厭離は一体何があったのだろうと思ったのか、急いで扉を開けてくれた。
「阿澄どうしたの?」
「姉上……姉上、どうしよう!」
厭離の顔を見た瞬間、堪えきれなくなり江澄はわんわんと声を上げて泣き出してしまった。
今日、父は江澄が妃妃や小愛と名前をつけて可愛がっていた犬達を知らぬ間に他所へあげてしまっていた。江澄がそのことを知ったのは彼女達がもうずっと遠くに行ってしまってからだ。そんなの絶対に納得がいかないし、悲しくて苦しくてどうして良いか分からないまま夜になってしまい、江澄は部屋でずっと泣き喚いていた。
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